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会長声明集
2014年(平成26年)09月08日
改正会社法における監査範囲限定登記の登録免許税に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 齋 木 賢 二
【声明の趣旨】
平成27年施行予定の改正会社法において,監査役の監査範囲に業務監査を含まず会計監査のみに限定する会社につき,現在既に会計監査に限定している会社を含め,新たに監査範囲限定の登記をすることとされた。そのため会社自らが監査範囲を変更したものでないのに当該登記をすることを義務づけられ,その登記の際に登録免許税3万円を納付しなければならないことになる。中小企業1,677,949社(中小企業庁「中小企業白書(2014年版)」付属統計資料)の多数が,現在でも監査範囲の限定をしており,当該登記を義務づけられるものとみられるため,それら中小企業に過大な負担を求めることとなる。
したがって,当該改正会社法施行後一定期間内の登記申請に限り,当該登記申請時に負担する登録免許税を非課税とする措置が講じられるべきである。
【声明の理由】
1.改正会社法が平成26年6月20日成立し同月27日公布され,平成27年4月又は5月に施行されることが見込まれている。今般の改正の本旨は,企業統治の在り方及び親子会社に関する規律等,主に上場会社における会社法制の見直しであるが,中小会社にとっても影響が大きく,かつ,重要な改正点も含まれている。その最たるものが「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨」の定款の定めがある旨が登記事項として追加された点である。
2.この改正により,施行日に現に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社は,施行後最初に監査役が就任し,又は退任するまでの間に,改正会社法第911条第3項第17号イに掲げる事項(「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨」)の登記をしなければならないものとされた(改正附則第22条第1項)。そして,この登記の際には,通常の役員変更の登記に関する登録免許税以外に,別途3万円の登録免許税(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)の納付が必要となることが見込まれている。
3.もとより,株式会社の監査役の権限が会社法の原則どおり「業務監査権限を有する」(いわゆる「監査役設置会社」(会社法第2条第9号))のか,あるいは定款の定めにより「会計に関するものに限定されたものである」のかは,当該株式会社の運営等の規律を画するものであり,その区別が登記によって明らかとなることは望ましいことであって,これが登記事項として追加されたことは評価すべきものである。しかし,その登記のために,多くの中小会社が登録免許税を負担しなければならないこととなり,その負担感は大きいと思われる。そのため,改正附則第22条第1項の規定より登記をすることが猶予され得る期限(最長は,約10年である。)のぎりぎりまで,この登記がされずに放置されることが懸念される。しかし,登記が放置された場合,例えば裁判実務では,上記猶予期間中,訴訟当事者である株式会社の代表権限を確認するために,裁判所に対して,登記事項証明書のみならず定款の添付を求める等資格証明資料を付加しなければならない場合が生ずる等,改正の趣旨を没却しかねない取扱いを余儀なくされることが考えられる。
4.商業登記制度は,会社の信用の維持を図り,かつ,取引の安全と円滑に資することを目的とする公示制度(商業登記法第1条)であり,会社の実体を反映し真正が担保されてこそ,信頼されるものである。したがって,施行日後は,登記をすべき対象となる株式会社の全てにおいて,可及的速やかに「監査役の監査の範囲に関する登記」がされることによって,株式会社の監査役の権限の区別が登記上明らかにされることが望ましい。そのためには,その障害となることが予想される登録免許税に関して,格別の取扱いとして,施行日後,会社が対応可能なできるだけ短い一定期間内に登記されるものについて,その登記に対する登録免許税を非課税とする措置が講じられるべきである。
【注】
(1)声明文中,「改正会社法」とは,「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90号)によって改正された後の会社法を指すものとする。
(2)登記をすべき対象となる株式会社は,定款に株式譲渡制限に関する規定を設けている「公開会社(会社法第2条第5号)でない株式会社」であって,かつ,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨(会社法第389条第1項)を定款で定めている株式会社である。
以上