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会長声明集
2006年(平成18年)07月31日
多重債務問題の解消に向けて
日本司法書士会連合会
会長 中 村 邦 夫日本司法書士会連合会(以下「日司連」という。)は、国民の生活安定を願う法律家団体として、国民生活において憂慮すべき状況にある多重債務の問題解消のために、以下のとおり提言を行う。
司法書士は、裁判事務における破産・民事再生の申立手続の書面作成、簡裁訴訟代理権に基づく特定調停・過払金返還請求訴訟、あるいは示談交渉権に基づく債務整理などを職務とし、様々な多重債務者の抱える問題の解決に努力している。
また、全国各地の司法書士会は、多重債務者に対する無料相談会を実施し、破産・民事再生等の法的手続による多重債務解決の道筋を示すほか、高等学校に講師派遣を行い、社会に巣立つ直前の高校生に対する消費者教育の中で、消費者金融及びクレジットに関する基礎知識と多重債務に陥った場合の基本的な法的対処方法についての講義を行うなど、事後救済・事前予防の活動にも取り組んでいる。
多重債務の問題は、破産者の増加ばかりでなく、借金苦による自殺・離婚・一家離散という悲惨な事件を誘発し、刑事犯罪件数の増加にも少なからず影響を与えていることからも、早急に解決しなければならない国家的課題である。
多重債務となる要因は、借手の自己責任も含め多様であるが、当面早急に対処されるべきこととして、次のとおり「貸金業者」「債務者」「グレーゾーンの問題」の三つの対象領域において求められるべき施策について提言をする。
関係各位において最善の努力がなされるように要望したい。
Ⅰ.貸金業者等の健全化への施策
(1) 違法な取立行為を撲滅するための法的措置の導入
借金苦による自殺・家庭崩壊あるいは犯罪への影響増大の原因として、現在においても、一部貸金業者の債権回収における脅迫的言動、夜討ち朝駆け的な訪問行為、利用者または近隣者に対する嫌がらせ等の悪質な取立行為に起因するものが多く、監督官庁の指導監督だけでは限界にあるため法的措置を導入する必要がある。
(2)過剰与信、過剰貸付を防止するための利用者の信用調査基準の明確化
制限能力者に至らない知的障害者への貸付、無資力・無収入の予見可能な高齢者等への貸付など、返済能力を無視した安易な貸付の横行、一定期間返済を続けている者に対する無条件の貸増しのシステム化などが、不良債権増大の大きな要因である。
これらの過剰与信による過剰貸付を防止するため利用者の信用調査基準を明確にし、貸付限度額を超える貸付部分の利息については法定金利(年6%)並みの低金利が適用されるように法的措置を講じる必要がある。
(3)テレビ等でのCMを抑制させるための行政指導の強化または法的措置の導入
愛らしい小型犬などを使い、優しさを前面に出し、テレビで日に何度もCMを流すことで、国民の持つ借金への忌避感を払拭し、安易な借金を促すなどの悪影響を及ぼしている。
テレビ等での宣伝は特に若年層に借金への忌避感を失わせるなどの悪影響があるので規制を強化すべきである。
Ⅱ.債務者の健全化への施策
(1)学校教育における消費者教育の普及促進
司法書士会の行う高等学校での消費者教育は、高等学校のカリキュラムの関係で、一回限り一時間足らずの講義にならざるを得ず、十分に内容を理解させることは困難である。年に10回程度の講義時間が確保できるように、高等学校の必須カリキュラムとして消費者教育の時間を設ける等徹底を図る必要がある。
(2)カウンセリングの強化
多重債務の事前予防、事後処理のためのカウンセリングにより、自殺・家庭崩壊の回避ならびに自己破産手続の活用等により多重債務者が早期に社会復帰できるように、総合的な多重債務者救済システムを確立する必要がある。
Ⅲ.グレーゾーン撤廃への施策
(1) 出資法の上限金利(年29.2%)を利息制限法の制限金利(年15~20%)への引き下げ
司法書士の業務経験から言えば、相当長期に亘る消費者金融の利用者の大半が、それぞれの返済総額について利息制限法を適用して計算し直せば、債務完済または過払いの状態となっている。また本年1月の最高裁判決で、期限の利益喪失の特約ある場合に、出資法の上限金利による支払利息にみなし弁済の適用ができないとの司法判断が示されたことならびに利息制限法を超える利息は元本に充当されるとの判例が確立していることから、出資法の上限金利の引き下げが必要と考える。