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会長声明集
2018年(平成30年)06月19日
前橋地方裁判所平成30年1月31日判決を尊重し、地方税の適法な徴収に努めることを強く求める会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
平成30年1月31日、前橋地方裁判所は、前橋市が市県民税及び国民健康保険税(以下「国保税」という。)を滞納した市民に対し、勤務先が給与を銀行口座に振り込んだその日に即座に差し押さえた事案について、これを「脱法的な差押処分として違法」と判断した。
本判決は、前橋市が市県民税及び国保税を滞納した原告の給与が銀行口座に振り込まれた当日に計5回にわたり差し押さえをした事案である。この差し押さえに対し、前橋地方裁判所は、差押処分そのものの取消しについては訴えの利益がないとしてこれを却下しつつも、最後の2回分の差押えについては、これを国税徴収法第76条第1項(給与差押一部禁止)の脱法行為と認定し、差押額全額の不当利得返還を命じたうえ、利得返還では回復されない慰謝料等の国家賠償も命じた。
本判決は、原則として差押え禁止の属性を承継しないとした最高裁判所平成10年2月10日判決を維持しつつも、国税徴収法第76条第1項及び同第2項が最低限の生活維持のため給与等の一部を差押禁止とした趣旨はできる限り尊重されるべきとして具体的に事情を認定し、国家賠償法第1条第1項の違法を認め、慰謝料5万円(弁護士費用5,000円)の賠償を命じた。
前橋市は、この判決を受け入れて控訴を断念したため、上記判決はすでに確定するに至っている。
上記判決が、国税徴収法により差押を禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合に、これを違法とし、不当利得としての全額返還さらには国家賠償法の損害賠償責任まで認めた点については大いに評価すべきである。
給与や公的給付といった一定の財産については、滞納者及びこれと生計を共にする者の生活に欠かすことのできない財産として、その全額の差押えが禁止されている(国税徴収法第75条乃至第78条。地方税法においても同規定を準用)。児童手当、児童扶養手当、生活保護費などのさまざまな公的給付についても、各種特別法において、その受給権に対する差押えが禁止されている(児童手当法第15条、児童扶養手当法第24条、生活保護法第58条など)。
これら差押えを禁止する規定の趣旨は、言うまでもなく最低限度の生活を維持するうえで欠かすことのできない財産について、その差押えを禁じることにより生存権の保障(憲法第25条)を全うするところにあり、全国の地方自治体による行きすぎた滞納者への対処があってはならない。
格差と貧困が続く現下の日本社会の状況において、貧困のためやむなく地方税を滞納した市民の生存権の保障を貫徹すべく、全国の地方自治体に対し、本判決の趣旨を尊重し、脱法的な差押えを行わず、地方税の適法な徴収に努めることを強く求める。