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会長声明集
2023年(令和05年)12月05日
生活保護基準引下げをめぐる名古屋高等裁判所令和5年11月30日判決に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小 澤 吉 徳
名古屋高等裁判所令和5年11月30日判決は、平成25年以降に行われた大幅な生活保護基準の引下げについて、これを、生存権を保障した憲法第25条に反するなどとして、生活保護の減額処分の取消し等を求めた訴訟の控訴審において、原告の請求を認容する判決を下した。
生活保護基準の引下げの違法性を争う訴訟は全国29の地方裁判所に提起されており、今回は大阪高等裁判所令和5年4月14日判決に続く、二件目の控訴審判決である。
一連の訴訟では、物価の下落分を反映させるためとして行われたゆがみ調整やデフレ調整といった、生活保護基準の改定の基礎となる計算方法に不備があったことが追及されてきた。
全国に先駆けて言い渡された、本件控訴審の原審である名古屋地方裁判所令和2年6月25日判決は、生活保護基準の決定に関して厚生労働大臣に広範な裁量権があるとして、原告の請求を棄却した。
しかし、一連の訴訟の過程で、ゆがみ調整やデフレ調整をはじめとする生活保護基準引下げの根拠の矛盾点が次第に明らかとなり、今年に入ってからは各地で原告勝訴の判決が相次いでいたことから、今回の控訴審は注目されていた。
生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の水準を具体化するもので、統計の数値や専門的知見に基づいて客観的に定められるべきである。
また、生活保護基準の決定に際して考慮すべき事項は、生活保護法第8条第2項及び第9条に定められており、これ以外の事項、例えば国民感情や財政事情といった不安定かつ不明瞭な事項から考慮されることがあってはならない。
あわせて、生活保護基準は、介護保険料、国民健康保険料、最低賃金、地方税の非課税基準等、多くの社会保障制度や施策とも連動しており、生活保護基準の引下げは、生活保護受給者の生活を直接脅かすだけでなく、国民全体の生活水準をも低下させるおそれがある。長引く経済停滞や世界的な物価上昇により国民生活が圧迫され続けている中、ナショナルミニマムとしての生活保護基準を軽視しているとも言うべき司法判断が、生活保護基準の引下げの違法性を争う一連の訴訟の中で下されていることについては、生存権保障の観点から極めて問題があると言わざるを得ない。
当連合会は引き続き、生活保護基準の引下げに反対し、生活保護受給者をはじめとする生活困窮者の権利を擁護していく所存である。