-
意見書等
2020年(令和02年)03月10日
法務省民事局商事課 御中
「法務局における遺言書の保管等に関する省令案」に関する意見書
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
当連合会は,標記省令案について,次のとおり意見を申し述べる。
1.第4条関係
【意見】
遺言書保管申請書等つづり込み帳の保存期間は,より長期にすべきである。
【理由】
遺言書については,遺言に関する紛争を防止する観点から,長期の保管が企図されていることからすると,少なくとも保管申請書等(第1号)については,もっと長期にわたって保存されることが望ましい。
2.第5条関係
【意見】
遺言書の保管の申請の撤回(法第8条第1項)がされた場合における当該遺言書に係る情報の消去(同条第4項)についても,法務局長又は地方法務局長の認可を受けなければならないものとすべきである。また,同項には「遅滞なく」とあるが,この場合における保存期間を別途定めるべきである。
【理由】
後段については,撤回が成りすましによって行われることも想定されるため,この場合において「遅滞なく」消去してしまうことなく,相応の保存期間を別途定めるべきである。
3.第6条関係
【意見】
(1)申請書等のマス目を大きくすべきである。
(2)外国人が保管の申請をしようとする場合には,申請書等に記載する姓名については,在留カード記載のローマ字表記による記載を認めるべきである。
(3)文字の同一性については,戸籍記載の文字と完全一致しなくても認めるべきである。法務省通達(「「氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する「誤字俗字・正字一覧表」について」の一部改正について」(平成22年11月30日付け 法務省民一第2905号通達))に準拠すべきである。
(4)筆記具の指定(黒のボールペン限定等)をすべきである。
(5)不動産登記規則第45条第2項及び商業登記規則第48条第3項に準じて,訂正方法のルールを設けるべきである。
【理由】
(1)字画を明確に記載するには,申請書等のマス目が小さ過ぎると思われる。遺言書を作成しようとするのは,視覚が衰えつつある高齢者が多いと思われることから配慮すべきである。
(2)外国人の姓名については,その同一性の観点から,可能な限り外国語の文字による記載を認めるべきであり,日本に在留する外国人であって,在留カードにローマ字表記が記載されている場合には,これによることを認めるべきである。
(3)特に氏名に関する文字については,誤字又は俗字が散見されることから,文字の同一性については,戸籍記載の文字と完全一致しなくても認めるべきである。
(4)鉛筆が使用されると,長期の保存に堪えないことから,筆記具の指定(黒のボールペン限定等)をすべきである。
4.第9条関係
【意見】
(1)自筆遺言証書に民法第968条第2項の規定による財産目録を添付する場合に,当該財産目録は,遺言書と一体のものであるから,別記第1号様式による必要があると解されるが,例えば登記所発行の登記事項証明書は,この要件を満たしておらず,縮小コピー等の調整が必要となると思われる。柔軟に対処すべきである。
(2)両面に記載されている場合も多いと思われるので,これに対応すべきである。
5.第10条関係
【意見】
(1)申請書等のマス目を大きくすべきである。また,住所を記載するマス目の数をもっと増やすべきである。
(2)「遺言者の署名又は記名押印」の部分は,「署名」を原則とすべきである。また,「記名押印」を認める場合には,遺言書に押印したものと同一の印章によって押印することを原則とすべきである。
(3)遺言者の出生年月日については,西暦の記載もすることができるようにすべきである。その他の請求人についても同様である。
(4)受遺者,遺言執行者等が相続人である場合には,その旨を記載することで,住所等の記載を省略することができるようにすべきである。
(5)備考欄に,同行者の有無やその氏名その他申請書の受付時の状況等について,記録すべきである。
(6)氏名又は名称について,遺言者のみフリガナの記載が要求されているが,遺言者以外の者についても,フリガナの記載を求めるべきである。
【理由】
