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会長声明集
2024年(令和06年)05月10日
犯罪被害者の同性パートナーが犯給法上の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得るとの最高裁判決を受けて(会長声明)
日本司法書士会連合会
会長 小 澤 吉 徳
令和6年3月26日、最高裁判所第三小法廷は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(昭和55年法律第36号。以下「犯給法」という。)に定める遺族給付金の支給の対象者について、「犯罪被害者と同性の者は、犯給法第5条第1項第1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得ると解するのが相当である。」との判断を示し、原判決を破棄、名古屋高裁に差し戻した。
判決理由中において、犯給法第5条第1項第1号の解釈については、犯給法に基づく犯罪被害者等給付金の支給制度が、犯罪行為により不慮の死を遂げた者の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的としていることを踏まえる必要があるとしたうえで、支給対象に「事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」を掲げているのは、犯罪被害者の死亡により、民法上の配偶者と同様に精神的、経済的打撃を受けることが想定され、その早期の軽減等を図る必要性が高いと考えられるからと解されるところ、その必要性が高いことは「犯罪被害者と異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとはいえない。」とした。
前記のとおり、立法府の法改正を要することなく、立法趣旨及び制度目的に照らして保護すべき権利を明確にしたうえで規定の解釈を行い、同性パートナーを遺族給付金の支給の対象となり得ると判断したことは、現行の法制度の狭間で取り残されている性的少数者の救済に資するものと考えられる。
第一審及び控訴審では、本規定は婚姻の届出ができる異性間であることを前提としていること、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)においては別途の立法措置を経ていること等を理由に、具体的な事情にかかわらず、同性パートナーは犯給法上の遺族給付金の支給対象者に含まれないとの判断をしているが、立法の不作為により問題が生じているにも関わらず、結局は立法府の裁量に委ねられるとすることは、特に声を上げることが困難である性的少数者の問題においては、司法制度の根幹を揺るがすものであり、本判決によりそのような誤りを正したことは高く評価できる。
なお、補足意見において、類似の文言が用いられている法令の規定が存在するが、本判決はそれらについて判断したものではなく、各規定の趣旨に照らして解釈を行い、規定ごとに検討する必要があるものとしている。しかし、規定ごとの検討を要するのは当然としても、本判決は国の公的給付における同性パートナーへの適用に関する初めての最高裁判決であり、本判決の法解釈の方法は他の社会保障制度においても重大な指針となり得るものであると考える。
また、本判決は、本件の上告人が犯罪被害者との間において、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当するか否かの判断については、更に審理を尽くさせるため原審に差し戻している。この点、名古屋高裁は、異性間の場合と同様の事実婚関係を認定し、速やかに判断をするべきである。
当連合会は、遺族給付金に関する本判決を支持するとともに、同趣旨の社会保障制度においても同様の柔軟な判断と運用がなされ、性的少数者に対する差別が解消されることを強く求める。それと同時に、本件のように幾度も争いが起きることを防ぐため、法の解釈について規定に明記することも求める。
本判決を受け、本年4月9日、国家公安委員長は、参議院内閣委員会での質疑に対する答弁にて、都道府県警察に対し、判決内容を周知し、被害者と同性であったことのみを理由に不支給裁定とすることのないよう通知したことを明らかにしており、現場での対応が進められている。
当連合会は、国民の権利擁護を使命とする司法書士の立場から、性的少数者の人権擁護のための相談・支援・啓発活動に努めてきた。今後の立法を注視しつつ、これらの取り組みを継続していく所存である。