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会長声明集
2022年(令和04年)04月19日
民法(親子法制)等の改正に関する要綱に対する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 小澤 吉徳令和4年2月14日、法制審議会総会は、「民法(親子法制)等の改正に関する要綱」(以下「要綱」という。)を原案どおり承認し、直ちに法務大臣に要綱が答申された。
要綱においては、女性に係る再婚禁止期間の規定(民法第733条)及び子に対する懲戒権の規定(民法第822条)の削除が取りまとめられており、これについては、女性の再婚禁止期間を短縮又は廃止する世界の潮流、そして、我が国における児童虐待の認知件数の増加等の背景に鑑み、評価されるべきものであると考える。
特に、懲戒権を削除し、民法第821条において、親権者に子の人格尊重や子の年齢及び発達の程度への配慮義務を課し、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動を禁止した規定が新設されることを評価する。子を単なる監護教育の客体としてではなく、人格をもった権利主体と捉える考え方が広く親に認知され、実践されることが重要である。今後は、法改正の機を捉えて、妊娠・出産時に親へのガイダンス等の法教育の場を設けるなど、体罰の禁止を含む子に対する監護教育の理念や実践方法についての親を含めた社会全体の意識を変えていく啓発活動や親を孤立させない支援体制の強化も必要であろう。
また、生殖補助医療により生まれた子の親子関係について要綱は、嫡出否認の訴えに係る規定の改正に際して整合性を持たせる内容にとどまっており、指摘されている問題点(子の出自を知る権利、いわゆる代理出産の場合等)を踏まえ、更なる議論がなされることを期待するものである。
さらに、婚姻解消後300日以内に出生した子について、母の再婚後に出生した子の場合には後婚の夫の子と推定することとしたことや、嫡出否認の否認権者や否認権行使期間を拡張・延長したことにより、生まれてくる子が無戸籍となってしまう事態を減らし、また、無戸籍状態となった子の救済において、一定の効果は期待できる。
しかし、母が前夫との婚姻解消後に子の自然血縁上の父と再婚できない場合や、母が父によるDVや児童虐待等を原因としてそもそも夫と婚姻解消できない場合には、前夫又は現在の夫の子として戸籍記載されてしまうために、子の出生届を出すことができずに、生まれてくる子が無戸籍となってしまう可能性が依然として残るものと危惧する。
子の法的地位を早期に安定させるために法が子の父を定める必要があることは理解するが、その一方で、戸籍制度や民法第772条の存在が無戸籍者問題を生み出す原因となっていることは紛れもない事実である。要綱どおりの法改正がなされれば、生まれてくる子が無戸籍となってしまう事態を減らすことはできるかもしれないが、ゼロにすることはできないものと考える。法改正後の動向を引き続き注視するとともに、戸籍制度の見直し検討も含めた無戸籍者問題解消に向けた更なる取組みがなされることを期待するものである。当連合会は、無戸籍者問題解決への取組みをはじめとして、審議の積み残しがあると指摘した生殖補助医療により生まれた子の親子関係、親などによる虐待で幼い子が命を落とす事件が後を絶たない児童虐待防止策の推進等について、国会において十分に審議され、早急な法整備がなされることを求めるものである。