(1)申請書等のマス目が小さ過ぎると思われる。また,マイナンバーカードの住所欄(44文字)に収まりきらないケースが約3%もあるそうであり,マンション名と部屋番号で20文字を超えることも珍しくはない。したがって,住所欄は,文字数をもっと増やすべきである。
(2)保管の申請をされた遺言書が遺言者の自筆によるものであるか否かを確認するために,「遺言者の署名又は記名押印」の部分は,「署名」を原則とすべきである。また,遺言者と申請者の同一性の確認の観点から,「記名押印」を認める場合には,遺言書に押印したものと同一の印章によって押印することを原則とすべきである。
(3)遺言者が外国人である場合に配慮して,出生年月日については,西暦の記載もすることができるようにすべきである。その他の請求人についても同様である。
(4)重複して記載を求めるのは煩雑であるからである。
(5)後日の紛争の防止の観点から,遺言書保管官が,保管の申請を受け付けた際の状況を記録しておくことが望ましいからである。
6.第11条関係
○第11条第1号について
【意見】
遺言者が外国人である場合には,当該規定の適用はないと明記すべきである。
【理由】
婚姻の届出に関する戸籍法第74条第2号による戸籍法施行規則第56条第1号及び出生の届出に関する戸籍法第49条第2項第3号においても,当事者が外国人の場合には,国籍だけを記載事項していることとの整合性から考えて,遺言者の戸籍の筆頭に記載されたものの氏名の記載は不要と考える。
○第11条第3号について
【意見】
(1)登記簿上の所在及び地番を記載すべきことを申請書等に明記すべきである。
(2)不動産が遺産共有状態にある場合等,相続登記が未登記である場合においても,法第4条第3項の規定による管轄を認めるべきである。
【理由】
(1)管轄を確認するためであるには,登記簿上の所在及び地番を記載することを求めるべきだからである。
(2)先代の相続に関する遺産分割協議が未了である場合に,その相続分について遺言による分割方法の指定をすることも可能であることから,相続登記が未登記である場合においても,法第4条第3項の規定による管轄を認めるべきである。
○第11条第5号について
【意見】
(1)「遺言者が外国人である場合,法第4条第4項第3号ロの記載事項及び本条の記載事項については,相続準拠法が外国法である場合においても記載させるものとする。」との規定を本省令に加えるべきである。
(2)第5号の記載を要すべき場合に,その記載がないときは,補正の指示をすべきである。
【理由】
(1)遺言書保管法第4条第4項第3号ロの「民法第千六条第一項の規定により指定された遺言執行者」とは,日本民法の規定により指定された遺言執行者であるところ,そもそも遺言書保管法は,外国人が,遺言の方式の準拠法に関する法律(昭和39年6月10日法律第100号)第2条第1号,第3号から第5号の規定に基づき日本民法第968条による自筆証書遺言の方式で遺言書を作成した場合,その方式が有効となることから外国人についても適用されると解される。
一方,外国人が遺言によってなし得る内容の問題については,法の適用に関する通則法(平成18年6月21日法律第78号)(以下「通則法」という。)第36条によって遺言者の本国法が適用される。そこで,例えば日本在住の韓国人が,遺言で相続準拠法を日本法と指定をしなかった場合には,韓国民法が適用されるので,同人が遺言で遺言執行者を指定した場合の当該遺言執行者は,韓国民法第1093条の規定による遺言執行者である。遺言書保管法の立法趣旨からすれば,当該韓国民法に基づく遺言執行者を同法第4条第3号ロが規定する日本民法第1006条第1項の遺言執行者と同様に取り扱うことは当然であると考える。
そこで,遺言者が外国人である場合,相続準拠法が外国法であったとしても,遺言書保管法第4条第4項第3号及び第4号に基づく本省令案第11条第5号の事項を記載させるべきである。
(2)その該当性について一般人には理解が困難であると思われるので,記載がない場合には,補正の指示をすべきである。
7.第12条関係
○第12条第1項第1号について
【意見】
遺言者が外国人である場合には,「遺言者の戸籍の筆頭に記載された者の氏名を証明する書類」の添付を要しないと明記し,当該書類の添付がなくても保管申請ができるとすべきである。
【理由】
