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意見書等
2007年(平成19年)09月03日
金融庁監督局総務課金融会社室 御中
貸金業者向けの総合的な監督指針(案)に関する意見書
日本司法書士会連合会
会長 佐 藤 純 通日本司法書士会連合会(以下,「当連合会」という。)は貸金業者向けの総合的な監督指針(案)(以下,単に「監督指針」という。)について,以下の通り意見を述べる。
第1 Ⅱ‐2‐8 禁止行為等について
1. 監督指針では,貸金業法12条の6第1号に該当するおそれの大きい行為として,ロ.「資金需要者等が契約の内容について誤解していること又はその蓋然性が 高いことを認識しつつ正確な内容を告げず,資金需要者等の適正な判断を妨げること。」が掲げられているが,上記例示に加えて,以下の行為を具体的な例示と して,追加することを求める。みなし弁済規定の適用がない明白な事情が存するにもかかわらず,利息制限法所定の制限を超える利息を請求すること。
みなし弁済規定の適用がない明白な事情が存するにもかかわらず,利息制限法所定の制限を超える利息を収受すること。
一連の最高裁判決において,みなし弁済規定の適用要件につき厳格な解釈がなされているにもかかわらず,大多数の貸金業者は,みなし弁済規定の適用がない明 白な事情(例えば,受取証書に貸金業の規制等に関する法律18条1項2号所定の『契約年月日』に代えて,『契約番号』を記載していること等)が存すること を熟知しながら,顧客の誤解に乗じて,利息制限法所定の制限を超える利息を請求若しくは収受し続けている。
このような貸金業者の行為は,顧客に対する不法行為を構成するものであり(神戸地判平成17年8月25日,釧路地判平成18年9月19日,仙台高判平成 19年2月22日[反対解釈],札幌高判平成19年4月26日,大阪高判平成19年7月31日等),また,多重債務者を増加させる大きな一因となっている ものである。
以上のような現状を放置すべきではなく,上記行為が法第12条の6第1号の禁止行為に該当することを貸金業者に周知徹底させるべきである。2. 監督指針では,資金需要者等に対し借入申込書等に年収等の重要な事項について虚偽の内容を記入するなど虚偽申告を勧めることが禁止行為の類型として定めら れている。貸金業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令(案)においても,事業者の運転資金及び消費者の療養費等について総量規制の例外 を設ける旨が検討されていること,さらに債務の返済のための借入が多重債務に陥る大きな原因であると考えられることからも,資金需要者等の資金使途,家計 状況は,貸金業者が与信判断を行う上で年収と同様に重要な事項と考えられる。
そこで,本規定において資金使途及び家計状況についても年収と併記して具体的に明示すべきである。3.貸金業法16条3項は,いわゆる「適合性の原則」を貸金業法の分野においてはじめて明文化したものであり評価できるが,これを実効化するために,法12条の6第4号に該当する行為として,適合性の原則に違反する契約を締結する行為を追加すべきである。
確かに,「ニ」では「資金需要者等が身体的・精神的な障害等により契約の内容が理解困難なことを認識しながら契約を締結すること」とあるが,適合性の原則を欠く場合は,資金需要者等が障害を有することにより契約の内容が理解困難な場合に限定されるものではない。
すなわち,高齢者・年金生活者・生活保護受給者などにおいても不適切となる場合があるし,借入金額や金利そして保証や不動産担保の提供の場合など契約内容 に照らして適合性を欠く場合もある。特に,高齢者が連帯保証人となり生活基盤である居住用不動産を担保に提供する場合などは原則として適合性を欠くと言え る。そこで,適合性の原則を欠く契約一般について禁止行為とすべきである。なお,いかなる場合に適合性を欠くこととなるのか当該監督指針や自主規制等にお いて具体化すべきである(経済産業省:商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン参照)。
