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意見書等
2021年(令和03年)11月04日
消費者庁消費者制度課 消費者裁判手続特例法担当 御中
消費者裁判手続特例法等に関する検討会報告書に関する意見
日本司法書士会連合会
会長 小澤 吉徳
当連合会は,標記報告書について,次のとおり意見を申し述べる。
1.対象となる事案の範囲
(1)請求・損害の範囲の見直し(報告書10~14頁)
【意見】
①画一的に算定される慰謝料について本制度の対象とすることに賛成する。
②慰謝料を本制度に加えるに際し,個人情報漏洩事件を一律に対象外とすることについて反対する。
【理由】
①慰謝料請求については,従来支配性及び係争利益の把握可能性という2つの要請の観点から本制度の対象外とされていた。しかしながら,慰謝料に係る事案であっても,個々の消費者に生ずる債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断可能な事案は存在し,また,想定される消費者の損害額やその算定方法について訴状等に記載することで,事業者に係争利益を予想することも可能となると考えられる。したがって,慰謝料についても本制度の対象とするべきである。
②個人情報漏洩に係る事件については,不特定多数の消費者が損害を被るものであるところ,支配性の観点からみれば,画一的な債権額の算定が可能だと考えられる。ついては,不法行為の要件を満たす限り,本制度の対象となるべきものであり,仮に事業者側の事情によりデータの利活用が妨げられることや情報漏洩防止のために必要な資源が賠償のために圧迫されるという懸念を考慮したとしても,故意又は重過失による情報漏洩であれば,事業者側の事情により対象外とすべき要請よりも消費者の被った損害を賠償すべき要請が優ると考えられる。(2)被告の範囲の見直し(報告書15頁)
【意見】
悪質商法事案において,当該事業者の代表者や実質的支配者を被告となる者に追加するとの考え方に賛成するが,事業者及び個人の双方について故意又は重過失を要件とすることについては反対する。
【理由】
悪質商法事案について,その利益が役員や実質的支配者等の個人に移転してしまう場合があることは,報告書において指摘されているとおりであり,財産の散逸により被害回復が困難となることを防止するためにも,個人を被告に追加することができるようにすべきである。
なお,被告に個人を追加できる要件については,事業者及び個人の双方について故意又は重過失を必要とすると,特定適格消費者団体側の立証負担が大きくなり過ぎるものと考えられる。ついては,事業者側に故意又は重過失が認められる場合は,個人が共同不法行為責任を負う要件として,重ねて故意又は重過失を求める必要性まではないものと考える。
(3)直接的な契約関係にないが一定の関与をした事業者に対する請求(報告書16頁)
【意見】
契約当事者である事業者以外の事業者により,景品表示法に定める不当表示に係る不法行為に基づく損害を被った場合には,当該事業者も被告とすべきである。
また,景品表示法に定める不当表示に係る不法行為より損害を被った場合には,当該不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の対象とすべきである。
上記の解釈につき明確化すべきである。
【理由】
商品の販売や役務提供を行う事業者と当該商品や役務提供を広告する事業者が異なる消費者契約によって,消費者が被害を受ける場合がある。それにより,消費者契約を勧誘する若しくは当該勧誘を助長する事業者も,景品表示法上の不当表示に該当する表示を行っている場合には,消費者と直接的な契約関係にない場合であっても,不法行為に基づく損害賠償請求の相手方とすべきである。
また,景品表示法に定める不当表示は,適格消費者団体による差止請求の対象とされており,適格消費者団体もこれまでの活動において,不当表示を行う事業者に対し差止請求権を行使し,事業者の不当表示を改善させ,一定の成果を上げている。このこととのバランスの観点から,特定適格消費者団体による被害回復において,景品表示法上の不当表示に係る不法行為に基づく損害賠償請求も対象とすべきである。