当該規定は,部会第12回会議で議論されているように,遺言書保管法に基づく遺言については検認手続を不要としたことから,家庭裁判所が相続人等に対して行う通知と同様の機会を確保するという必要及び第196回国会衆議院法務委員会会議録第19号(平成30年6月8日)において,本保管制度と戸籍等と連携するシステムを設けることを前提とした規定と考えられるところ,そもそも戸籍を持たない外国人の場合については,戸籍を基盤とする当該連携システムに組み込むことはできないので,戸籍の筆頭に記載された者の氏名を証明する書類の添付を要しないと規定すべきである。
○第12条第2項について
【意見】
(1)外国の官庁又は公署若しくは外国公証人によって作成されたものをも含むとすべきである。
(2)受遺者及び遺言執行者についても,氏名又は名称及び住所を証する書面を添付しなければならないこととすべきである。
【理由】
(1)日本に不動産を所有し外国に住所を有する外国人であっても,遺言書保管法第4条第3項によって,遺言書の保管申請ができるところ,当該外国人が添付する同法同条第4項第2号を証明する書類は,住所を有する外国の書類になることから,外国の官庁又は公署の作成したものをも含めるとすべきである。
また,外国の中には官庁又は公署において当該証明書を作成しない国もあることから,外国公証人によって作成された書類をも含むとすべきである。
(2)受遺者及び遺言執行者について,氏名又は名称及び住所が申請書の記載事項であり,変更があった場合には,その変更の届出をすべきとされていることから,これらを証する書面を添付しなければならないこととすべきである。
8.第13条関係
【意見】
(1)遺言者の本人確認を行う上での本人特定事項は,「氏名」「住所」及び「生年月日」の3点を必須のものとすべきである。したがって,第1号の「旅券等」は不可とすべきである(商業登記規則第61条第7項本文の取扱いを参照)。基本的には,不動産登記規則第72条第2項の取扱いに準じるべきである(旅券等を許容する取扱いを除く。)。
(2)本人確認証明書として「運転免許証」,「個人番号カード」,「旅券等」及び「在留カード」を提示する方法による場合,ICチップの内容確認をすべきである。
(3)外国人の「旅券等」は,当然外国語で記載されているところ,この点については,「説明」でよいのか,訳文を添付させるのか,明確にすべきである。
【理由】
(1)同姓同名の別人との取り違えを防止する観点から,遺言者の本人確認を行う上での本人特定事項は,「氏名」「住所」及び「生年月日」の3点を必須のものとすべきである。基本的には,不動産登記規則第72条第2項の取扱いに準じるべきである(旅券等を許容する取扱いを除く。)。
(2)本人確認証明書として「運転免許証」,「個人番号カード」,「旅券等」及び「在留カード」を提示する方法による場合,ICチップの内容確認をするのであろうか。特に,「在留カード」については,偽造が横行しているという報道があるところであり,必ず確認すべきと考える。「運転免許証」及び「個人番号カード」については,券面事項表示ソフトが無償で公開されており,「在留カード」及び「旅券等」についても,出入国在留管理庁が仕様を公開し,その結果,有償ソフトが市販されているので,確認すべきものと考える(「運転免許証」及び「個人番号カード」については,券面事項表示ソフトで,有効期限を入力するだけでICチップの内容がわかり,本人にパスワードを入力させる必要すらないので,絶対にチェックすべきである)。
(3)「旅券等」については,「出入国管理及び難民認定法」第2条第5号によれば,「イ 日本国政府,日本国政府の承認した外国政府又は権限のある国際機関の発行した旅券又は難民旅行証明書その他当該旅券に代わる証明書(日本国領事官等の発行した渡航証明書を含む。)/ロ 政令で定める地域の権限のある機関の発行したイに掲げる文書に相当する文書」とされており,日本国政府が発行した旅券に限られていない。外国人の「旅券等」は,当然外国語で記載されているところ,この点については,「説明」でよいのか,訳文を添付させるのか,明確にすべきである。
9.第14条関係
【意見】
遺言者の本人確認を行う上での本人特定事項は,「氏名」「住所」及び「生年月日」の3点を必須のものとすべきである。
【理由】
「8.第13条関係」理由(1)で述べたとおり,同姓同名の別人との取り違え防止の観点から,意見のとおりとすべきである。
10.第15条関係
【意見】
