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会長声明集
2007年(平成19年)12月17日
生活保護基準の拙速な引き下げに反対する会長声明
日本司法書士会連合会
会 長 佐藤 純通<趣旨>
1. 生活保護基準の見直しについては、公開の場で市民の意見を十分に聴取した上、生活保護利用者・低所得世帯当事者の生活実態を踏まえた慎重な検討を行うことを強く求める。2. 生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な生活」を護るものでなければならず、安易かつ拙速な生活保護基準の切り下げには、断固として反対する。
<理由>
学識経験者によって構成される厚生労働省社会・援護局長の私的研究会「生活扶助基準に関する検討会」(以下、「検討会」という)が本年11月30日に提出した報告書を受け、舛添要一厚生労働大臣は来年度からの生活保護基準引き下げを明言した。
しかしながら、この検討会は本年10月19日よりわずか5回しか開催されておらず、しかも厚生労働省のホームページにその開催告知がされたのは、いずれも開催日の3~5日前という、極めて直前の公表であり公開性が十分とはいえない。
検討会報告書は、「生活扶助」額に関して、生活保護を受給していない「夫婦子1人世帯」や「単身高齢世帯」のうち所得の低い方から10%にあたる部分の消費支出水準と比較する一方、「級地間の格差」に関しては、「2人以上の全世帯」しかも所得の低い方から60%との比較を行うなど、その内容においても疑問点が多い。
一部において厚生労働省は来年度予算での生活扶助額引き下げを見送る方針を固めたとの報道がなされているが、検討会報告書には、生活扶助額と併せて級地加算に関する記述などもあり、全体的な生活保護基準に対して、厚生労働省が最終的にどのような結論を導き出すかを引き続き注視する必要がある。日本司法書士会連合会及び各地の単位司法書士会並びに全国の司法書士は、生活保護に関わる人権問題に積極的に取り組む中で、現在の生活保護行政においては、生活保護申請書を渡さないなど違法な窓口規制等が行われているため、生活保護の捕捉率が約2割とされており、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている低所得者が多数存在する現実を目の当たりにしている。
こうした現状において、単に生活保護を受給していない世帯のうち所得の低い世帯の部分の消費支出水準に合わせて現行生活保護基準を引き下げるとの結論を出すのであれば、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の水準は際限なく引き下げられていくこととなる。さらに、生活保護基準は、最低賃金法による最低賃金引き上げ目標、介護保険の保険料及び利用料、障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、公営住宅家賃減免基準、国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制など他の社会保障政策と連動しているものである。その基準の引き下げは、生活保護を受給していない低所得者の生活水準を引き下げさせることにも繋がる。
このように市民生活に重大な影響を及ぼす事項について、市民に検討の経緯をほとんど公表することなくまた意見表明の機会を与えることもなく、結論を出すことは極めて問題であると言わざるを得ない。
よって、上記趣旨のとおり声明する。