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会長声明集
2020年(令和02年)03月11日
東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故から9年~振り返り,今を見つめ,そして被災者とともに前へ~ (会長声明)
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
未曽有の災害となった東日本大震災(以下「震災」という。)・東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「原発事故」という。)から9年が経過した。
地震と大津波で大きな被害を受けた東北各地の被災地では,国が復興事業を進めている一方,未だ住宅の再建ができずに仮設住宅等での避難生活を続けている被災者がいる。また,在宅被災者や住宅を再建した被災者の中には,元の生活を取り戻せず引き続き支援を必要としている人も少なくない。
生活再建がかなわずに災害援護資金の返済が困難となり,自己破産や民事再生の道を選択せざるを得ない被災者もいる。これは,震災後に講じられた被災者への支援制度が今や重荷となっているひとつの事象であり,今後は被災者支援制度の仕組みの見直しをする必要があると考える。
被災地の復興の歩みは岩手,宮城,福島各県のそれぞれで違いが生まれている。
津波被災地である沿岸地域では,住民の帰還が進まず,整備された土地の未利用率も高いままで,町の再生とにぎわいの喪失とが併存する中,過疎化が加速度的に進み,被災自治体では,町に新たな息吹をもたらすための闘いが今も続いている。
当連合会では,被災地における災害復興支援事務所の設置,仮設住宅の巡回相談を含め,複雑化,深刻化する被災者・被災地の状況に応じた相談事業を核とした支援活動を継続している。被災地の司法書士会では,司法書士の知見を活かした業務として,財産管理業務や震災孤児の未成年後見業務に積極的に取り組んでいるほか,司法書士が被災自治体の任期付職員として,復興事業の核である用地取得加速化事業推進のための困難登記事件の処理を行っている。
原発事故については,時の経過とともに「風化」が進み,人々の関心が薄くなってきているが,福島県の復興は未だ先行きが見えてこないのが現実である。原発事故による避難指示区域の解除は進んでいるが,平穏な日常と生業を奪われ,家族やコミュニティーを分断されたうえにふるさとを追われた住民の多くは,今も帰還の目途が立たずに避難先で支援を受けつつふるさとに思いを巡らせている。また,放射能汚染の影響を懸念して福島県の内外に自主的に避難した住民の帰還も進んでいない。避難した住民が「居住」「移転」「帰還」など,どのような道を選択した場合であっても,適切な支援活動を継続していく必要があると考える。
東京電力は,令和元年10月30日に「原子力損害賠償債権の消滅時効に関する当社の考え方について」を公表し,この時効問題については同社が掲げる「最後の一人まで賠償貫徹」という考え方のもと柔軟な対応をするとしているが,最後の一人まで賠償を実現するためには,被害者に対し,正確な情報提供をしていくことも必要であると考える。
しかし,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原発ADRセンター」という。)による和解仲介手続(以下「原発ADR手続」という。)においては,原発ADRセンターから和解案受諾勧告が出されたにも関わらず,加害企業たる東京電力による当該和解案の拒否によって手続が打切りとなってしまった事例が引き続き散見される。原発ADR手続は,加害者側の一方的な和解案拒絶によって手続が打ち切られるべきではない。また,私たち司法書士が相談の現場で多く存在すると認識する原発事故賠償の未請求者,権利未行使者に対しては,その権利行使のために原発ADR手続があることを周知していくとともに,その手続きについても支援をしていく必要があると考えている。
国は,これからの1年を復興・再生期間の総仕上げの年と位置付けてきたが,道半ばの復興状況の現実に目を向けると,復興の達成目標にはさらに時間を要するとの判断から,復興庁の設置期間を10年間延長することを閣議決定した。
様々な支援策が期限を迎えつつある中,困窮する被災者,心のケアを必要とする被災者に対しては引き続きこまやかにかつ丁寧な支援活動をしていかなければならない状況は継続している。
当連合会は,復興活動が縮小し,担い手が減少している状況下においても,引き続き現場で被災者の声を聴き,関係機関とのネットワークやその知見を活かして被災地の復興に取り組み,被災者とともに歩む活動を行っていく。原発事故の現場は福島だけではなく,原発事故被害者が避難している全都道府県である。これらの支援には全国の司法書士とともに取り組んでいかなければならない。
体験したことは風化しない。この震災で体験したこと,そして学んだことを近年頻発する自然災害や今後発生が予想されている大規模災害に活かし,教訓として伝承していくことにも注力していく。