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意見書等
2003年(平成15年)07月31日
法務省民事局民事第二課 御中
「電子情報処理組織を使用する方法による申請の導入等に伴う不動産登記法の改正に関する担当者骨子案」に対する意見
日本司法書士会連合会
会長 中 村 邦 夫平成15年7月1日付で、貴課からご依頼のありました標記担当者骨子案につきまして、以下のとおり、意見を提出いたします。
登記申請のオンライン方法の導入にあたっては、電子情報処理組織を利用する技術が未だ安全で確立した技術とはいえず、とりわけセキュリティーなどの信頼性に 関しては,脆弱な面があることは否めないこと、ならびに電子情報処理システムに対する国民の信頼感も十分に定着しているとは言い難い状況にあることから、 その実施の際には十分な実証実験を行い機能性や信頼性の検証をし、取引界における実用性の評価を踏まえつつ、慎重かつ柔軟にシステムの見直しを図りながら 順次実施するよう慎重な配慮と取り組みを求める。
また、国があらたに電子情報処理組織によって国民のプライバシーに関する登記情報を管理することについては、情報の遺漏に対する対策、目的外使用の防止策など十全な対処が必要である。日本司法書士会連合会(以下、「日司連」という。)は、上記の基本的な視点から以下に骨子案に対する意見を個別に述べる。
第1 電子情報処理組織を使用する方法による申請の導入に伴う申請手続の見直し
(電子情報処理組織を使用する方法による申請と申請書を提出する方法による申請との関係)
1 電子情報処理組織(登記所の使用に係る電子計算機と申請人又はその代理人の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法による申請は,申請書を提出する方法による申請と併存して,認めるものとする。【日司連意見】
電子情報処理組織を使用する方法による申請(以下、「オンライン申請」という。)を導入すること、ならびに、申請書を提出する方法による申請(以下、「窓口申請」という。)を併存して認める制度には、基本的に賛成する。【理由】
国民の負担軽減、利便性の向上という電子政府樹立に向けた基本的な構想、ならびに登記事務処理の合理化・効率化という観点からオンライン申請方式の導入をはかることには賛同する。
ま た、多数の国民が利用する不動産登記手続について、その申請方法をオンライン申請に一本化し、窓口申請を認めない制度とすることは、インターネットの一般 国民への普及の度合いやIT化に対応できない国民が大多数いる現状からして受け入れ難いものであるので、オンライン申請方法の他にも窓口申請方法を併存さ せどちらを利用するかは国民の自由な選択に任せるのが相当であり、骨子案に賛成するものである。2 電子情報処理組織を使用する方法による申請と申請書を提出する方法による申請とは,いずれも受付の順序に従って処理するものとし,両者の前後は,各申請の受付の時点の先後によるものとする。
【日司連意見】
賛成する。【理由】
登記は民法第177条の対抗要件を得るための重要な手続きであるから、オンライン申請と窓口申請がどのような処理手続きにより受付されるかは、申請人に とっては重大な影響を有するものである。したがって、受付の時間的先後の順序によって登記が実行されるという制度的要請を実現するためには、申請方法の種 類を問わず同一の受付システムにより公平に受付処理がなされるシステム構築をすることが必須である。
なお、窓口申請の受付時点の決定には登記所職員の行為が介在するので、その受付処理事務は可能な限り機械化し自動処理するものとし、迅速かつ効率的な処理方策をとることを求める。(申請手続の構造)
3 権利に関する登記の申請における出頭主義の制度は,廃止する。
(注) 従来どおり,登記所の窓口に出頭して申請することは可能である。【日司連意見】
オンライン申請において出頭主義を廃止することには賛成する。
窓口申請における出頭主義の廃止には、一部条件付で賛成する。【理由】
日司連は、従来は、出頭主義の廃止に反対してきた(平成15年4月30日意見書)。
し かし、現実には出頭主義の趣旨が形骸化してきていることは否めないし、不正登記防止の心理的抑圧効果という事実的効果も必ずしも絶対的なものではない。ま た、オンライン申請の方法において出頭主義を廃止した以上、他方で、窓口申請での申請書を提出する申請方法においては郵送による申請を一切認めないという 合理的な理由付けは難しいものがある。
