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会長声明集
2019年(平成31年)03月11日
東京電力福島第一原子力発電所事故から8年~たゆまぬ被災地・被害者支援継続を~(会長声明)
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)の発生から8年が経過した。
原発事故によって地域住民が被った損害は,「ふるさと喪失」や「平穏生活権の侵害」とみなされるべきであり,金銭的に代替不能な「固有価値」を失ってしまったものである。かかる被害の完全回復に向けては,避難指示の有無を問わず,できる限りの方策が取られるべきである。
また,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原発ADRセンター」という。)による和解仲介手続(以下「原発ADR手続」という。)において,加害企業たる東京電力の和解案拒否によって打切りとなった事例が多数存在することは誠に遺憾である。原発事故の被害者の損害賠償に関しては,加害者主導によって一方的に賠償が打ち切られるべきではない。
司法書士は,日本司法支援センター(法テラス)の震災法律援助を利用した原発ADR手続に関する書類作成業務や代理業務等を通じて,これらの被害回復の一助となれるよう,今後も引き続き力を尽くしていく。原発事故に対する人々の関心が薄くなってしまった一方,全国には未だに,政府による避難指示区域外の福島県内外からの避難者(区域外避難者)が多数存在する。これらの区域外避難者への支援は,「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(原発事故子ども・被災者支援法)」の第1条に規定されている「放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていない」との認識に立った上で,被害者が「居住」「移転」「帰還」の「いずれを選択した場合であっても適切に支援」(同法第2条第2項)されることを前提としてなされなければならない。
当連合会は,全国26か所に設置された「生活再建支援拠点」等の関係諸団体と連携しながら,相談活動等を通じ,避難指示の有無を問わず,また実際に避難したか否か,避難を継続しているか否かを問わず,未曾有の原発事故被害で困難な状況におかれている被害者の声に耳を傾け,寄り添いながら支援活動を継続していく。平成25年5月29日,「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律」(時効中断特例法)が成立した。原発ADR手続において和解仲介が打ち切られ,手続の途中で時効期間の満了を迎える場合でも,この時効中断特例法により,打切りの通知を受けた日から1か月以内に裁判所に訴えることで,原発ADRセンターに和解仲介を申し立てた時に訴えがあったこととされた。
また,平成25年12月11日,「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」(原賠時効特例法)が成立した。この原賠時効特例法により,原子力損害賠償請求権の消滅時効の期間は,「損害を知った時から10年」とされるとともに,「損害の発生時から20年」とされている。
これらの法律の施行によって一定の救済措置が講じられたものの,時効中断の救済を受けられる被害者の範囲や損害項目には,依然として限界がある。当連合会としては,被害に遭われた方々に対し,上記消滅時効に関する情報を幅広く提供していくとともに,法律専門職として,しかるべき法制度の確立に向けた問題提起を継続していく所存である。