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会長声明集
2023年(令和05年)11月02日
「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」における生殖不能要件を違憲とする最高裁決定を受けての会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小 澤 吉 徳
令和5年10月25日、最高裁判所大法廷において、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」に基づく性別の取扱い変更におけるいわゆる生殖不能要件は、憲法第13条に違反し無効であるとの決定が15名の裁判官の全員一致によりなされた。
当連合会は、性自認に従った性別の取扱いを受けることは基本的人権として保護されるべき人格的利益であるところ、性別の取扱いの変更のためにほとんどの場合で生殖腺除去手術を要することとなる生殖不能要件が「身体への侵襲を受けない自由」の制約の度合いとして過剰であるとする本決定を支持する。生殖不能要件について合憲としながらも「不断の検討を要する」とした平成31年1月23日最高裁第二小法廷決定が、まさにその「不断の検討」によって変更され、「社会に混乱を生じさせかねない」との懸念により課されていた要件が、現在においてはもはや合理性を欠く過剰な制約であるとの柔軟な判断がされたことについても一定の評価ができる。
しかし、本決定及びこれに付された少数意見においては、世界保健機関のICDの改訂により、「性同一性障害」が「性別不合(仮訳)」として精神疾患とは異なるものに分類されるなどの国際的な医学的知見の変化や、パートナーシップ制度の浸透などを含む日本社会の変化にも言及されており、性同一性障害の診断、治療及び心身の健康の継続的なケアを可能とする医療体制や、当事者が安定した社会生活を営むための社会的基盤はいまだ不十分な状況であるといえる。特に、就労を継続しながらの性別移行にあたっては、周囲の無理解、トイレ等の設備面での問題、性別移行後に移行前の性別を本人に無断で明かされてしまういわゆるアウティングの発生などの困難が伴う場合も少なくない。本決定で示されたように社会状況が変化しつつあるとはいえ、性的少数者に対する差別や偏見が解消されたとは言い難い。よって、政府に対しこの違憲判断に基づく早急な法改正を求めるものである。
さらには、本決定において原審へ差戻しとなった、いわゆる外観要件(「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」とする要件)についても、生殖不能要件と同様、多くの場合外科手術を要し、身体への強度の侵襲性を有するものであることから、3名の裁判官の少数意見にも述べられているとおり、違憲の判断がなされることを期待する。
当連合会においては、国民の権利擁護を使命とする司法書士の立場から、性的少数者の人権擁護のための相談・支援・啓発活動に努めてきた。今後の立法を注視しつつ、これらの取組みを継続してゆく所存である。