出頭主義を厳格に維持することの制度的効果と、IT技術に対応できない国民や、登記所統廃合の結果登記所から遠隔地に居住する国民のための利便性の要請とを比較し評価すると、郵送申請を認めることに現実的な意義を見出すことができる。
したがって、これまでの意見を修正し、出頭主義の廃止に一部条件付で賛成するものとする。
骨 子案によると、「前後が明らかでない数個の申請は、登記所に同時に提供したもの」とみなし、「同一の受付番号」を付して、「相互に矛盾する申請について は、いずれの申請も却下」する制度を創設するとするが、申請人の意思と無関係に同順位の登記がなされ、あるいは却下するとの制度は、順位保全が重要な意味 を持つ登記には採用することは相当ではない。
また、郵送申請などの場合、申請後の補正は、共同申請の場合に両当事者が共同で行うことを要するの か、郵便のやりとりによりできるのか、補正が不能で取り下げをする場合にも郵便によることができるのか、却下処分の場合にも郵送でよいのかなど、運用にお ける不安定要素が極めて多いのも事実である。
受付順位の確定や補正事務等の問題の十全な解決方策をとることが必須であり、当面は、単独申請の登記で順位保全の必要性のないものに限定して郵送申請を認めるなど、国民に混乱を生じない方策を十全に講じることを要請する。4 権利に関する登記における共同申請主義は,維持する。
(注) 表示に関する登記の申請構造には,変更はない。【日司連意見】
賛成する。【理由】
現行不動産登記制度が採用している真正担保構造の中心になるのは、当事者共同申請主義である。現行制度において例外的に認められている単独申請のうち、義務者の承諾書を添付して行う仮登記につき、種々の問題が発生している。
共同申請主義を廃止することは、真正担保制度の核心を放棄し、現在発生している問題をさらに拡散する危険がある。よって日司連は、共同申請主義を維持するとの骨子案の結論に賛成する。(申請手続における本人確認)
(前注)電子情報処理組織を使用する方法による申請においては,印鑑及び印鑑証明書に代えて,電子署名及び電子証明書を利用することを前提とする。【日司連意見】
賛成する。【理由】
(1) 物理的存在を利用することが出来ないオンライン申請においては、「機能的等価物」を利用することになる。印鑑及び印鑑証明書の機能的等価物として、現時点では、電子署名及び電子証明書が相当であるとされており、これを採用することに基本的に賛成する。
(2) しかしながら、電子署名及び電子証明は、印鑑及び印鑑証明に比べ管理の点で難点があり、長期間経過後の有効性検証が困難であることなど、不利な面も多い。 登記の添付書面が訴訟における書証として扱われていることなどから見て、電子署名及び電子認証が印鑑及び印鑑証明書と同様の機能を発揮できるよう、制度・ 技術の両面の整備が必要である。
(3) 印鑑及び印鑑証明書は、印影との照合ができること、事実上の発行確認が可能であることなど、その有効確認ができることを前提として国民の経済取引に重要な役割を果たしている。
登 記手続は、不動産経済取引における重要な構成要素であり、取引そのものに密接に関わる。したがって、オンライン申請において電子署名・電子証明書の有効性 の検証制度が確立されないまま、公的個人認証のみを利用せざるを得ないとすれば、不動産取引経済は混乱するおそれが大である。
とくに資格者代理人は、国民から委任を受け、経済取引および不動産取引の安全性を確保し、登記手続きの円滑に資する役割を期待されており、その立場からも、公的個人認証の有効性検証制度の確立が必須である。
(4) そこで、法律上守秘義務が課せられている登記申請を業とすることができる一定の専門職(司法書士・弁護士)が代理申請をするときには、資格者団体が設置す る電子認証機関(電子署名法にもとづく特定認証業務の認定ならびにGPKIとの相互接続認証のあるもの)を通じて公的個人認証の有効性検証ができるよう関 係省庁に働きかけ実現するよう要望する。
(5) なお、登記申請人が用いる電子署名・電子証明書について意見を付言する。
現行の制度に おいて、所有権の登記名義人が登記義務者として登記を申請するときは、個人は市区町村の作成した印鑑証明書、法人は登記所が作成した代表者の印鑑証明書の 提出を義務付けられる。これとの対比からして、登記義務者の電子署名・電子証明書は、個人の場合は住民基本台帳制度に基礎を置く地方自治体の長が発行し証 明する公的個人認証に限るものとすべきであり、また法人の場合も商業登記制度に基礎を置く登記所発行の電子証明書に限るものとすべきである。