保管申請の受付の時点に「受理証明書」のようなものを発行すべきであるし,第2項の別記第3号様式には,「申請年月日」の記録も必要である。また,「遺言者の住所」の記録も必要であると考える。
【理由】
省令案第19条第1項及び第2項の規定から,「法第4条第1項の申請をした時」と「遺言書の保管を開始した時」には,一定の時間差があるものと思料され,申請書の受付時点で保管証を即時交付することは想定されていないようである。そうであれば,保管申請の受付の時点に「受理証明書」のようなものを発行すべきであるし,第2項の別記第3号様式には,「申請年月日」の記録も必要である。また,「遺言者の住所」の記録も必要であると考える。
11.第16条関係
【意見】
保管証を送付する方法は,本人限定受取郵便による方法とすべきである。
【理由】
自筆証書による遺言書の保管の申請をしたという事実は,極めてプライバシーに関わることであることから,保管証が第三者の手に渡り,その事実が知られることを防止するためである。
12.第18条関係
【意見】
(1)却下の決定書を第2項の規定により送付する場合には,第3項の規定により遺言書及び添付書類の還付についても同時に送付することになると思われるが,本人限定受取郵便等の厳格な方法とすべきである。
(2)保管の申請の受付後,保管が開始されるまでの間に遺言者が死亡した場合であっても,申請に不備がなければ,そのまま保管が開始されることとすべきであるが,申請に不備があって補正を要する場合には,相続人等が補正をすることはできず,政令第2条に基づき保管の申請は却下されることとすべきである。
【理由】
(1)自筆証書による遺言をしたという事実は,極めてプライバシーに関わることであることから,遺言書等が第三者の手に渡り,その事実が知られることを防止するためである。
(2)保管の申請に不備があり補正を要する場合,相続人等が補正をすることはできないのは,当然であることから,この場合には申請を却下すべきである。なお,この場合,遺言書及び添付書類は,誰に還付されることになるのであろうか。相続人が不存在である場合には,特に問題になると思われる。
13.第26条関係
【意見】
政令第3条第1項の規定により変更の届出が義務付けされているのであるから,保管の申請の撤回をする場合に,当該変更の届出がされていないときは,当該届出義務を免ずることを明記すると共に,「当該変更を証明する書類」については,第29条の規定を準用するものとすべきである。
14.第27条関係
【意見】
翻訳文の保存に関する規定を設けるべきである。
【理由】
本条第2項は,翻訳文の返還に関する規定であるが,そもそも翻訳文の保存についての規定がない。翻訳文が「保管申請書等」として省令案第4条第1号のつづり込み帳につづり込まれることは,その保存期間の問題から適切ではない。遺言書と同様の長期の保管期間を設けるべきである。
15.第28条関係
【意見】
政令第3条第1項の規定による届出を受けて,遺言者の住所等の変更に関する事項に関しても,遺言書保管ファイルに記録すべきである。
16.第29条関係
【意見】
(1)遺言者が外国人で外国に住所を有する場合や,遺言者が日本人で外国に住所を有する場合には,外国の官庁又は公署若しくは外国公証人によって作成されたものをも含むべきである。なお,遺言者が日本人であれば,在外日本領事館の証明書類に加えて外国公証人の証明書類でもよいとすべきである。
(2)戸籍法の表現に合わせて,「戸籍謄本」は「戸籍証明書」とすべきである。
【理由】
(1)「7.第12条関係」第2項の理由(1)と同様である。
17.第30条関係
【意見】
(1)第1項の「変更が生じたとき」については,「変更を生じたことを知ったとき」とすべきである。
(2)第1項の規定による届出を受けて,この変更事項に関しても,遺言書保管ファイルに記録すべきである。
【理由】
(1)第1項の「変更が生じた」ことを遺言者がタイムリーに知ることは不可能を強いることになることから,「変更を生じたことを知ったとき」とすべきである。
18.第33条関係
○第33条第2項第1号について
【意見】
「遺言者及び関係相続人等が外国人である場合には,請求人の資格については,外国法を適用して確認するものとする。」との規定を本省令に加えるべきである。
【理由】
