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会長声明集
2014年(平成26年)05月16日
生活保護法施行規則の一部を改正する省令に対する会長声明
日本司法書士会連合会
会長 齋 木 賢 二
1 当連合会は、平成25年12月4日「生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明」を発表し、(1)改正案24条1項2項は、いわゆる『水際作戦』を助長し、要保護状態の経済的困窮者が最低生活以下の生活を余儀なくされる可能性が高いこと、(2)改正案24条8項及び28条並びに29条は、要保護状態の経済的困窮者が、自己の扶養義務者に対する配慮から、生活保護の利用を諦めてしまう可能性が高いこと、(3)改正案78条4項は、法78条の適用基準が明確でないにもかかわらず、原則として国税徴収の例によるとされ、租税債権と同様に取り扱うことに対し懸念があること、(4)改正案78条の2は、78条に基づく徴収金の保護費からの天引きが事実上強制される可能性があること、の4点の懸念を表明した。
2 こうした懸念があるにもかかわらず、生活保護法は、平成25年12月13日法律第104号により改正され、上記懸念の多くが省令に委任されていたことから、省令の発令に強い関心を寄せていたところである。そこで、政府が平成26年4月18日発表した生活保護施行規則の一部を改正する省令(以下「省令」)に対して、改めて次のとおり表明する。
(1)省令は、法第24条第1項及び第2項について、政府が先に公表された生活保護施行規則の一部を改正する省令案(以下「省令案」という)では、「身体上の障害があるために当該申請書に必要な事項を記載できない場合その他保護の実施機関が当該申請書を作成することができない特別の事情があると認める場合」を除き「申請書を・・・保護の実施機関に提出して行う」とあったものを「申請は・・・保護の実施機関に対して行う」とし、「書」が除かれた。このことは、当連合会が表明していた、「いわゆる『水際作戦』を助長し、要保護状態の経済的困窮者が最低生活以下の生活を余儀なくされる可能性が高いこと」という懸念を一部払拭するものであり評価する。
(2)省令は、法第24条第8項について、省令案では、扶養義務者に対して通知及び報告(以下「通知等」という)は、通知等をすることが適当でないとされる「法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高くないと認めた場合」「DV被害を受けていると認めた場合」等を除き原則通知等をするとされていたが、省令では「法第77条第1項の規定による費用の徴収を行う蓋然性が高いと認められたとき」「DV被害を受けているものでないと認められたとき」等の事情がある場合に限り通知することと修正された。このことは当会が表明していた「要保護状態の経済的困窮者が、自己の扶養義務者に対する配慮から、生活保護の利用を諦めてしまう可能性が高いこと」という懸念を一部払拭するものであり評価する。
(3)省令は、法第78条の2について、「当該徴収金の徴収後においても被保護者が最低限度の生活を維持することができる範囲で行うものとする」と定め、被保護者の申出に対して、生活保護実施機関も最低生活維持の考慮が義務づけられた。このことは当会が表明していた「78条に基づく徴収金の保護費からの天引きが事実上強制される可能性があること」という懸念を一部払拭するものであり評価する。
3 当連合会は、今回の省令について、多くの評価する部分があるものの、生活保護法が日本国憲法第25条の理念を実現するための法律であることに鑑み、法第1条ないし4条の基本原理が全うされ、困窮するすべての要保護者が利用し得る制度となるよう、必要に応じて省令を改正するなど、さらなる努力を要望するものである。