なぜ ならば、現在の電子署名法に基づく民間の特定認証業務の認定を受けている電子認証機関が発行する電子証明書は、 発行に際し、必ずしも面前での本人確認はなされず郵送での書面のやり取りだけで比較的簡単に取得ができるものであり、成りすましによる取得の危険は大き い。 また、氏名の変更や住所の移転等の変更があっても本人がその認証機関に届けない限り有効期間内は有効な電子証明書として使用されうるものであり、登記申請 時の本人の同一性確認には不適格である。 さらに、複数の民間の電子認証機関に申し込めば複数の電子証明書を保有することができ、実印と印鑑証明書のように唯一性を持つものでもなく、後日の紛争の ときの証明に困難を来たす。
したがって、登記義務者の本人確認の手段として民間の電子証明書は使用すべきではないし、登記権利者の場合にも使用を避けることが望ましい。
(6) 法人における公的電子認証の保有率が低く、公的個人認証の利用も今後の実施状況の推移を見なければ不明な現状に鑑みれば、オンライン申請が広く利用される前提として、公的認証の基盤整備及び利用の拡大が必須であり、政府の一層の努力を求める。5 登記名義人である申請人を確認するための現在の登記済証の提出制度に代替する制度を設ける。
(1) 登記完了時に,登記済証の交付制度に代替するものとして,登記名義人になった者を識別するための情報(以下「登記識別情報」という。)を通知し,その者が 次回の登記の申請人として登記の申請をするときには,その者を識別するための情報として,登記所に登記識別情報を提供することを原則とする。【日司連意見】
以下のように修正提案する。1. 所有権に関する登記申請の場合には、「登記識別情報」の提供に加え、専門家による人的な確認方法を採用するものとする。資格者代理人による登記申請の場合 には、資格者代理人による本人確認情報の提供を必須のものとする。本人申請の場合は、登記識別情報の提供に加え厳格な事後通知による確認制度を用いるもの とする。
2.所有権に関する登記以外の場合は、資格者代理人による本人確認情報の任意的提供がある場合を除き、登記義務者に対する事後通知を発するものとする。
なお、登記完了時の「登記識別情報」の交付にあたっては、「登記完了通知」とともに情報の漏洩・偽造変造を防止するため、可能な限り原本性を確保するシステムを用いるべきである。
【理由】
(1) 「登記識別情報」は、一定の管理条件の下において、一定の限定的な申請人本人を確認する機能を有するものと評価する。すなわち、骨子案補足説明23の指 摘にもあるとおり、申請人本人の確認機能を果すためには、その発行、保管、情報提供のすべての段階において厳重に管理されることを前提とする。
しかしながら、この「登記識別情報」に対しては、司法書士会内に極めて強い批判がある。
批判の主な論拠としては、
①数字とアルファベットの組み合わせである「登記識別情報」は、観念的な情報という性質から原本性・唯一性がないため複数の存在を可能とし、また適切な管 理・保管が極めて困難なため、紛失・忘失、コピーや不正使用の可能性が高く、登記済証に比べてその本人確認機能は劣ることとなり、現行制度よりも真正担保 機能は相当低下すること。
②名義人本人しか知ることのできない情報であることを前提にしているため、取引に際して相手方に識別情報を開示できず、登記必要条件の完備と代金決済を同時に行っている現行の取引慣行が維持できないこと。
③情報の提供時に一度開示されるか、または開示された疑いがある場合には、第三者による不正利用の危険性が大きくなるが、本人はその事実を把握することすらできないこと。
などが挙げられる。(2) 上述の弱点を有する「登記識別情報」を無条件で採用することは、現行の真正担保機能を大幅に低下させることとなり、国民の登記制度に対する信頼を損ねる おそれがある。そこで、登記識別情報制度の導入には、その危険性に十分に留意し、いくつかの条件を付して修正する以下の提案を行う。
(3) 所有権に関する登記は、当該不動産に関する物権変動の基礎をなし、その他の登記に比し極めて重要な登記として位置付けられる。所有権移転登記手続には、 申請人間の利害の対立構造が内包されており、誤った登記がなされた場合には回復困難な損害を与える可能性は極めて高く、社会経済に重大な影響を及ぼすこと となる。したがって、所有権移転登記手続にオンライン申請を導入するには、他の登記手続に比べ厳格かつ慎重な制度的配慮が必要であり、記号に依存する本人 確認の仕組みには本質的に限界がある以上専門家による人的な確認方法によって補完する必要があると考える。