遺言者が外国人の場合,請求人の資格は,通則法第36条(相続)の定める準拠法によって,遺言者の本国法である外国法に基づき定まる(ただし,通則法第41条(反致)によって相続準拠法が日本法となることがある。)。
さらに,ある人が相続人であるかどうかの身分関係の存否については,先決問題として個々の身分関係の準拠法により確定することになる。身分関係の準拠法が反致によって日本法が適用される場合がないこともないが,多くの場合は遺言者の本国法である外国法が適用されると思われる。
したがって,遺言書保管官は,請求人の資格の確認については,外国法を適用して確認しなければならないものと考える。
○第33条第2項第5号について
【意見】
(1)全ての相続人の確定に当たっては,上記(1)のとおり遺言者が外国人であれば,相続準拠法及び身分関係の存否に関する準拠法を慎重に調査すべきである。また,遺言書保管官は,遺言者が外国人である場合には,関係相続人等に対し,他の相続人の出生の年月日及び住所等を聞き取るべきである。その結果,全ての相続人が判明しないとしても,判明する限りの相続人の氏名,出生の年月日及び住所を記載すれば足りるとすべきである。
(2)第2項第5号に「遺言者及び関係相続人等が外国人である場合には,遺言者の相続人については,外国法を適用して確認するものとする。」との規定を本省令に加えるべきである。
(3)第2項第5号の「相続人」は,法第9条第1項第1号の規定から,相続の放棄をした者等を含む趣旨であると解されるので,その旨を明記すべきである。
【理由】
(1)遺言者が外国人である場合には,相続準拠法及び身分関係の存否に関する準拠法の知識が必要であるところ,これを関係相続人等が理解していることは稀であり,遺言書保管官が説明すべきである。その結果,全ての相続人が判明しないとしても,判明する限りの相続人の氏名,出生の年月日及び住所を記載すれば足りるとすべきである。
(2)「18.第33条関係」第2項第1号の理由と同様である。
19.第34条関係
【意見】
(1)「全ての相続人の住所を証明する書類」を添付することができない場合について措置すべきである。
(2)第1号の規定により法定相続情報一覧図の写しを添付する場合には,当該写しに相続人の住所が記載されているときであっても,第2項の住所を証する書面を添付しなければならないものとすべきである。
(3)第1号後段の括弧書きの「これらに準ずるもの」について,遺言書保管官は関係相続人等に対し,具体的に添付書類を明示すべきである。
(4)第2号の「遺言者の全ての相続人の住所を証明する書類」について,入手可能な証明書を添付すれば足りるとすべきである。また,遺言書保管官は,当該証明書の入手方法について,関係相続人等に対し,具体的に説明すべきである。
(5)第3号について,外国公務員又は外国公証人が作成した証明書も含まれるとすべきである。
(6)第4号の「代表者の資格を証明する書類」については,会社法人等番号で足りるものとすべきである。また,法人の代表者から内部権限の付与を受けた者が交付の請求の手続をする場合の手当が必要である。
(7)法定相続情報一覧図の写しをもって遺言者の全ての相続人に関して証明する書類に代えることはできないと解される。
(8)遺言者の相続開始後に二次相続が生じた場合の相続人に関する戸籍事項について手当すべきである。
【理由】
(1)「全ての相続人の住所を証明する書類」を添付することができない場合がしばしば生じ得ると思われるので,この場合の取扱いについて措置すべきである。
(2)第1号の規定により法定相続情報一覧図の写しを添付する場合に,当該写しに相続人の住所が記載されているときであっても,その作成時における住所証明書には3か月以内のものでなければならない旨の規定はないので,第2項の住所を証する書面を添付しなければならないものとすべきである。
(3)遺言者又はその相続人が外国人である場合の添付書類については,現状の不動産登記実務のように,ある程度遺言書保管官に委ねざるを得ないと考える。
(4)そもそも遺言書保管官は,外国に住所を有する外国人相続人又は日本人相続人に対し,遺言書保管法第9条第5項の通知を想定しているのか,疑問である。このことは第196回国会衆議院法務委員会会議録第21号(平成30年6月15日)で「遺言書保管官が速やかに相続人や受遺者等への通知をするものとすることを規定しておりますが,これは,証明書の交付請求者等や法務局に,調査のために特別のコストをかけてまで必ず通知しなければならないことを規定するものではございません。」と法務省小野瀬民事局長が答弁していることから,想像に難くない。
