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2005年(平成17年)05月24日
法務省民事局参事官室  御中

「国際私法の現代化に関する要綱中間試案」に対する意見

日本司法書士会連合会
国際対策部

 

 

今般、貴参事官室より発表されました標記要綱中間試案対し、以下のとおり、意見を取りまとめましたので、提出いたします。

 

 

はじめに
司法書士は、不動産登記・商業法人登記手続の代理、簡易裁判所の訴訟代理、裁判所提出書類の作成等をその職務としている。司法書士において国際私法の知識 を不可欠とする分野は多くはないが、渉外相続登記手続や渉外後見の後見開始申立手続及び後見人への就任と後見事務、また、外国会社の日本における代表者の 登記手続等を執務として行う過程で、国際私法にかかわっている。
渉外相続登記手続では、国際私法のなかの総則及び家族法に関する抵触規定の知識を十分に弁えていなければ十全な執務を行い得ない。
相続の準拠法を知るのは、その前提に過ぎないからである。分断国家の本国法はいずれかの問題や連結点としての国籍が実効性を有するかの問題(韓国・北朝 鮮、中国・台湾等)、二重国籍の場合の本国法決定の問題、法性決定の問題(夫婦財産制か相続か等)、先決問題(婚姻、養子縁組、嫡出性等)の有効性判断や その準拠法はいずれかの問題、遺産分割での親子間の利益相反等では相続の準拠法とは異なるということ、反致の有無、公序則適用の可否(社会主義国の法を本 国法とする者の相続等)等...、国際私法の総則及び家族法全体の知識を総動員しなければならない。実質法の適用・解釈の段階へ行くには、この過程が必須であ る。
渉外後見に関する執務では、上記のほか、国際民事訴訟法(特に国際裁判管轄・手続は法廷地法に依るか等)に関する知識を要する。
一方、外国会社の日本における代表者の登記手続では、設立準拠法が登記事項になっているが、国際私法の知識を駆使するまでの必要性はそう多くはないと思わ れる(法人の従属法は、設立準拠法と営業本拠地法の何れであるのか、内部関係・外部関係はいずれによって規律されるのか等の知識は、上記登記手続の段階で は不可欠ではない)。
よって、この意見書では、主に国際私法の総則及び家族法分野に関するものについて重点を置き、取引法・法定債権法等の分野については司法書士執務の蓄積が少ないことから、簡単に理由を付した意見を述べるという形で要綱中間試案への意見を取りまとめたものとなっている。
また、全体を通して、依頼者から当該案件の最も良い解決を求められる実務家としての立場から、解決のための選択肢が必ず用意されていて、当事者が納得する 最善ではないにしても少なくとも何らかの解決を導くことができるという条文規定になるような改正を求めたいという実務家としての司法書士執務の立場の観点 から意見を述べることとした。

 

 

第1  自然人の能力に関する準拠法(第3条)
1 自然人の行為能力に関する取引保護規定(第3条第2項)
【意見】
A2案を相当と考える。
【理由】
現行の3条第2項は、国内取引保護主義に基づく規定であるが、今日の国際化時代において3条第2項の文言通りの限定的な保護では、狭すぎ、外国において法律行為をし た場合の取引の安全をも対象とすべきである。
また、本人の保護と取引安全の衡平を実現するためには主観的要件を課すことが必要と考える。

 

 

2 取引保護規定の適用除外(第3条第3項)
【意見】
賛成できない。
【理由】
外国に所在する不動産に関する法律行為については、取引安全の見地から、執行可能性のない内国取引を保護して有効とすることは適当でない。従って、現行の適用除外規 定を維持すべきと考える。

 

 