骨子案6の後段には、資格者である 代理人が本人を確認した旨の具体的な情報の提供について、登記識別情報がない場合の代替措置として、登記官の本人確認に資すべき一定の位置付けが提案され ている。これを一歩進め、所有権に関する登記においては、登記識別情報の提供に加え、この資格者である代理人が本人を確認した旨の具体的情報を求めるもの とすべきである。(4) 骨子案補足説明67によれば、「登記識別情報」は「登記完了通知」と一体化して交付することもあり得るとする。そこで、登記識別情報は、登記完了通知と ともに、窓口申請の場合は原則として窓口で申請人に直接交付するものとし、オンライン申請の場合にも、申請人の希望があれば、申請人の住所あてへの郵送に よることができるものとすべきである。
これにより、「登記識別情報を載せた書面」には原本性が確保され、物理的な管理が可能となり、少なくとも不動産取引の現場においては登記済証における処分意思推定機能、物件との牽連性の一部を確保することが出来ることとなる。
ただし、登記識別情報そのものに原本性及び唯一性が付与されるものではないので、窓口申請においても、この「登記識別情報を載せた書面」の提出を求めることを意味するものではない。(5) 所有権に関する登記以外の申請については、登記義務者本人の住所地(前住所地を含む=骨子案補足説明60)に対し事後通知を発し、誤った登記がなされた場 合の早期対処を可能にする処置を採るべきことを提案する。ただし、資格者である代理人が本人確認をした旨の具体的情報の提供が任意的になされた場合には、 その手続きを省略することができるものとする。
(2) 登記名義人又はその代理人の請求により,登記識別情報を失効させる制度を設ける。
【日司連意見】
賛成する。【理由】
登記識別情報の管理の困難性から、国民が登記識別情報の失効を求める場合には、国民の権利保護の観点からこれを認めるべきであると考え失効制度の導入に賛成する。(3) 登記名義人又はその代理人は,手数料を納付して,その登記識別情報が有効である旨の証明を請求することができるものとする。
(注) 登記識別情報の再通知(再発行)は,行わない。【日司連意見】
賛成する。【理由】
(1) 登記識別情報を採用した場合、現在同様不動産に関わる取引を安全・円滑に行うために、取引の相手方ならびに登記申請代理人の立場からはその有効性確認がで きなければ登記申請と代金の支払いという同時履行の決済機能を果たすことはできなくなるので、登記識別情報の有効性の確認は必須となる。
したがって、登記名義人ならびに登記申請代理人は登記申請の前に登記名義人からの有効性確認の同意を得た委任状を添付して登記識別情報の有効性確認ができる制度を設けるべきである。
(2) 登記識別情報の再発行は行わないとすることには、賛成する。6 登記名義人である申請人が登記識別情報を提供してすべき申請において,その提供をすることができない場合は,登記官において登記名義人が申請人として申請していることを確認するための制度として,現在の事前通知を充実させた制度を用いるものとする。
また,資格者(登記の申請の代理を業とすることができる者をいう。)が申請人を代理して申請している場合において,資格者である代理人が本人を確認した 旨の具体的な情報を提供したときは,登記官は,事前通知の手続を経ることなく,当該情報の審査結果に基づいて本人確認をすることができるものとする。
なお,保証書の制度は,廃止する。【日司連意見】
以下のとおり修正提案をする。(1) 登記名義人である申請人が「登記識別情報」を提供して行うべき申請において、その提供をすることができない場合は、所有権に関する登記申請については、厳格な事前通知により、
本人の意思を確認する制度を採用すべきである。
所有権以外の登記の場合は、現在の事後通知を充実させ登記義務者本人の住所地(前住所地を含む=骨子案補足説明60)に対し事後通知を発する制度を用いることとする。
(2) 資格者(登記の申請の代理を業とすることができる者をいう。)が代理して申請している場合においては、資格者である代理人が本人を確認した旨の具体的な情報に加え、現在の事後通知を充実させた制度を用いることとする。
(3) 以上の制度を前提として、保証書制度を廃止することに賛成する。【理由】
(1) 真正な申請人でありながら適当な保証人を見つけることが困難である一方、不真正な申請につき不適法な保証がなされる例も少なくなかったという、現在の保証書制度に問題があることから、充実した事前通知により、本人の意思を確認するとする提案を支持する。
