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会長声明集
2021年(令和03年)03月02日
生活保護基準引下げをめぐる令和3年2月22日大阪地裁判決に関する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典令和3年2月22日,大阪地方裁判所は,平成25年から開始された大幅な生活保護基準引下げの取消を求める訴訟において,原告の請求を一部認容し,国による生活保護基準の引き下げを違法として,これに基づき12市が行った生活保護費の減額決定を取消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
生活保護基準の引下げをめぐっては,平成25年以降,全国29の地方裁判所で集団訴訟が提起されているが,本判決は,令和2年6月25日の名古屋地方裁判所の判決(以下「名古屋地裁判決」という。)に続いて,2例目の司法判断である。
本判決は,「・・・厚生労働大臣の判断には,・・・平成20年からの物価の下落を考慮し,消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いており,したがって,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤,欠落があり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるから,本件改定は,法3条,8条2項の規定に違反し,違法である。」と断じた。
本判決の意義は,第1に,名古屋地裁判決が,無限定にも等しい広範な裁量権を厚生労働大臣に認めたのとは異なり,生活保護法8条2項に基づいて厚生労働大臣の裁量権の範囲を限定して同条項の法規範としての意義を明確にしたこと,第2に,生活保護基準引き下げの根拠となったデフレ調整やゆがみ調整について,デフレ評価の基準年の問題や生活扶助相当CPIの実態乖離を指摘し,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くことから,厚生労働大臣の裁量権の逸脱又は濫用を認めた点にある。
当連合会は,令和2年10月30日の会長声明において,生活保護基準は,生活保護利用者・低所得世帯当事者の生活実態を踏まえた合理的な基礎資料に基づき,厚生労働大臣の裁量権の範囲も含め慎重に検討を行う必要がある旨指摘したところであり,本判決の判断を評価し,強く支持するものである。
昨年の自殺者数が20,909人と11年ぶりに増加に転じるなど,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が長期化し,多くの国民が日々の生活に不安を覚えている中,最後のセーフティーネットである生活保護制度が果たすべき役割は大きく,国民の生存権を保障する憲法第25条の重さが今こそ強く認識されなければならない。こうした状況において,本判決が出された意義は極めて大きい。
当連合会は,改めて生活保護基準の引下げに反対する。以上