なお、「(注)自然人の能力を本国法によらしめる第3条第1項の原則は,維持する前提である。」についても意見を述べる。
【意見】
属人法として本国法主義を維持することについて疑問である。
【理由】
属人法の決定基準に住所地法主義と本国法主義の対立がある。その対立を解消する方策として常居所地概念が唱えられ、先般の法例改正では、特定の事項(婚姻の効力、夫婦財産制、親子関係等)に関し、副次的に常居所が連結点として採用された。
日本に定住する在日韓国・朝鮮人及び在日中国・台湾人については、その歴史的経緯により(特に2世・3世は日本で生れ育ち生活している。現代は4世の時代 に突入している。)、連結点としての国籍には実効性がないから国籍以外の要素を連結点とすべきとの学説・議論がある。
法例改正から16年を経過した今日では、上記の国からのニュー・カマー及びブラジル人やフィリピン人等の、歴史的経緯による「特別永住者」以外の外国人 の、定住化ないし永住化が進行している。国際私法の条項の具体的適用場面は、20数年後(日本で出生した外国籍または二重国籍の子が婚姻するとき)ないし 数十年後(死亡による相続のとき)に到来することをも想定して、そのときに困難を来たさないようまた矛盾を生じないように改正作業の検討をしなければなら ないと考える。
当事者の意識及び法律上の利害関係を有する第三者の意識においても、常居所地法を適用した方が素直に受容され且つ適切な解決を帰結するという状況が現出し つつあるように思える。属人法として本国法主義を維持する事項と、常居所を第1次的属人法決定基準にする事項とを、常居所概念をどのように再定義するか等 を含めて検討すべき段階にあると考える。

 

 

第2  後見開始の審判等の国際裁判管轄及び準拠法(第4条,第5条)
1 後見開始の審判等の国際裁判管轄
【意見】
C案が相当と考える。
【理由】
被後見人に後見人を付す意味には、被後見人の身上看護をして本人を保護するという意味と、本人所有の財産管理をして安全な取引秩序の維持を図るという意味合いの二つ がある。
被後見人の身上看護・保護の観点からは、本人が日本に常居所/住所がない場合にまで、日本の裁判所に後見開始の審判等の国際裁判管轄を認める実益は乏し い。しかし、 本人の財産管理・取引秩序の維持の観点からは、管轄原因に本国管轄及び財産所在地管 轄を認める実益があると思われる。
超高齢化社会に突入した日本において、日本より物価が低減で充実した介護を得ることができる等の様々な要因・動機から、日本に不動産等の財産を一部残した まま老後の 生活を国外で暮らそうとする日本人が増えつつある。また、日本に財産のある在日ない し定住外国人が、老後を父祖の地やその他の外国で過ごそ うとする事例もあると思われ る。日本にある不動産等が道路用地・建物建設用地として買収や競売等の対象になり、 本人に後見開始原因があっても国外に在 住する場合には、上記のような管轄原因が認め られる実益がある。本人の医学的鑑定を十全に行う等の手続保障については、司法共助 の有効利用等(通信手 段の発達により診断結果を映像付きで送信できる時代である)を 活用すれば果たせると思われる。

 

 

2 後見開始の審判等の準拠法
【意見】
法廷地法を準拠法とする考えに賛成である。
【理由】
後見開始の審判の原因及び効力は、上述の意味合いから日本の法律(法廷地法)を準拠法とすべきである。

 

 

なお、[常居所/住所]については、つぎのとおり考える。
住所概念については、英米法系のdomicileと大陸法系のwohnsitzとでは、その意味が全く異なる。日本においての住所概念は、複数の住所を有 することが可能であること及び永住意思を要しないなど、英米法系の住所概念とはかけ離れている。住所概念に特異な要素(永住意思など)を入れると、私たち に馴染みにくいものとなり、不要な混乱を来たす要因を持ち込むことになる。
よって、連結点として常居所または住所を規定する場合だけでなく、国際裁判管轄の管轄原因(土地管轄)を規定する場合においても住所ではなく常居所にすべ きであると考える。国内の実質法たる民事訴訟法等の管轄規定と、抵触法たる国際私法の管轄規定の用語(前者では住所、後者では常居所)が異なっていても矛 盾はないと考える。否、その方が却って国際私法上の概念の理解を助けると思われる。

 

 

第3 失踪宣告の国際裁判管轄及び準拠法(第6条)
失踪宣告の国際裁判管轄及び準拠法(第6条)
【意見】
賛成である。
【理由】
失踪宣告の意味が、本人の死亡を擬制して失踪者の財産管理・取引秩序の維持を図ることにあるから、前記5と同様に国際管轄権を広く認めるべきである。