しかし、骨子案における事前通知制度は、事後通知制度に比し、手続きとして厳格かつ慎重ではあるが、すべての登記に厳格な事前通知を求めることは、登記完了の予測が安定的でないことによる申請人の負担も大きく、手続きの迅速性を害するおそれがある。
そこで、所有権以外に関する登記については、現在の保証書制度においても事後通知であり、これを事前通知とすべき積極的な理由は見当たらないのであるか ら、現在の事後通知を充実させ登記義務者本人の住所地(前住所地を含む=骨子案補足説明60)に対し事後通知を発する制度を用いるべきである。それによ り、万が一、誤った登記がなされた場合の早期発見とそれへの対処を可能にする。
(2) 修正提案によれば、所有権に関する登記については、資格者たる代理人による本人確認情報を提供することに加え、事後通知を行うので、本人確認は十分であり、登記の信頼性を確保することができ、しかも登記の迅速性を維持することが可能である。
所有権以外に関する登記については、資格者である代理人が本人を確認した旨の具体的な情報を提供した場合を除いては、事後通知制度を用い、申請人の迅速な事後的救済措置を設けるべきである。
(3) 司法書士の行う本人確認や意思確認には、登記の代理を業とするものの善管注意義務を尽くすことが求められる。本人性を確認するにも、印鑑証明や免許証の提 示など形式な確認のみではなく、法律行為や登記申請意思を確認し、法的助言をして、総合的な判断に基づく確認作業を行っている。こうした確認は、依頼者と の委任契約と司法書士法上の義務規定を根拠として行ってきたものである。しかしながら、そうした確認の結果正しい登記申請がなされることで、登記そのもの の信頼性も保障され、登記制度に対する国民の信頼が維持されてきたことは、先に挙げた権利登記申請に対する司法書士の関与率を見ても明らかである。
骨子案では、不動産登記法に資格者代理人の特別な地位を認めるものであるから、虚偽の本人確認を故意に行った場合には特別の刑事責任を負うことは当然である。
このように司法書士の責任が重くなることから、日司連では、司法書士全員加入の強制保険制度の創設を準備しているとともに、資質能力担保の制度として倫理研修制度の義務化ならびに研修制度の強化を検討している。7 登記官による申請人の確認についての審査は,申請人又はその代理人から提供された情報のみを対象として行うことを原則とするが,申請人となるべき者以外の 者が申請人として申請していると疑うに足りる相当な理由があるときは,登記官は,申請人となるべき者が申請人として申請していることを確認するため,申請 人又はその代理人に対し,出頭を求め質問をし,又は必要な情報の提供を求めることができるものとする。
当事者が遠隔地に居住しているときその他相当と認めるときは,登記官は,他の登記所の登記官にこの審査を嘱託することができるものとする。【日司連意見】
反対する。【理由】
(1) 現行制度上、権利に関する登記についての登記官の審査権限は、審査の対象としては、実質的ないし実体法上の事項に及ぶとされているが、審査の方法として は、書面による消極的な窓口的なものであるとされてきた。また、登記官は出頭している者に対する口頭による尋問等はなす必要もなく、またなすべきではない とされている。さらに、登記官が出頭者に対して本人証明を求めるがごときは権限外とされている。
(2) 骨子案は「申請人又はその代理人に対し、出頭を求め質問をし、又は必要な情報の提供を求めることができる」よう改正することを提案している。この提案について、日司連は、上述の原則ならびにこの原則に基づき運営されている現状に鑑みて、賛同することができない。
骨子案は、登記官による積極的な本人確認権限を否定している現行法との整合性を維持する意図もあってか、「疑うに足りる相当な理由があるとき」という留 保を付している。しかしながら、現場でなされる本人確認にこうした制約が厳格に働くとは考えられず、登記申請の意思やその背後にある実体上の契約行為にま で登記官の確認が事実上及び、その結果、登記申請の受否につき、「登記官の主観が混入する」事態が起きよう。(3) さらに、本人に面接をした登記官が、本人であることを認めつつ、申請意思の瑕疵を主張したり取り消しを主張した申請人にどう対応するか深刻な問題を惹起す る。現場でそうした訴えにいっさい耳を貸さないとすれば、何のための登記官の確認なのか非難され、耳を貸せば、本来裁判所が判断すべき私人間の紛争に巻き 込まれる。この審査権は、登記官に不可能を強い、紛争に巻き込み、国家賠償訴訟を引き起こし、登記に対する国民の信頼を失わしめる結果すら招きかねない。
