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会長声明集
2010年(平成22年)06月30日
生活保護における老齢加算減額・廃止に関する福岡高裁判決に対する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 細 田 長 司
当連合会は,2007年(平成19年)12月17日,「生活保護基準の拙速な引き下げに反対する会長声明」(以下「07年会長声明」)を発表し,①生活保護基準の見直しについては,生活保護利用者・低所得世帯当事者の生活実態を踏まえた慎重な検討を行うこと,②生活保護基準は,憲法第25条が保障する『健康で文化的な生活』を護るものでなければならないこと,の2点を強く主張しています。
さて,2010年(平成22年)6月14日,福岡高等裁判所は,生活保護受給者39名が原告となり老齢加算の段階的廃止を行った保護変更決定の取消を求めた裁判(福岡生存権裁判)において,原告らの請求を認め,被告である北九州市の保護変更決定を取り消す旨の判決を言い渡しました。
この判決は,生活保護制度の在り方に関する専門委員会の議論等を詳細かつ丁寧に検討したうえで,国が行った老齢加算廃止の決定は,高齢者の最低生活水準や激変緩和措置についても十分検討しないなど,考慮すべき事項を十分考慮せずに行われたものであり,妥当性を欠いたものであると判示したものです。
そもそも,生活保護法は,国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに,生活保護利用者の自立を支援することを目的としています。したがって,年齢,性別,世帯構成,障害の有無等によって個々に異なる健康で文化的な最低限度の生活とはどのようなものであるか,生活保護利用者それぞれにとって自立とはどのようなものであるかについて丁寧に検証したうえで保護基準や保護の方法を決定しなければならないことは,07年会長声明で強く要求したとおりです。
格差と貧困が広がりを見せる今日,最後のセーフティネットである生活保護制度が果たすべき役割は一層増しています。当連合会は,改めて生活保護制度の積極的活用を要望するとともに,この判決が示したように,国民それぞれの個々の事情に応じたより丁寧な政策の決定と保護利用者ひとりひとりの幸福と自立を実現するためのよりきめ細やかな保護の実施を要望するものです。
被告である北九州市及び国は,この判決の判示内容を真摯に受け止め,原告らが早期にあるべき健康で文化的生活を取り戻すことができるよう,最大限の配慮をなすべきことを強く要望します。