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会長声明集
2007年(平成19年)11月02日
貸金業者のATM手数料の原則無料化を求める意見書
日本司法書士会連合会
会 長 佐藤 純通
【趣 旨】
利息制限法第6条2項第3号の委任に基づく,契約締結又は債務弁済におけるATMの利用料のうち利息とみなされない額の範囲につき,(1)自社設置のATM利用料については,みなし利息から除外しないこと,(2)他社設置の提携ATMの利用料については,その範囲を銀行の他行ATM利用手数料程度の105円以下と修正されるよう求める。
【理 由】
利息制限法施行令案第2条は,利息制限法第6条2項第3号の委任に基づき,契約締結又は債務弁済におけるATMの利用料のうち利息とみなされない額の範囲を,(1)入出金額3万円未満の場合には420円以下,(2)入出金額3万円以上の場合には,630円以下と定めている。
しかしながら、貸金業者が自ら設置したATMを顧客が利用した場合にまで,上記施行令案の定める範囲についての利用料がみなし利息から除外されるのであれば,借主の負担は極めて大きく,経済的弱者たる借主の保護を主たる目的とする利息制限法の趣旨及び多重債務問題の解決の重要性にかんがみて行われた法改正の趣旨からすれば,上記範囲の設定は,法が政令に委任した範囲を著しく超えたものであると言わざるを得ない。
そもそも,貸金業者が設置するATMは,自社の営業の利益のために設置しているものである。本来であれば,有人店舗において従業員が行う事務をATMが代わって処理することにより,貸金業者は店舗設置費用・人件費等を軽減することができているはずである。換言すれば,ATM利用料の実質は,貸金業者が本来負担すべき店舗設置費用や人件費等の代替費用であるということができる。また,貸金業者が設置するATMには,新規の金銭消費貸借契約を締結する機能が備わっており,新規顧客の開拓のためにも設置されているものである。このような貸金業者が本来負担すべき営業上の経費まで,みなし利息から除外して,借主に別途負担させるべき合理的理由はない。なお,貸金業者が店舗設置費用・人件費等を軽減できることは,顧客が他社設置の提携ATMを利用する場合でも同様である。
さらに,政令で定める費用の範囲内であっても,債権者が真実に費用として支出しなかったものは,利息とみなされる(最判昭和46年6月10日)ところ,利息制限法6条2項1号及び2号に規定する費用については,公的機関に支払われるものであることから,実際に費用として支出された金額がその性質上客観的に明らかとなるが,同条2項3号に規定する費用のうち,特に自社設置のATM利用に係るものについては,貸金業者が実際に費用として支出した金額を客観的に把握することは極めて困難である。また,他社設置の提携ATM利用に係る費用についても,施行令案のような高額な範囲の手数料をみなし利息から除外すれば,実費以上の手数料について貸金業者へ利益の還流がなされる可能性も否定できない。
したがって,今後,貸金業者がATM利用料を上記の範囲内の金額に設定しみなし利息から除外して営業を行った場合,そのATM利用料の全額を債権者が真実費用として支出したのか否かにつき紛争が生じることとなり,その結果,借主から貸金業者に対する不当利得返還請求訴訟の提起が今後も続くことが予想される。すなわち,グレーゾーン金利問題が未解決のまま持ちこされることになるのである。そうとなれば,多重債務問題の解決の重要性にかんがみて行われた今回の法改正の趣旨に著しく反する結果となる。
以上のとおりであるから,当連合会は,利息制限法施行令案2条について頭書のとおり修正がなされ,真の意味でのグレーゾーン金利撤廃がなされるよう強く求めるものである。