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会長声明集
2020年(令和02年)05月11日
緊急事態宣言等の影響に伴う賃料滞納等に対応するための法律の制定を求める会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための外出の自粛や新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく営業の自粛要請により,経済活動が急速に縮小しているところ,これが中小企業・個人事業主(以下「中小企業等」という。)の経営を圧迫し,それに伴い,固定費として大きな部分を占めるテナントの賃料を支払うことが困難となっている事業者が増加している。
また,中小企業等に従業員として雇用されている方や派遣社員などとして働いている方に関しては,中小企業等の経営の悪化や雇用調整のため,解雇,給料の支払い遅延,給料が支払われないということが増加し,借りている自宅の賃料を支払うことができない方も増加している。
民法の解釈上,賃貸物件の借主が賃料を支払わない場合において,貸主側から賃貸借契約の解除が可能となるのは,裁判所が,貸主と借主との間の「信頼関係が破壊された」と認める場合であり,現在の緊急事態宣言の影響により,借主が3か月程度賃料を支払わない場合であっても,直ちに賃貸借契約が解除されることはないと考えられる。
しかしながら,貸主と借主との間の「信頼関係が破壊された」との判断は,個別の事案により異なるので,経済的に困難な状況に置かれている中小企業等や個人の借主が不安定な状況に置かれ続けることに変わりない。
そこで,賃貸物件の借主からの賃料の支払いの猶予を求めることを可能とすることや,貸主からの賃貸借契約の解除を制限する立法を行うことにより,中小企業等の生活の糧を得る場であるテナントや個人の生活の基盤である自宅を確保することができ,経済的に困難な状況に置かれている借主側に安心感を提供できることから,世論マスコミなどから政府に対して,早急な立法が実現することを求められているところである。
一方,近年,不動産賃貸業における業態が変化し,個人が金融機関からの借り入れにより,アパート,テナント等の経営を行っているケースや,賃貸物件からの賃料収入のみで,生活を営んでいる方も多く存在する。
金融機関からの借入を行っている賃貸物件の貸主は,借主からの賃料の支払いが数か月でも滞ってしまうと,金融機関への返済が滞ることにより期限の利益を喪失し,不動産の売却を迫られたり,競売にかけられたりしてしまう恐れが生じる。
また,賃料の支払いの遅延は,生活費を賃料収入から得ている方の生活を圧迫することも考えられる。
このような状況から,立法において,賃料の支払いの猶予や賃貸借契約の解除の制限を認めるだけでは賃貸人に過酷な状況を強いることになり,賃貸物件の借主と貸主が,共にこの苦境から脱する方策としては,不足があると考える。
立法措置として求められるのは,賃料の支払いの猶予や貸主からの賃貸借契約の解除の制限を認めることと合わせて,賃貸物件の貸主が借入を行っている金融機関に対し,借入金の返済が滞った場合においても直ちに期限の利益を喪失させないこと,各自の実情に合わせて柔軟な返済に対応すること,政府等が賃貸物件の借主の賃料を補てんすること等により,賃貸物件の借主と貸主の保護を行うことである。
そこで,政府におかれては,借主及び貸主双方が新型コロナウイルス感染症による様々な法的課題,経済的課題を抱える中,これに対応するための立法措置を速やかに講じることを強く求める。
なお,当連合会としても,すでに新型コロナウイルス感染症の感染拡大等により経済的に苦境に立たれている方に対する電話相談などを実施しており,引き続き相談活動や法的支援を積極的に取り組み,市民と共にこの国難ともいうべき状況を乗り越えることをここに表明する。