 

 

第4 法律行為の成立及び効力に関する準拠法(第7条,第9条)
1 分割指定
【意見】
A案を支持する。
【理由】
分割指定を否定できるとの解釈の余地をなくすために、明文を設けるべきである。

 

 

2 準拠法選択の有効性
(1) 準拠法選択の有効性の基準
【意見】
B案に賛成する。
【理由】
特段規定を設ける必要はないと考える。

 

 

(2) 準拠法選択における黙示の意思
【意見】
A案を支持する。
【理由】
準拠法選択に関する明確性を確保するため。

 

 

3 当事者による準拠法選択がされていない場合の連結政策(第7条第2項,第9
条)
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
当事者の意思による準拠法選択がない場合には、法律行為に関する客観的な事実を考慮して決定を行うべきである。

 

 

4 準拠法の事後的変更
【意見】
A案を支持する。
【理由】
明文規定を設ける立法例が増えていることから、事後的変更に関する規定を設けない場合には、外国から日本は事後的変更を認めないと誤解される。
なお、この場合諸外国の規定と平仄を合わせる意味で、[]内の文言は除かないのが相当と考える。

 

 

5 消費者契約に関する消費者保護規定
【意見】
A案に賛成である。
【理由】
消費者契約について弱者保護の観点から、消費者契約に関する特則を設けるべきと考える。

 

 

6 労働契約に関する労働者保護規定
【意見】
A案に賛成である。
【理由】
今後、労働者の国際的移動の可能性が増大することが予測されることから、労働者保護規定を設けるべきと考える。

 

 

第5 法律行為の方式に関する準拠法(第8条)
1 法律行為の方式に関する準拠法(第8条第1項)
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
法律行為の方式は、法律行為の効力よりも法律行為の成立要件である実質的成立要件と密接な関係になることからその準拠法によるのが妥当である。

 

 

2 異なる法域に所在する者の間で行われる法律行為
(1) 異なる法域に所在する者に対する意思表示
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
異なる法域に所在する者に対する意思表示は、意思表示を行った者が現実に所在していた場所である発信地を行為地とすることが妥当である。

 

 

(2) 異なる法域に所在する者の間で締結される契約
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
法の適用関係が明確であり妥当である。

 

 

第6 物権等に関する準拠法(第10条)
【意見】
A案に賛成である。
【理由】
物権等についての画一的・硬直的な連結政策を緩和する意味で例外条項を設けるべきである。

 

 

第7 法定債権の成立及び効力に関する準拠法(第11条)
1 不法行為,事務管理又は不当利得の原則的連結政策
(1) 不法行為の原則的連結政策
【意見】
B案を相当と考える。
【理由】
加害者の準拠に関する予見可能性を担保できる。

 

 

(2) 事務管理又は不当利得の原則的連結政策
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
事案に応じた柔軟な結果を導くことができ妥当である。

 

 

2 不法行為,事務管理又は不当利得の当事者の常居所地法が同一である場合
(1) 不法行為の当事者の常居所地法が同一である場合
【意見】
A案の考え方を支持する。
【理由】
当事者の利益にかない妥当である。

 

 

(2) 事務管理又は不当利得の当事者の常居所地法が同一である場合
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
不法行為に関する特則は、事務管理及び不当利益においても同様に適用されることが合理的である。

 

 

3 不法行為,事務管理又は不当利得が当事者間の法律関係に関係する場合
(1) 不法行為が当事者間の法律関係に関係する場合
【意見】
A案の考えに賛成である。
【理由】
当事者の予見可能性を確保し、合理的な期待にかなう結果を導くことになり妥当である。
(2) 事務管理又は不当利得が当事者間の法律関係に関係する場合
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
不法行為と同様な規律とすることが合理的である。

 

 

4 例外条項
(1) 不法行為
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
連結政策の柔軟性が確保される。

 

 

(2) 事務管理又は不当利得
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
不法行為と同様な規律とすることが合理的である。

