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会長声明集
2023年(令和05年)03月10日
家賃債務保証業者の契約条項の使用差止めを認容した最高裁判決に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小 澤 吉 徳令和4年12月12日、最高裁判所第一小法廷は、賃貸人と賃借人(消費者)との間の賃貸借契約に関し、賃借人が家賃債務保証業者に対して賃料債務等を連帯保証することを委託し、家賃債務保証業者が賃貸人に対して当該賃料債務等を連帯保証すること等を内容とする契約に関する条項のうち、①家賃債務保証業者は一定の賃料滞納があったときに無催告で賃貸借契約を解除できる旨の条項及び、②家賃債務保証業者は賃料滞納がある等の所定の要件を満たした場合、賃貸物件の明渡しがあったものとみなすことができるとする条項が、消費者契約法第10条により無効であるとして、その使用差止め等を命じる判決を言い渡した。
両条項は、家賃債務保証業者に過大な権限を付与し、かつ、賃借人の生活基盤を失わせるという極めて重大な事態を招きかねない条項であるといえるから、当連合会は、今般の最高裁の判断を支持するものである。
さて、家賃債務保証業については、家賃債務保証業者による過剰な取立行為や追出し行為による被害が社会問題になったこと等から、国土交通省が平成29年10月に家賃債務保証業者登録規程を定め、任意の登録制度を創設した。
同制度は、登録要件として財産的基礎要件や求償権行使の適切性等を設け、業務適正化のためのルールとして、契約締結までの重要な事項に関する事前説明や書面の事前交付等を遵守すること等を設けており、さらに、家賃債務保証業務の適正な運営の確保を図るため、国土交通省が登録業者に対して、違法行為等に係る指導、助言及び勧告ができるものとしている。
しかしながら、上記最高裁判決の対象となった家賃債務保証業者は、上記制度の任意の登録を受けた事業者であった。
したがって、国土交通省は今回の最高裁判決を重く受け止め、登録業者が使用する契約条項に賃借人の権利を一方的に害するような条項がないかどうか、適切な求償権の行使がされているかどうか等を調査し、家賃債務保証業者登録規程に基づき、登録業者に対する管理監督、指導、助言及び勧告を適切に行うべきである。
なお、上記登録制度はあくまでも任意であることから、現行法下では、無登録で家賃債務保証業務を行うことも可能であり、登録業者以外に対しては国土交通省による管理監督権限が及ばないこととなる。こうした事情もあり、同制度施行後も家賃債務保証業者による過剰な取立行為や追出し行為によるトラブルが後を絶たない。
今回の最高裁判決により家賃債務保証業者による被害防止に一歩前進したといえるが、同判決に即して契約条項の改善がされたとしても、家賃債務保証業者に対する行為規制、参入規制等の規制法の制定や監督官庁である国土交通省による十分な管理監督が果されなければ、不当に賃借人の居住の安定を損ないかねず、居住の安定の確保等を定めた住生活基本法の趣旨に反することとなる。
そもそも家賃債務保証業に関する登録制度については、家賃債務保証業者による、いわゆる「追出し屋被害」が社会問題化したため、平成22年の第174回国会(常会)に「賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」が提出され、参議院において全会一致で可決されたにもかかわらず、衆議院では実質的な審議がされないまま廃案となった経緯がある。
家賃債務保証業につき、登録制度を創設する立法事実は既に明らかな状況にあるといえる。国は、賃借人の居住の安定を確保するため、家賃債務保証業者に対する義務的登録制度や行為規制等を定めた規制法の制定を早急に行うべきである。
また、家賃債務保証事業に関する規制強化に加え、いわゆる住宅セーフティネット法に基づく住宅確保要配慮者居住支援法人による家賃保証事業については、一層の支援の充実化及び推進を図り、住居確保支援が後退することのないよう留意すべきである。
当連合会は、賃借人の居住の安定を確保するため、家賃債務保証業者に対する義務的登録制度や行為規制等を定めた規制法の制定を国に対して求めるとともに、司法書士が追出し屋被害の救済に寄与できるよう取り組む所存である。