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会長声明集
2019年(令和元年)09月17日
民事裁判手続のIT化における本人訴訟の支援に関する声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
1 国民が利用しやすい民事裁判手続のIT化に向けて
現在,政府及び司法府において民事裁判手続のIT化が検討されている。インターネットを利用したオンライン提出による訴えの提起,訴訟記録の電子化,手数料の電子納付,ウェブ会議システムを利用した口頭弁論や弁論準備手続等が実現すれば,遠隔地の裁判所に出頭する負担の軽減だけでなく,迅速かつ効率的な民事裁判が実現されることになり,司法サービスの向上に繋がる。したがって,速やかなIT化の実現と推進を望む。
一方で,わが国において,本人訴訟が少なくない現状に鑑みれば,IT機器の利用が困難な国民は,民事裁判手続のIT化による恩恵を享受することができないばかりでなく,民事裁判手続の利用に関する格差に起因する弊害が生じるおそれがある。
故に,民事裁判手続のIT化に際しては,IT機器の利用に習熟していない,あるいはIT機器の利用環境が整っていない当事者であっても,本人訴訟の追行に不便の生じないよう,十分なサポートがなされなければならない。2 全国に存在する司法書士
司法書士は,制度当初から裁判書類の作成や相談業務を通じ,本人訴訟を追行しようとする当事者を支援してきた。
平成14年の司法書士法改正により,司法書士に簡裁訴訟代理権が付与された要因のひとつとして,司法書士が全国に遍く存在したことが挙げられるが,今でもその傾向に変わりはない。
すなわち,司法書士は,平成31年4月1日時点で,全国の市区町村の79.9%(全国1902市区町村のうち,1521市区町村)に存在している。また,令和元年5月1日時点で,全国の簡易裁判所の管轄区域の98.9%(全国438の簡易裁判所のうち,433の管轄区域)に存在している。なお,司法書士の詳細な分布については,「http://nsr-x.net/map2019/index.html」を参照されたい。3 登記手続のIT化への対応
登記手続において,すでに,いわゆるオンライン申請制度が導入されており,遠隔地の法務局であっても,登記の申請や登記事項証明書の請求等の手続をオンラインで行うことが可能となっている。
当連合会は,司法書士による登記手続のオンライン申請を制度導入以来推奨してきた。総務省の統計によると,平成29年度の登記分野の申請等件数2億2340万9128件のうち,1億5680万9649件がオンラインで申請されており,その利用率は実に約70.2%である。登記申請の大部分が司法書士により代理申請されていることから,多くの司法書士がオンライン申請を利用しているといえる。
したがって,司法書士は,既に登記手続につき,IT化に対応しているところであり,民事裁判手続のIT化を推進する場面においても,これまでに培ったIT利用の知見やスキルを積極的に提供したいと考えている。4 民事裁判手続のIT化における司法書士の役割
民事裁判手続のIT化により民事裁判手続の利便性が高まることは歓迎すべきことであるが,その恩恵を,資格者代理人やIT利用環境に恵まれた企業など一部の利用者だけが受けるということがあってはならず,日常生活の合間に裁判をせざるをえないような本人訴訟の当事者についても,IT化の利便性を享受することができるような配慮が必要である。民事裁判手続のIT化については,まずは地方裁判所における民事訴訟に導入することが念頭に置かれているが,その後にはさらに,国民に身近な裁判所である簡易裁判所においても導入を進めるのであり,本人訴訟のサポート体制を充実したものとする必要性は一層高まることになる。
当連合会は,国民の権利を擁護し,もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする(司法書士法第1条(令和元年法律第29号))司法書士が,この課題に積極的に対応すべきと考えている。
今後,例えば,全国157箇所(令和元年9月11日現在)で稼動している司法書士会総合相談センターの窓口において,当連合会の支援の下,IT機器を設置して,本人訴訟の当事者に対し,民事訴訟の追行に必要なIT面のサービス(機器の貸与にとどまらず,裁判書類の提出・閲覧・相手方提出書類の入手等のための支援なども考えられる。)を提供する事業を開始することや,全国各地に存在する司法書士事務所において,司法書士が,本人訴訟の当事者の依頼に応じて,従前の業務に加え,必要なIT面のサポートサービスを提供することなどについても,積極的に検討・対応していきたいと考えている。
当連合会は,民事裁判手続のIT化について,司法書士が本人訴訟の当事者を十分にサポートするための万全の体制を整え,裁判所をはじめとする関係機関とも十分に連携を図っていく所存である。