 

 

5 当事者自治
(1) 不法行為
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
当事者の選択による自治を認めるのが妥当である。

 

 

(2) 事務管理又は不当利得
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
不法行為と同様に当事者自治を認めるべきである。

 

 

6 特別留保条項(第11条第2項,第3項)
【意見】
B1案に賛成である。
【理由】
過度に内国法を優先させる規定は削除すべきだが、第3項はそれなりの意義があり維持すべきと考える。

 

 

7 個別的不法行為
(1) 生産物責任に関する準拠法
【意見】
A案の考えに賛成である。
【理由】
市場地法を準拠法とするのが妥当である。

 

 

(2) 名誉又は信用の毀損に関する準拠法
【意見】
A案の考えに賛成である。
【理由】
被害者の常居所地法を準拠法とするのが合理的である。

 

 

第8 債権譲渡等に関する準拠法(第12条)
1 債権譲渡の成立及び当事者間の効力
【意見】
A案の考えに賛成である。
【理由】
債権の譲渡可能性が譲渡の対象となる債権の準拠法によって規律されることが明確化される。

 

 

2 債務者に対する効力
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
「債務者に対する効力」と「債務者以外の第三者に対する効力」とを分離し、「債務者に対する効力」は、譲渡対象債権の準拠法によることで、その保護を図ることができる。

 

 

3 第三者に対する効力
【意見】
B案の考えに賛成である。
【理由】
「債務者に対する効力」と「債務者以外の第三者に対する効力」とを分離し、前者ついては、譲渡対象債権の準拠法により、後者については、譲渡人の常居所地法によるべきであると考える。
債務者に対する効力については、譲渡対象債権準拠法によれば十分にその保護になる。
一方、債務者以外の第三者に対する効力について、譲渡人の常居所地法によるのは、債務者以外の第三者は譲渡人に対して何らかの権利を有しているため譲渡人 が有する権利に関心を有しているのであり、また、譲渡の対抗要件についての登録等が行われるのも譲渡人の地であることから、譲渡人の常居所地法を準拠法と すべきであると考える。
平成16年12月1日公布された「動産及び債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」においても債務者との関係と債務者以外の第三者との関係 を分離しており、同新特例法において事業資金調達の方法として、顧客に対して有する大量の債権を一括して債権譲渡するような需要にも対応できるよう考慮す べきである。

 

 

第9 親族関係の準拠法(第13条第3項ただし書,第16条ただし書)
【意見】
B案の考えに賛成である。
【理由】
現代は、紛れもなく内外人平等を形式的にも実質的にも貫徹すべき時代である。そし て、今後ますます国際的な人・物の交流・交通が盛んになると予測され る。こうした背 景において、日本国内において日本人と外国人が婚姻する場合に日本の方式しかとり得 ないとする上記条項は、時代の要請にそぐわないと考 える。当事者に対して、日本また は国外のいずれにおいても、当該相手方外国人の本国法による婚姻の方式で婚姻をする ことができるとする選択肢を法律的 に平等に用意して置くべきであると考える。

 

 

また、「(注 )離婚に関する第16条ただし書は維持することとする。」については、賛成である。
国際離婚をしようとする場合は、両当事者間の友好関係が破綻していることが多いであろうから、日本に常居所を有する日本人が離婚する場合に日本法の方式の みによることを規定すること(いわゆる日本人条項)が、必ずしも内外人平等に反するものであるとは思われない。ただ、「逃げ帰り離婚」が安易になされない よう日本に常居所を有するとの戸籍実務の認定は厳密になされる必要がある。

 

 