したがって,上記の解釈を明確化すべきである。
(4)支配性の要件の考え方(報告書17頁)
【意見】
支配性要件の考え方を厳格化しないことに賛成する。
【理由】
支配性の要件については,厳格に解すると,個別消費者ごとに認定額の差異が生じることから,対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると解され,訴えが却下される可能性も高くなり,特定適格消費者団体が提訴をためらうことも考えられる。そうすると,消費者被害の迅速かつ集団的解決が困難になり,本法律を制定した意義が失われる。
したがって,支配性要件は維持するとしても,簡易確定手続における審理を工夫すること等,適切かつ迅速に判断することが困難であると認められる場合に限って,本制度の対象外とするべきとの考えに賛成する。また,当該要件について,過度に厳格に運用されることのないよう,支配性要件の考え方を検討することに賛成する。
2.共通義務確認訴訟における和解(報告書18~22頁)
【意見】
共通義務確認訴訟における和解の対象を「第二条第4号に規定する義務の存否」に限定する現行法の規律を削除すべきである。また,この際,運用に資するため,一般的に考え得る和解の例につきガイドライン等で示すことに賛成する。
【理由】
現行法の規律では,共通義務確認訴訟における和解は共通義務の存否に限られるため,通常の訴訟における和解のように,争点についての明確な判断はせずに解決金名目で一定の金銭を支払うといった,柔軟かつ迅速な解決を行う方法が許容されていない。
しかし,特定適格消費者団体の実際の運用では訴訟外の和解で早期に一定の金銭の返還合意に至ったケースが認められる等の運用の実態がみられる。また,共通義務の存否に限らない柔軟な和解が許容されることは消費者又は事業者双方にとって利点があることは,他の訴訟類型と差異はないと考えられる。
3.対象消費者への情報提供の在り方
(1)通知方法の見直し(報告書22~23頁)
【意見】
通知において公告を確認するために必要な事項を記載したときは,現行法が定める通知事項の一部の記載を要しないとすることに賛成する。
なお,「公告を確認するために必要な事項」については対象消費者の属性に照らし,適当な方法を示すべきである。
【理由】
報告書記載のとおり,知れている対象消費者に対しては,第一に当該消費者が救済対象となる旨を自覚させる情報を伝えることが重要であり,かつ,通知の役割としては十分であると考えられる。具体的には,「対象債権及び対象消費者の範囲」(法第25条第1項第3号)を大きく記載する方法が考えられる。
「公告を確認するために必要な事項」は,対象消費者の具体的な権利実現のための重要な情報へのアクセス手段であるから,確実に具体的手段に必要な情報を対象消費者に伝えることが重要である。そこで,例えば,スマートフォンを利用する者が多い事案であれば,アクセス先のQRコードを表示する等の工夫を対象消費者の属性に照らし行うことが適当である。
(2)役割分担と費用負担の見直し(報告書24~27頁)
【意見】
知れている債権者への個別連絡を事業者の役割とすること及び個別連絡ができない場合に,公告費用の一定額を事業者の負担とすることに賛成する。
【理由】
事業者による個別連絡は,受け取った消費者の信頼という点で実効性を高め,かつ,相対的に費用を抑えることが期待できる。ただし,悪質な事業者である等,個別連絡をさせることに適さない事例があることには留意が必要である。
通知公告費用は,裁判の準備費用であり,通常の民事訴訟手続においても訴訟費用に含まれないため,事業者の負担とすべきではないという意見があるが,共通義務確認訴訟によって事業者が法的責任を負うことが既に確定している点,通知公告の主体及びその方法は授権率に大きく影響する点,事業者の関与の程度に応じて負担額を変えることで実効性が高まる点等から,特別法として事業者の費用負担を認めるべきである。