したがって,禁止行為の例示(イないしニ)に,「資金需要者等の知識・経験・財産の状況及び貸付けの契約の締結の目的に照らして不適当と認められる契約を締結すること」を追加すべきである。第2 Ⅱ‐2‐10 過剰貸付けの禁止について
1. 監督指針の主な着眼点(1) では,「資金需要者等の年収額や既往借入額等に基き,例えば,月々の返済額が他社借入返済額と合わせて月収の1/3以下とする等,債務者の返済負担が過剰 とならない客観的かつ具体的な貸付基準を整備し,役職員に周知徹底しているか。」が掲げられている。
しかしながら,上記「月収の1/3以下」との基準は,4条改正の完全施行の準備段階であることを考慮したとしても適正な貸付基準であるとは到底考えられない。「月収の1/5以下」ないし「月収の1/9以下」との基準に修正されるべきである。
そもそも,法13条の2(4条改正)に規定する年収等の「3分の1」という基準は,年収600万円未満の世帯の毎月の実収入から実支出を引いた額が毎月の 実収入の15%程度であることを根拠の一つとして設定されたものである(大森泰人編「Q&A新貸金業法の解説」p87社団法人金融財政事情研究会)とこ ろ,上記「月収の1/3」(33.3333…%)という基準は,上記15%の2倍を超える基準であり,資金需要者等が日常生活に支障なく返済が可能となる 範囲内であるとはいえない。
また,「多重債務問題の現状と対応に関する調査研究」(国民生活センター)によれば,債務者の家計状況について「総務省統計局の2004年の家計調査で は,年間収入五分位階級別一世帯あたり年平均勤労者世帯1か月間の収入と支出が明らかにされているが,サラ金等の利用者の多くは,年間収入452万円以下 の第1階級のグループに属すると考えられる。そのグループの月平均の可処分所得は260,185円であるのに対し,消費支出は月額平均220,329円で ある。消費支出のうち,住居費が月額平均23,521円となっているが,家賃の支出がある場合には,その額は月額5~6万円程度,また住宅ローンの返済に は月5から10万円程度は必要であると考えられるから,その場合の支出はもっと多くなる。」と分析されている。
ところで,総量規制の年収の3分1という要件は,年収の3分の1を総額とする債務を一定の期間で完済することを予定としている。現に日本貸金業協会の苦情処理及び相談対応に関する規則(案)27条3項においても返済期間をおおむね3年とすることを定めている。
したがって,債務者の家計状況の統計的分析並びに総量規制の趣旨から,年収の3分の1に相当する債務を3年間で返済する場合は,毎月の総返済金額の合計は月間収入の9分の1を目処とする必要がある。第3 Ⅱ‐2‐15 取立行為規制について
監督指針では,法第21条第1項2号に規定する「その申出が社会通念に照らし相当と認められないことその他正当な理由」の例示として,「ホ.申出に係る返 済猶予期間中に債務者等に支払停止,破産開始等の申立,所在不明により,債務者等から弁済を受けることが困難であることが確実となった場合」が掲げられて いる。
しかしながら,「破産開始等の申立」がなされたのであれば,貸金業者は,以降その手続きに協力すべきであるから,債務者等に電話をかけ,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の居宅を訪問することの正当な理由とはならない。同文言は削除すべきである。第4 Ⅱ‐2‐16 債権譲渡について
監督指針では,債権譲渡に関する主な着眼点(3) において「債権譲受人との債権譲渡契約において,債務者等からの問い合わせや取引履歴の開示請求など,債務者等への対応について債権譲受人との責任分担が明確となっているか。」が掲げられている。
しかしながら,本来債務者等は,債権譲渡契約の内容にかかわらず債権譲渡人及び債権譲受人の双方に取引履歴の開示請求等を行なうことができるはずである。 したがって,監督指針としては,「債権譲渡契約における責任分担の内容如何にかかわらず,債権譲渡人及び債権譲受人の双方が債務者等からの問い合わせや取 引履歴の開示請求に対応できるような態勢が整備されているか。」と修正されるべきである。責任分担を明確化しさえすれば,一方が開示義務等を免れるかのよ うな表現は問題がある。