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意見書等
2019年(令和元年)10月03日
観光庁 御中
「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」に対する意見
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典当連合会は,2018年(平成30年)8月29日,「特定複合観光施設区域整備法」成立を強く懸念し,『カジノ施設を含む特定複合観光施設を計画し開設することに反対する会長声明』を発し,多重債務問題の再燃とギャンブル依存の問題を指摘して,カジノ施設の開設を認める法案に反対してきた。今般の「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(以下「本方針案」という。)に対し,カジノ施設を含む特定複合観光施設(以下「IR」という。)を計画し開設することに反対する立場から,以下のとおり意見を述べる。
IR区域の整備計画の作成や申請には地域における合意形成が要求されている。正しい合意形成にはIR区域がもたらす弊害についての情報も必要であるところ,本方針案は,経済的社会的効果として政府の観光戦略の目的達成へのIR区域の整備の貢献についてデータ等に基づき精緻に推計することを求める一方(本方針案32頁),カジノ施設の設置及び運営により発生する有害な影響など平穏な市民生活に不利益をもたらす負の側面については推計自体求めていない。もとより本方針案は,カジノ施設の影響が,犯罪,善良の風俗及び清浄な風俗環境,交通環境,青少年の健全育成,依存,財政,国際協定,産業,自然環境などに及ぶことを想定している。よって,有害な影響として想定されるこれらの事項についての情報も供されるべきであり,経済的社会的効果と同様に説得力のある手法やデータを用いて影響を推計し具体的な対策を示すよう求めるべきである。
カジノ施設の設置及び運営により発生する有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策を講ずることは,国及び関係地方公共団体の責務とされている(本方針案44頁)。一方,IR事業者に対しては,暴力団員等のカジノ施設への入場の禁止,マネー・ローンダリング防止のための措置,20歳未満の者のカジノ施設への入場禁止や,20歳未満の者に対する勧誘の禁止,日本人や外国人居住者を対象とした一律の入場回数制限や入場料の賦課,利用制限措置や相談窓口の設置といった利用者の個別の事情に応じた対応,日本人等に対する貸付業務の規制や広告及び勧誘の規制等の措置を確実に実行すべきとされるが,依存防止等については「自主的に」依存防止に万全を尽くす必要がある(本方針案45頁)とされるにすぎない。IR事業者は、自らが運営するカジノが引き起こす依存症や多重債務など市民生活に与える様々な有害な影響に対し企業として社会的責任を負う立場にある。それにも関わらず,本方針案において依存防止への取り組みをIR事業者の義務と定めないこと,IR事業者に対しカジノ事業の収益を有害な影響の排除のために活用することを義務づけていないことは問題である。カジノ行為の依存防止のための対策義務は都道府県等が負うとされる。一私企業であるIR事業者の事業によって生じた依存症にまつわる諸問題を社会に負担させるという方針は均衡を失しており,到底容認できない。