なお、補足説明によると、現時点では、実務上、氏名の準拠法に関する明文の規定があることによる特段の困難は生じていないこと等を理由として、特段の規定 を設けないこととすることで意見の一致が見られたとあるが、婚姻に関連して、氏名の準拠法規定を設けるべきであると考える。
日本人が外国人と国際婚姻や国際養子縁組した場合の氏名変更にかかる戸籍実務のあり方(相手方外国人が日本人の氏を称することはないし、日本人が相手方外 国人の氏を称することもない。戸籍法第107条第2項の氏は「呼称上の氏」であって、「民法上の氏」ではない。)、学説からの批判が多いし、当事者からの 評判もよろしくない。かかる日本人の氏は日本人に特有のものであるとする戸籍実務は、内外人平等に反する。
「氏」の意義はファミリーネームである、とすることは世界的常識に属する。したがって、氏名には国際私法上の準拠法がなければならない。
氏名の準拠法を、身分関係の効力を規定する準拠法によるとするか、または、氏名は人格権たる氏名権としての性質を有するから本人の属人法によらしめるべき であるとするか等、学説の議論が別れるにしても、立法者は何れかを採用するという決断をなすべき責任を有している。当事者は、国際私法による準拠法を経由 した結果であれば、氏名変更を或いは氏名変更がないことを、腑に落ちない思いを抱かずに受容すると思われる。もしこれで不都合が生じた場合は、日本人の当 事者に関しては戸籍法107条に基づき「呼称上の氏」に変更する道が用意されている、という経過になるのが法理論的に順当な成り行きであろうと考える。

 

 

第10 後見等(第24条,第25条)
【意見】
試案に賛成である。
【理由】
被後見人本国法によれば後見開始の原因がある場合であって、日本における後見事務を行う者がいないとき及び日本において被後見人に対する後見開始の審判があったときに、裁判所による後見人の選任及び効力について、日本法を準拠法とすることが望まれる。
また、日本に住所及び居所を有しない外国人も対象となり、仮に日本に被後見人の財産が所在することを利用として後見人選任等の手続の交際裁判管轄が認められたとしても、日本法を適用することが可能となる。

 

 

第11 総則(第29条,第32条)
1 住所地法の決定(第29条)
【意見】
賛成である。
【理由】
法例第12条の改正提案や第7条2項の提案おいて、「住所地」を連結点とはならない等、法例の規定上「住所地法」を準拠法とする規定が存在しなくなることを前提とするならば、重住所又は住所の場合の規律を定めた第29条は削除することになる。

 

 

2 反致(第32条)
【意見】
A案に賛成である。
【意見】
韓国国際私法第49条第2項(被相続人による相続準拠法の選択)が、日本において有効に機能するためには、日本の国際私法たる法例に反致の規定がなければならない。
もしこれを削除すれば、韓国国際私法同条項に依拠して、在日韓国人の被相続人が遺言をもって常居所地法ないし不動産所在地法たる日本法を相続準拠法とすることを選択 したとしても、同人の遺志は水泡に帰してしまう。
このことを根拠の一つとして、A案(反致の規定(第32条)を維持する)に賛成する。

 

 

おわりに、中間試案の意見募集項目とならなかった事項等に関する意見

 

 

今回の要綱中間試案は、23回にわたる会議の審議を踏まえて取りまとめられたとのことであり、また、事務局である参事官室がこれまでの検討に基づいて作成した「補足説明」もあわせて公表されているところある。
要綱中間試案において見直しが必要とされた項目は、審議の過程において検討したとされる全ての検討項目を含むものではなく、審議において検討された項目の全体は、補足説明からうかがい知ることとなる。
そこで、補足説明において検討されたが要綱中間試案の提案の対象とはならなかった項目、さらには、補足説明あるいは要綱中間試案のいずれにおいても検討さ れたことがうかがわれないが、今般の見直しに際し、あわせて検討の項目とすべきものを要望として意見を付して提出する。

 

 

