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会長声明集
2020年(令和02年)07月20日
法務局の4支局における公証事務の取扱いの廃止にあたっての会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
令和2年法務省告示第85号において,公証人法第8条の規定により公証人の職務を行わせる件(昭和33年法務省告示第338号)の一部が改正され,令和2年7月1日から,旭川地方法務局留萌支局,秋田地方法務局本荘支局及び大曲支局,福井地方法務局小浜支局における公証事務の取扱いが廃止された。
法務局(法務局の支局及び出張所並びに地方法務局及びその支局並びにこれらの出張所を含む。以下同じ。)は,法務省設置法第4条の規定により法務省が司るものとされた事務のうち,「国籍,戸籍,登記,供託及び公証に関すること」,「その他民事に関すること」,「人権に関すること」,「総合法律支援に関すること」及び「国の利害に関係のある争訟に関すること」の事務を受け持っている。
法務局は市民の司法アクセスを支える重要な拠点として全国に遍く存在し,国の法務に係る重要な機関であるが,近年,コンピュータ化の普及やオンライン申請の進展等に伴って支局及び出張所の統廃合が漸次進められた結果,司法アクセスの拠点が次々と失われ,司法過疎地域の拡大に拍車がかかった。
一方,公正証書遺言の作成等公証事務を取り扱う公証役場は全国に約300庁存在しているが,その多くは都市部に集中しており,同一県内に一庁しか存在しない県もある。地方においては公証事務の担い手が不足していることから,昭和33年法務省告示第338号によって永年にわたり法務局の支局の一部において法務事務官に公証事務の取扱いをさせてきた。
公証事務の一つである私署証書の認証においては,嘱託人は公証人の面前に赴いて署名又は捺印をすることとなっており,嘱託人は原則として公証役場に出頭することとなっている。したがって,公証役場が存在しない地域においては,法務局の支局における公証事務の取扱いは市民等の利便性を確保する重要な手段として位置付けられてきた。
本年7月10日から施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(平成30年法律第73号)においては,遺言書保管所(同法第2条)として全国の法務局の支局261庁全てが指定され,遺言書の保管等に関する事務を司ることになったが,公証事務の取扱いに関しても全国の支局の全て(その管轄区域内に公証役場が存する地域を除く。)において取扱われることが市民の司法アクセスの確保として重要である。
今般の4支局における公証事務の取扱いの廃止によって,この事務を取り扱う法務局支局は全国でわずか10庁となった。今後,このような廃止の動きが続くことは司法アクセスの拠点を失わせるものであり,司法アクセスの拡充を謳った先の司法制度改革の趣旨と逆行することを危惧する。
法務局は市民にとって司法へアクセスするための重要な機関であり,今後デジタル・ガバメント政策により行政のオンライン化が促進されるとしても,その利便性を減ずることなく向上させ,その機能をより充実したものとしていくべきである。
したがって,令和2年法務省告示第85号の見直しをここに強く求めるものである。なお,当連合会は司法書士会と協力し,廃止庁地域における市民に対する司法サービスの提供をより一層進めていく所存である。