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会長声明集
2017年(平成29年)10月25日
労働時間規制の対象外となる「高度プロフェッショナル制度」の導入に反対する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
平成29年9月15日に開催された第141回労働政策審議会労働条件分科会において、収入の高い一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(以下「本制度」という。)の創設を含む「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」が提示された。
本制度については、「大幅に裁量権を与えて時間ではなく成果」により労働を評価するという「成果型労働制」の導入にその意義があると言われているが、一定の成果を出せば労働時間を短縮したり、調整したりすることは、現行の法制度下でも可能であり、働いた時間によらずに、高い成果を出した者に高い賃金を支払う賃金体系を設定することも可能であるので、新たに制度を設ける意義は希薄である。
本制度については、当初の目的が自由で柔軟な働き方を可能にするという労働者側の利益のためであったとしても、結果的に、一定の賃金額を超えれば、労働時間規制の対象外となり、残業代等の割増賃金を支給しなくてもよいという、使用者側にとって都合のよい仕組みとして利用されてしまう懸念がある。
一度このような仕組みができあがってしまえば、対象業務や対象最低年収といった要件部分のみの変更によって、対象者の範囲を拡大することが可能となる。平成27年に国会に上程された法律案(「労働基準法等の一部を改正する法律案」)においても、対象業務や年収要件の詳細が省令に委ねられており、対象範囲拡大の要素を含んでいたが、今回提示された法律要綱においてもその点は変更されてはいない。
そもそも、労働基準法における労働時間の規制は、労働者の健康を守り、過労死等の不幸な事故から労働者を守るために存在する。そして、特定の業務に携わっていることや年収が高額であることは、身体が特に頑強であったり、過労死の確率が低いといったこととは無関係であるから、業務の種類や年収によって労働時間の規制の程度が変わったり、適用除外を設けることは適切ではない。
当連合会は、以上により、本制度は、残業代等の負担をなくすことにより長時間労働を助長し、また、省令の変更等による要件緩和により対象労働者の範囲を将来的に拡大させる危険を大いにはらんでおり、労働者の権利を著しく侵害するおそれがあるため、その導入に反対するものである。