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会長声明集
2022年(令和04年)06月17日
生活保護における生活用品としての自動車保有を広く認めることを求める会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小澤 吉徳
現在、生活保護制度の運用においては、保護受給者が生活用品として自動車を保有・使用することは原則として認められておらず、保有・使用が容認されるのは、通勤や通院にあたり公共交通機関の利用が不可能又は著しく困難な場合である等、厳格な要件を満たした場合に限られている。
そのため、自動車は原則、処分をしないと保護を受けられないというような対応がなされている。しかしながら、保護開始時に自動車を手放さなければならないとなると、生活保護受給者の自立を阻害する結果となる。生活保護申請者や受給者においては、自動車は一度手放してしまうと再取得が非常に困難となるため、自動車通勤や自動車使用が前提となる職に就くことができず、就職活動に著しい支障が出るからである。
また、公共交通機関網の脆弱な地方都市や郡部において、ことにひとり親世帯においては、自動車は就職活動や就労、子育てのためには必要不可欠な生活必需品であるばかりか、買い物や子どもの保育園等への送迎、通院など、生活維持のための生命線となっている。生活用品としての自動車保有ができず、保護受給にあたっては自動車を処分せざるを得ないという現行の制度運用のため、保護基準未満の収入で生計を立てているひとり親世帯が、自動車を保有し続けるために生活保護の受給を控えざるを得ないという事態も多く発生している。
確かに、厚生省が生活用品としての自動車保有を認めないとの通知を発した昭和38年当時では、自動車は贅沢品であり資産価値の高いものであったと思われるが、現代において自動車は生活用品としての意義が特に地方で高く、当時の取扱いを維持し続けることは時代にそぐわず、甚だ不合理である。
なお、当連合会では、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与するという司法書士の使命を果たすべく、「経済的困窮者に対する法律支援事業」を実施しており、経済的困窮に関する相談や生活保護申請への同行に対する司法書士会の事業の支援を行っているところであるが、支援を行う司法書士に「自動車が保有できないのならば生活保護は諦めるしかない」という市民の声が多く寄せられている。
現代においては、生活用品としての自動車の保有は認められるべきであり、これが認められない現状は憲法第25条に定める「健康で文化的な最低限度の生活」保障の理念に反する恐れがある。また、憲法第22条に定める「居住、移転及び職業選択の自由」に制約を課すものと考えられる。
よって、生活用品としての自動車保有を認めないという現行の運用を見直し、現在のわが国の実態に即した厚生労働省通知等の発出及び実施機関での取扱いがなされることを求める。