(5)本規定は,不動産登記規則(平成17年2月16日法務省令第18号)第6章法定相続情報第247条第2項第6号の規定ぶりと同じである。
すなわち,法定相続情報証明制度においては,「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務等の取扱いについて(通達)」(平成29年4月17日付法務省民二第292号法務省民事局長通達)によって,被相続人が日本国籍を有しないなど戸除籍謄抄本の全部又は一部を添付することができない場合及び相続人が日本国籍を有しない場合は,本制度を利用することができないとしており,必然的に申出人は日本人であることを想定した規定である。一方,遺言書保管法については,遺言者が外国人であっても適用されることが明らかであり,当該遺言者の相続人が外国人であることも当然想定できるところである。よって,本号の証明書には外国公務員又は外国公証人が作成した証明書も含まれるとすべきである。
(6)第4号の「代表者の資格を証明する書類」については,会社法人等番号の提供があれば,登記所において確認可能な情報であるからである(登記事項証明書等は,誰でも取得することが可能な情報でもある。)。また,法人の代表者から内部権限の付与を受けた者が交付の請求の手続をする場合の手当が必要であると考える。
(7)法第9条第1項第1号及び同条第5項によると,遺言書情報証明書の交付請求権等を有する「相続人」には,「民法第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者及び相続の放棄をした者を含む。」とされているところ,法定相続情報一覧図の写しには,「民法第891条の規定に該当した者」(=欠格者)及び「相続の放棄をした者」は記載されるものの,「廃除によってその相続権を失った者」は記載されないことになっていることから,法定相続情報一覧図の写しをもって遺言者の全ての相続人に関して証明する書類に代えることはできないと解される。
(8)遺言書情報証明書の交付の請求権については,遺言者の死亡後に二次相続が発生した場合の相続人についても,権利として認められるものと解されるが,本条第1項第1号の「遺言者の相続開始の時における遺言者の全ての相続人の戸籍謄本」等では,二次相続の相続人に関する証明書として足りないことになる。
20.第35条関係
【意見】
第2号については,遺言書の記載から明らかであるので,遺言書情報証明書に明記する必要はないと考える。
21.第36条関係
【意見】
遺言書情報証明書を送付する方法は,本人限定受取郵便による方法とすべきである。
【理由】
自筆証書による遺言をしたという事実は,極めてプライバシーに関わることであることから,遺言書情報証明書が第三者の手に渡り,その事実が知られることを防止するためである。
22.第44条関係
【意見】
(1)第1号については,受遺者や遺言執行者等の「相続人以外の者」が交付の請求をする場合について手当すべきである。
(2)第4号の「代表者の資格を証明する書類」については,会社法人等番号で足りるものとすべきである。また,法人の代表者から内部権限の付与を受けた者が交付の請求の手続をする場合の手当が必要である。
【理由】
(1)第1号については,受遺者や遺言執行者等の「相続人以外の者」は,取得することが困難であるからである。
(2)第4号の「代表者の資格を証明する書類」は,「代表者の資格を証明する書類」については,会社法人等番号の提供があれば,登記所において確認可能な情報であるからである(登記事項証明書等は,誰でも取得することが可能な情報でもある。)。また,法人の代表者から内部権限の付与を受けた者が交付の請求の手続をする場合の手当が必要であると考える。
23.第48条関係
【意見】
このような規定を置く必要はないと考える。
【理由】
法第9条第1項第2号(イを除く。)及び第3号(イを除く。)に掲げる者に対して,遺言書が存する等の通知をすることは,相続人又は遺言執行者の義務であり,省令に規定を設けて遺言書保管官が行うものとする必要はない。仮に,このような規定を設けるのであれば,これらの者の住所移転等についても,遺言者に変更届出の義務を課すべきこととすべきである。
以上