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意見書等
2019年(令和元年)12月20日
厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課 御中
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」に関する意見
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
意見の趣旨
1.パワーハラスメントの要素①とされる「優越的な関係」の定義について,より広く解釈されるよう表現を改めるべきである。
2.パワーハラスメントの要素②とされる「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動の判断に際し,「労働者の問題行動の有無」を要素とすべきではない。
3.パワーハラスメントに「該当しないと考えられる例」は,全て削除すべきである。意見の理由
1.趣旨1について
「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」報告では,職場のパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義している。さらに職場内の優位性の説明において,先輩・後輩間,同僚間,さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものを含むとしている。しかし,指針案では,上記定義の「優位性」を「優越的な関係」と表現を変え,「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係性」と説明をしており,明らかにこれまでの定義よりも狭める表現となっており,適切とは言えない。2.趣旨2について
仮に労働者の行動に問題があっても,パワハラは許容されるものではない。パワハラの違法性は,言動の「業務上必要性の有無」,「不当な動機・目的の有無」,「受忍限度を超えているか否か」等で判断される。つまり,労働者の問題行動によって,当然にパワハラ該当性が否定されることにはならない。このようなパワハラの非該当要件とも解釈が可能な要素として「労働者の問題行動の有無」を含める表現は相当ではない。3.趣旨3について
(1)本指針案中に示された「該当しないと考えられる例」は,「該当すると考えられる例」との差異を外形的に判断することが困難である。外形的差異の有無の判断が困難であるということは,パワハラがあったとの被害者からの訴えに対して,加害者側に「該当しないと考えられる例」と同様又は類似の事案であるとの抗弁を与え,本指針が加害者側の抗弁として作用することにつながりかねず,本指針制定の趣旨に鑑みれば,敢えて「該当しないと考えられる例」を例示する必要性はない。(2)また,「該当しないと考えられる例」の列挙を必要とする理由として,「使用者側の予見可能性」の観点が挙げられるが,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)(以下「セクハラ等に関する指針」という。)においては,セクシュアルハラスメントに「該当しないと考えられる例」は列挙されていない。本指針及びセクハラ等に関する指針との均衡を鑑みれば,「使用者側の予見可能性」を理由として,本指針にのみ「該当しないと考えられる例」の列挙を要求することの根拠は乏しいと言わざるを得ない。
さらに,例えば,休業手当(労働基準法第26条)の要件である「使用者の責に帰すべき事由」についても,通説及び判例によれば,民法上は使用者の帰責事由にならない経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しない限りは含まれるとされている。このように広範ともいえる要件であっても,「使用者側の予見可能性」を理由とした公的な例示があるわけでなく,パワハラに「該当しないと考えられる例」を列挙しないことは,現行の労働法制とのバランスを欠くものではない。以上
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」に関する意見