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会長声明集
2019年(平成31年)04月17日
専門職後見人の果たす役割は変わらない(会長声明)
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
本年3月19日付朝日新聞朝刊に「成年後見『親族望ましい』 選任対象 最高裁,家裁に通知」との見出しで,「認知症などで判断能力が十分ではない人の生活を支える成年後見制度をめぐり,最高裁判所は同月18日,後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示した。」との記事が掲載された。
記事中においては,「最高裁は基本的な考え方として,後見人にふさわしい親族など身近な支援者がいる場合は,本人の利益保護の観点から親族らを後見人に選任することが望ましいと提示」した,とする。
しかし,最高裁通知は,その親族等を後見人に選任することが相当ではない事情の有無や,課題の専門性,候補者の能力・適性,不正防止の必要性などを勘案した上で,成年後見制度利用促進基本計画に定める中核機関等の継続的な支援があって適切な後見事務が期待されるときは,単独でその親族等を後見人に選任し,中核機関等の継続的な支援が期待することができないときは,専門職の関与の下に選任する,という趣旨であり,これをもって最高裁の方針変更と捉えるべきではない。
また,記事では,「後見人になった家族の不正などを背景に弁護士ら専門職の選任が増えていたが,この傾向が大きく変わる可能性がある。」とも述べられている点については,利用促進が図られて利用件数が増加する中で専門職が単独で後見人に選任されることが割合として相対的に低下するであろうが,親族等が後見人に選任された場合でも,複数後見人の一人として親族と共に就任するケースや親族が後見人に就任する場合の後見監督人に就任するなど,親族後見人の支援者としての役割は増大していくことが予想される。
以上のことから,中核機関の整備が進んだ将来にあっても,地域連携ネットワークで果たす専門職の役割・責任はますます重要となると考えている。
なお,同記事中には「見知らぬ専門職が後見人に選任されることへの反発は強く,財産管理だけでほとんど本人の生活支援がないまま高い報酬を取られることへの懸念も,制度利用を妨げる壁となっていた。」との記載がある。
しかし,専門職後見人が担う事務には,「財産管理事務のみならず,専門性を活かした「身上監護事務」があり,専門職後見人である司法書士も任務分掌がない場合は,当然にこれらの事務を本人の意思の尊重を最優先にした上で行っている。最高裁事務総局家庭局においても,「新たな後見報酬算定に向けた考え方(案)」の中で,事務の質に応じた報酬決定がなされる方向性が示されている。市民の高い報酬を取られるとの懸念は,家庭裁判所が後見人に対し報酬を与えると決定した場合に,その報酬を本人の財産から後見人に支弁するという現行制度の仕組み故の根源的な問題である。成年後見制度は,財産の多寡にかかわらず国民が等しく利用できる制度でなければならない。特に生活困窮である利用者本人にとっては,報酬の負担があるが故に,利用は容易ではなく,極めて深刻な状況である。成年後見制度を全ての国民が利用しやすいものにしていくためには,公費による報酬の助成制度を充実させていくことも重要ではあるが,こうした「成年後見人の報酬は本人の財産から賄うべきもの」とする仕組みの見直しが必要である。