1.「法例」という法律の名称を「国際私法」と改正することについて
要綱中間試案及び補足説明のいずれにおいても、「法例」という法律の名称を改正するかどうかについての検討がなされた旨の記述はないところではあるが、「法例」という名称を維持することには反対である。
今回の見直しの理由のひとつとして、「国民生活一般に深く関わる民事の基本法であるから、その表記を新たな時代にふさわしく、かつ、国民にわかりやすいものとするため、」されているところである。
このように、わかりやすい法律用語を使うことにより、難解な法律を身近なものとする時代の要請を具現化するための要となるのは、「法例」の場合、法例よりも分かり易い「国際私法」とその名称を改めるべきであることから始まると考える。
韓 国でも、2001年に国際裁判管轄を含めた抜本的な(且つ大胆な)国際私法の改正がなされ(7月1日施行)、法律の名称も「渉外私法」から「国際私法」に 変更された。今般の法例改正の審議は、時代の要請に適合的であるようにするという「現代化」という目的を掲げている。すなわち、韓国と同様に、法例の抜本 的改正をめざしていると考えられるので、当然に法律の名称変更も視野に入れるべきである。
なお、現行法例の第1条(法律の施行時期)及び第2条(慣習法)の規定が、必ずしも国際私法にのみ限るものではないとの理由からの名称維持であるのなら、法例の規定にはこの2つの条文のみを口語化して残し、その余を国際私法として新たに制定することが相当と考える。

 

 

2.被相続人による相続準拠法の選択について
補足説明においは検討されたが、被相続人による準拠法選択はこれを認めないこととされ、要綱中間試案での提案は行わなかったとのことであるが、つぎのとおり意見を提出する。
韓国国際私法第49条第2項は、被相続人による遺言をもってする準拠法の選択を一定範囲(常居所地法または不動産所在地法)で認めた。この背景には、外国に常居所(永住する)及び不動産を有する在外自国民、特に在日韓国人の存在があると思われる。
翻って、日本人にそのような事情があるかと問えば、ほとんどない。よって、日本人の被相続人による準拠法の選択を認める実益は少ないと思われる。しかし、 日本に永住する在日韓国人は、日本国が実効支配する地に定住しており当然日本の法例に規律されることになるのであるから、日本の国際私法においても被相続 人による準拠法の選択を一定程度認めるとしたら、在日韓国人の人々の安心感には相当大きいものがあると思われる(法律理論的には、それを認める・認めない は無関係であるが)。そして、在日韓国人以外の在日北朝鮮人及び在日中国・台湾人にとっては、本国の国際私法が被相続人よる準拠法選択を認めていないか ら、日本の法例が被相続人によるそれを認めることは、決定的に重大な意味を持つ。自己責任や自己決定が、個人の生き方のキーワードになる時代であり、ま た、上記在日外国人の意識も、永住的な常居所地の法且つ不動産等の財産を築いた地の法に親和性を有していると推測される(4世の時代に入っている)。
よって、被相続人による相続準拠法の選択を一定範囲で認める規定を設けることを要望したい。

 

 

3.未承認国家の準拠法について―格調高い法律の目的を掲げることを提案する―
補足説明においては検討されたが、特に規定を置かなくても解釈上の疑義が生ずる余地はなく、特段の規定を設けることは不要であるとの旨で意見が一致したため、要綱中間試案での提案は行わなかったとのことであるが、つぎのとおり意見を提出する。
未承認国家の法(北朝鮮、台湾など)が準拠法となる場合に、それを準拠法として適用し当該私法上の渉外法律関係を規律すべきことに学説上の異論はない。
しかし、不動産登記手続実務や戸籍処理実務の現場において、登記・戸籍官吏等から未承認国家の法の適用に疑義が提起されることがある。こうしたことを無く すには、未承認国家の法が準拠法となり得る旨の明文の規定を設けるのが最も手っ取り早い方法であるが、疑う余地のない全く当然の事理を条文として規定する ことも体裁が悪い。
そこで、この際、下記のような趣旨の、国際私法そのもの目的・理念ないし機能をうたう法律の目的を第1条に掲げたら良いのではないかと考える。
「この法律は、私法上の渉外法律関係について適用すべき準拠法は何れの国家・政府ないし地域の法であるか及び国際裁判管轄に関する規則を定め、もって、国際的な人類及び物資の交流及び交通についてその円滑及び安全に寄与することを目的とする。」
一般人に分かりやすいものとするとの国際私法の現代化の要請の一つに、これは適うはずである。そして、法律の目的・理念が掲げられると間違いのない法律解釈の指針になるであろうし、法律の体裁が良いのではないかと考える。
格調の高い、法律の目的を起草されることを期待し、結びとする。