なお,事業者による個別連絡及び公告費用の負担が任意にされない場合の実現手段としては,通常の民事訴訟等当事者間の任意の対応に委ねることとした場合,事業者が義務を果たさないことで特定適格消費者団体の負担が大きくなるため,裁判所が共通義務確認訴訟又は簡易確定手続に付随する裁判として,その旨を命ずる手続を導入するべきである。また,事案によって,事業者が個別連絡義務を負うべきか否か,負担すべき公告費用の金額は変わるため,裁判所によって柔軟な判断ができるようにするのが望ましい。
(3)情報提供の実効性を高めるための方策(報告書27~28頁)
【意見】
特定適格消費者団体による保全手続及び第三者から協力を得る仕組みを設けることに賛成する。
【理由】
訴訟の係属中に,事業者が当該訴訟の当事者に関する情報を破棄することにより,通知ができなくなり,被害回復が妨げられる事態を防ぐために保全手続を認めるべきである。
また,現在の取引においては,プラットフォーム事業者が関与する電子商取引等,訴訟の当事者である消費者及び事業者に関する情報を第三者が保有することが増えてきている。よって,当該情報をその第三者に提供するよう協力を依頼できる仕組み又はある程度の義務を課す仕組みを,弁護士会照会等の手段を補完するためにも設けるのが望ましいと考える。
4.実効性,効率性,利便性を高める方策
(1)特定適格消費者団体の情報取得手段の在り方(報告書28~30頁)
【意見】
事業者の財産に関する情報の取得について,早急に検討を求める。
【理由】
特定適格消費者団体の提訴の判断にあたっては,相手方事業者の財産に関する情報が重要な考慮要素であり,その情報を入手することができない場合は,提訴を躊躇させる要因となっている。本制度の活性化を図るためには,特定適格消費者団体による相手方事業者の財産情報の把握が必要不可欠である。債務名義の存在を前提とする民事執行法上の財産開示手続との関係においては,本法における財産情報の開示手続における開示内容を提訴の判断に十分な情報に制限することによって,整合性をとることが可能であると思われる。
(2)時効の完成猶予・更新に関する規律の在り方(報告書30~31頁)
【意見】
共通義務確認訴訟が和解により終了した場合についても,6か月を経過する時点までに消費者による対象債権に係る訴えの提起があったときは,時効が完成しないものとする旨の規律を設けるよう求める。
【理由】
共通義務確認訴訟の帰趨を見守っている消費者には,当該共通義務確認訴訟の結末を事前に予測することはできず,共通義務確認訴訟が和解により終了した場合に和解の内容に不服な消費者が共通義務確認訴訟の係属中に時効をむかえる場合,提訴の機会を失うこととなる。時効の完成を避けるために当該消費者は,共通義務確認訴訟の結末のいかんにかかわらず,一律に訴訟提起をしておかなければならないこととなり,訴訟経済にも反することとなる。
よって,和解の内容に不服な当事者に提訴の機会を与えるために時効の完成を猶予する規律を設けるべきである。
(3)簡易確定手続開始の申立義務を免除する範囲等(報告書32頁)
【意見】
①簡易確定手続開始申立義務が免除される「正当な理由」に該当する場合について,解釈を明確化することに賛成する。
②簡易確定手続開始申立ての申立期間の伸長に賛成する。
【理由】
①例えば,相手方事業者の破産手続が開始された等,客観的に見て明らかな場合は,「正当な理由」の該当性が判断しやすいが,事業者が開店休業状態であって回収可能性が低い場合等が「正当な理由」に該当するかの判断は難しい。解釈を明確化することで,特定適格消費者団体の判断における負担が軽減すると考える。
②申立てを免除される理由の調査等に一定の時間は必要であり,期間の伸長が必要と考える。
(4)手続のIT化(報告書33 頁~34頁)
【意見】
①民事訴訟法等の帰趨に応じて,適切な対応をとることに賛成する。
②特定適格消費者団体と対象消費者との間の手続のIT化において,特定適格消費者団体の意見も取り入れ,ツールの開発を検討していただきたい。
【理由】
①民事訴訟法等の帰趨に応じて,消費者裁判手続特例法においても検討をしていただきたい。