(4) 不動産登記法施行細則第47条(「登記官が申請書を受け取りたるときは遅滞なく申請に関する総ての事項を調査すべし」)を根拠に、現行制度において登記官 による本人確認権限が
あるとの考え方もありうるが、登記官による本人確認のための面接など積極的な権限を現行法が予定しておらず、むしろ制限していること は前述のとおりである。また、現実にもそのような運用はなされておらず、なされるべきでもない。こうした規定を根拠に、登記官による積極的な本人確認権限 を認めることは、解釈論としても立法論としても不適当であると考える。
(5) 以上述べたとおり、登記官の審査権に関する骨子案の提案を認めることは、自由な取引に奉仕してきた日本の登記制度をゆがめ、取引の円滑を阻害したり、登記官を紛争に巻き込んだりするおそれが強く、登記に関する利用者国民の信頼を損ねる結果を招きかねない。
(表示に関する登記の申請における添付情報)
8 表示に関する登記の申請を電子情報処理組織を使用する方法により行う場合において,添付情報の内容となるべき情報が書面で作成されているときは,申請人 又はその代理人が原本と相違ない旨を明らかにした原本の写しに相当する情報を添付情報として提供することを認めるものとする。この場合においては,登記官 は,原本の提示を求め,写しの正確性と原本の内容を確認するものとする。【日司連意見】
本規定に賛成し、以下の事項の検討を求める。【検討事項】
権利に関する登記において、添付書類の性質上、(当面)オンライン申請になじまないとされている登記がある(たとえば電子化されていない戸籍謄本等により 相続人を確定する相続登記)。こうした登記申請においても、本規定の考え方を応用し、オンライン申請を可能とすることを検討すべきである。(権利に関する登記の申請における登記原因証明情報の提供)
9 登記原因を証する書面を申請書副本により代替する制度を廃止し,権利に関する登記の申請には,必ず登記官が登記原因を確認することができる具体的な情報(以下「登記原因証明情報」という。)の提供を必要とする制度とする。【日司連意見】
賛成する。【理由】
(1) 公信力を付与されていないわが国の不動産登記制度にあって、当該不動産につき取引をしようとする者は、現在の登記名義人のみでなく、権原についても調査す る必要がある。現行不動産登記制度においても、登記事項の一つに登記原因の記載があり、登記申請の添付書面として登記原因証書の提出を求める規定がある。 しかしながら、原因証書の提出は任意的であって申請書副本による代替が多く、また、提出された場合も申請書の付属書類として登記所に保管され、開示される ことがないため、登記を手がかりに権原を調査しようとしても、その手段が不十分だった。
(2) 骨子案の提案が実現されることにより、現行登記制度が抱えていた上記の弱点を補い、登記の実質を強化し、取引の安全に資することが期待される。
また、「いわゆる処分証書に限定しないことにより、申請人の負担との調和を図る」(補足説明61)という骨子案の考え方にも賛同する。
さらに、権利変動の過程及び態様について事実確認をして作成された資格者代理人の「登記原因証明情報」を活用することを求める。
すなわち、「登記原因証明情報」を、必ず当事者が作成し電子署名(もしくは実印の押印と印鑑証明の添付)するものに限定すると、申請人に加重な負担を掛け不動産取引の迅速性を損なうことになり、ひいてはオンライン申請の普及推進を阻害する要因となりかねない。
そこで、資格者代理人による申請の場合には、資格者代理人が登記原因を調査確認したことの「登記原因証明情報」を添付させることをもって代えることができるものとするべきである。
この提案は「国民の利便性の向上と登記の正確性の確保」という改正の目的にも合致するものであり、その実現を強く求める。10 登記原因証明情報は,利害関係人において閲覧することができる登記記録の附属記録とする。
【日司連意見】
賛成する。【理由及び提案】
(1) 登記原因証明情報には二つの大きな意義がある。第一は登記官の審査に供して登記の真正を確保することであり、第二は登記所に保管し、開示して、後日、利害 関係人が原因関係を調査することによりいわゆる権原情報の調査ができるようにすることである。したがって、登記原因証明情報の意義を全うするためには、適 切な開示が行われることが必要となる。
(2) 現在、登記簿は何人にも公開し、付属書類は利害関係を有するものに公開されているものであるが、登記原因証明情報は、付属書類の一つとして、利害関係人に 対し開示すべきである。また、権原情報の調査のためには、前所有者、前々所有者の登記原因証明情報の調査も重要であるからそれらの開示も行うべきである。
