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総会決議集
債務整理の事件処理・報酬・業務広告に関する規則・指針等に反する司法書士による被害が起きていることを真摯に受け止め、適正な債務整理の相談体制を各地で構築する決議
2024年(令和06年)06月21日
日本司法書士会連合会 第89回定時総会【議案】
日本司法書士会連合会は、
債務整理の事件処理・報酬・業務広告に関する規則・指針等に反する司法書士による被害が起きていることを真摯に受け止め、適正な債務整理の相談体制を各地で構築する。
以上の通り決議する。【提案の理由】
平成22年の改正貸金業法完全施行により、自己破産件数が減少するなど多重債務問題はピーク時に比べ落ち着きを見せているが、多額の借入残高を有する市民は現在も相当数存在し、コロナ禍を経て、物価高により再燃が懸念されている。
そのような中、本年2月、NHKにおいて、弁護士・司法書士事務所による『借金全額免除!?』『国が認めた借金救済制度』といった誇大なネット広告でトラブルが相次いでいることが大きく報道された。その後も、各地方紙で、「生活状況を詳しく聞き取らないまま手続きを進め逆に生活再建を妨げるケース」や、「直接面談を行わないケース」、「費用が高額で相談前より生活が苦しくなったケース」など、業務姿勢が問題視される弁護士・司法書士事務所の問題が報道されており、市民からの司法書士に対する信頼を損なう事態に陥ってしまっている。
また、本年5月には、消費者金融大手が連名で、債務整理をめぐる一部の弁護士の事件処理を批判する異例の意見書を昨年9月に日本弁護士連合会に提出していたことが報道された(朝日新聞)。司法書士に対しても同様の動きがあってもおかしくない状況であり、社会から弁護士・司法書士によって消費者被害が引き起こされているという印象を持たれる事態である。
こうした問題の被害救済に取り組む弁護士・司法書士が被害者から相談を受け、事件処理に当たった結果、実態が明らかになっており、日司連の定めた「債務整理事件の処理に関する指針」(※会によっては規則化・規程化している会もある)、「債務整理事件における報酬に関する指針」や日司連の定めた「司法書士の業務広告に関する規則基準」に沿って各会において制定された規則に反する業務処理を行う司法書士が問題を起こしていることが指摘されている。
こうした事務所から市民を守るために、第89回定時総会資料217頁に記載のある「債務整理事件の処理に関する指針の見直し及び規則基準案の作成」といった規制強化や取締りが重要であることは間違いなく、早期の実現が望まれる。ただ、それと同時に、受け皿となる各地域の司法書士の養成やフォロー体制も重要である。本来、あまねく地域に根差す司法書士は、生活に困窮した市民の相談を受け、裁判所提出書類作成業務・簡裁訴訟代理等関係業務として、破産・個人再生申立、任意整理等の手続きを通じて、生活再建を支援できる職能である。高金利に苦しむ市民を助けるべく多くの司法書士が多重債務事件に取り組んだ結果、簡裁代理権を獲得し、その後も真摯に多重債務問題に取り組んできた。ところが、多重債務問題の鎮静化や、いわゆる過払事件が無くなって以降、その理念や技術が適正に後の世代に承継されなかった結果、司法書士の関与が少なくなってしまっていることも上記被害を生み出す遠因となっているのではないかと思料される。
実際に、簡裁代理権取得のための特別研修の科目・教材からも「多重債務問題」の分野は数年前から無くなっており、新しく登録をする会員が触れる機会は極端に少なくなってしまっている。今一度、各司法書士会における基礎的な研修機会の充実化も不可欠であると言える。この点、司法書士は、生活に困窮し、判断能力の衰えた高齢者等の支援をする機会も多く、成年後見分野においても多重債務分野の知識は重要である。さらに、受任経験の無い(少ない)会員の受任への心理的障壁を取り除くための施策も重要と言える。
令和10年6月までに家事事件と同じく倒産手続もIT化されることが予定されている。司法アクセスの拡充により市民の利便性が高まることが期待される一方、ITを利用した 処理が主流になることで、前述のような誇大広告や大量受託に伴う杜撰な処理による被害 を受ける市民が多くなることも危惧される。そうなる前に、今まさに各地域における司法 書士の支援体制を組織的に再構築すべきである。
具体的には、下記項目を施策の例として提示したい。
①各会の現行の業務広告に関する規則、債務整理業務に関する規則等を改めて会員に周知徹底するように促す
(規則基準制定後は規則化の促進及び周知徹底)
②各会の相談センターにおいて、債務整理に関する相談を受けていることの市民向け周知
(法テラスの情報提供窓口との連携等)
③市民の生活再建の視点で債務整理を行う司法書士を育成するために、各会の多重債務に関する研修実施状況を
整理し、積極的な開催を促す
④各会における各地の生活困窮者自立支援の窓口との連携状況を整理し、連携を促進する
⑤被害にあった当事者の救済のための施策(専用相談窓口の設置等)の検討以上の通り、改めて、司法書士行為規範に沿い、各地で一人でも多くの司法書士が多重債務事件の解決を通じた生活再建支援に積極的に取り組み、司法書士全体として連携して多重債務問題の抜本的な解決に取り組むことが重要である。よって、本決議を提案する。
なお、(経費と財源)必要な経費は、令和6年度 一般会計収支予算案のうち、「Ⅱ 事業費」の 「1 制度改善費」をもって充てる。