②共通義務確認訴訟では,対象消費者が多数存在することが考えられるため,特定適格消費者団体と対象消費者との手続は特定適格消費者団体にとって,事務量が大きくなる。特定適格消費者団体にヒアリングする等して,特定適格消費者団体の意見も取り入れ,事務負担の軽減,効率化を図ることのできるツールの開発を検討していただきたい。
また,その導入において費用負担が大きくなる場合には,行政の支援も必要と考える。
(5)簡易確定手続における事件記録の閲覧等の在り方(報告書34頁)
【意見】
記録の閲覧,謄写等について,その主体を当事者及び利害関係人等に限定すること等の方策をとることに賛成する。
【理由】
閲覧,謄写等に制限をかけることによって,消費者が安心して手続に参加できることが望まれる。
また,対象消費者の二次被害の防止にもつながる。
(6)対象債権に係る金銭の支払方法及び支払に要する費用(報告書35頁)
【意見】
簡易確定手続を経て確定した対象債権に係る金銭の支払について,振込手数料の費用を事業者の負担とし,その費用についても共通義務確認の訴えにおける請求の対象に含められることを明確にすることに賛成する。
【理由】
本制度においても,弁済に必要となる費用は債務者が負担することを原則とする民法の規定との整合性を取るべきである。
なお,振込みの方法については,窓口,ATM又はインターネットバンキングのどの方法を取るか,自行宛か他行宛か,振込金額がいくらかによってその手数料が異なってくるが,金額は一律とする等,規定の煩雑化を防ぐ配慮をすべきである。
5.特定適格消費者団体の活動を支える環境整備(報告書37~39頁)
【意見】
消費者団体訴訟制度の運用を支える主体に対して,公的な財政面での支援を拡充する方向で検討することを求める。
【理由】
報告書においては,団体に寄附等が寄せられることで,取組を行い,成果を上げる自立的なサイクルを目指すとしているが,団体の活動を支える資金を消費者あるいは事業者による寄附に頼るのには限界があり,非現実的である。特定適格消費者団体による消費者団体訴訟は,国として取り組むべき重要な消費者政策の一つであり,そのために使われる地方消費者行政強化交付金を使う等,公的に財政面での支援を行うことを検討すべきである。
6.破産手続との関係(報告書40頁)
【意見】
特定適格消費者団体に破産申立権を認め,申立てに係る費用についての援助のための制度を設けることを検討することを求める。
【理由】
ジャパンライフの巨額詐欺事件等,既に破綻状態にある事業者が営業活動を継続することを放置することで,更に消費者被害が拡大した事例は枚挙に暇がない。現行法では,事業者が破産状態になったときは,手続を終了するしかなく,上記のような事例に講ずる策がない。破産手続開始の申立てを消費者個人が行うのはハードルが高く,消費者被害の拡大を防ぐためにも,破産の申立権者に含まれる消費者から授権を得ている特定適格消費者団体にも破産の申立権を認めるべきである。
破産申立てにあたっては,管財事件で処理されるケースが多いことが想定されるが,予納金等の支払について,消費者個人や財政基盤が必ずしも強固であるとはいえない適格消費者団体に負担をさせるのは酷であり,資金面で援助を行う制度を創設することを検討すべきである。
7.検討会の検討対象外とした事項(報告書40~41頁)
【意見】
オプトアウト方式の検討を行うことに賛成する。オプトアウト方式を導入している諸外国の裁判の実態を検証し,我が国の裁判制度の下でどのような方法を取るのが最適であるかを判断すべきである。
【理由】
オプトアウト型の集団訴訟は,授権がないにもかかわらず被害者の申出がない限り訴訟に拘束されること,訴訟の濫用が行われることが懸念されること等のデメリットが指摘されるが,自ら訴訟手続に加入してこない被害者を訴訟に取り込み,多くの訴訟当事者を集めることができること等のメリットも挙げられる。手続を実効性のあるものとするために,オプトアウト方式を導入するか否かは,検討に値する事項である。
消費者裁判手続特例法等に関する検討会報告書に関する意見