(3) 開示の方法については、オンラインによる閲覧申請を可能とし、オンラインで登記原因証明情報を開示する方法を検討すべきである。
また、利害関係人の範囲等についても慎重な検討を要する。(その他)
11 登記済証の交付制度に代替するものとして,申請人に対し,登記が完了した旨の通知をする制度を設ける。【日司連意見】
賛成する。【要望】
前記5の理由(4)で述べた方法の検討を要望する。12 同一の不動産に関する前後が明らかでない数個の申請は,登記所に同時に提供されたものとみなす制度を設ける。
【日司連意見】
賛成する。ただし、郵送申請等の場合に限定するものとする。【理由】
郵送申請等の受付順位の問題は、単に同時に受け付けたとするだけでなく、国民に混乱を生じないような制度を整備するべきである。13 電子情報処理組織を使用する方法により,登記事項証明書等の送付を請求することを認めるものとする。
【日司連意見】
賛成し、以下のとおり提案する。【提案】
(1) 電子化された登記情報については、オンラインによる開示を認めるべきである。オンラインによる登記申請を認めながら、オンラインによる開示を認めないの は、国民の利便性向上の眼目に反する。オンラインによる開示の場合には、登記官の認証印に代えて、登記官の電子署名及び電子認証を付するべきである。
(2) また、登記識別情報を含む付属書類が電子情報の場合、登記簿に準じてオンラインによる請求・交付をうけることができるものとすべきである。地図、地積測量図、建物図面等が電子情報である場合にも、同様とすべきである。
(3) なお、これらの情報は、訴訟資料として採用できるよう、制度設計をしておく必要があることを付言する。(不動産登記法第22条第1項但し書き)
第2 現代語化その他
1 片仮名書き・文語体の法文を,平仮名書き・口語体の法文に改める。
【日司連意見】
賛成する。2 登記簿並びに地図及び建物所在図は,電磁的記録媒体に記録することを前提とした制度とし,これに伴う所要の改正を行うものとする。
【日司連意見】
賛成する。3 不動産を特定するための番号(以下「不動産特定番号」という。)を登記事項とする。
(注)申請書又は申請情報に不動産特定番号を記載し,又は記録した場合には,申請書又は申請情報の記載事項又は記録事項の一部を省略できるものとする。【日司連意見】
賛成する。【理由】
国民の申請手続きの負担軽減ならびに登記事務処理の効率化をはかるために不動産を特定する番号を登記事項とすることには基本的に賛成する。
ただし、不動産特定番号が、特定の権利に関する登記事項と他の特定の個人情報とを集約し一元化するような手段として使用されることのないように十全に対処すべきである。4 予告登記の制度を廃止する。
【日司連意見】
賛成する。【理由】
予告登記の警告機能が目的外に利用され執行妨害等に濫用され弊害が多い事実があること、権利保全のためには正規の保全手続きを取り仮処分の登記をすること ができるものであることから、弊害ある現状の制度を廃止することには賛成する。ただし、真に権利保全を必要とする者に過重な負担を掛けないような不動産保 全制度の見直しの検討を望む。5 申請と併せて提供すべき情報が電磁的記録で作成されているときは,申請書を提出する方法による申請においても,当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録を申請書に添付することができるものとする。
【日司連意見】
賛成する。【理由】
日 司連は、平成15年4月30日の意見書においては、電磁的記録で提出できる情報の範囲が申請書情報自体も可能かのように受け取る可能性があり反対を表明し ていたが、骨子案により申請書は書面で添付書面情報のみが電磁的記録で作成されているときに限定していることが明らかとなったので、賛成の意を表明する。
オンライン申請が何らかのアクシデントで不能な場合に、オンライン申請用に用意した電磁的記録をもって、窓口申請をすることが可能にするためにもこれらの方式を採用することが相当である。6 登記官の過誤による登記を職権で更正する手続及び登記完了後にされた審査請求に理由があると認められる場合の是正手続を整備する。
【日司連意見】
賛成の上、以下の事項を要望する。【要望事項】
審査請求手続きの全般を見直すこと。7 その他,登記の申請に関する規定を整理する。
【日司連意見】
基本的に賛成する。「承諾書を添付して行う仮登記単独申請の廃止」の検討等、いくつかの事項について検討すべきと考えるが、これらについては別途に意見を取りまとめ提出する。