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総会決議集
日司連に、犯罪被害者の支援のため、組織的な取り組みを行なうことの検討を要望する決議
【決議の趣旨】
日本司法書士会連合会に犯罪被害者を支援するため、組織的な取り組みを行なうことを検討することを要望する。
以上のとおり決議する。
2006年(平成18年)06月23日
日本司法書士会連合会 第68回定時総会【提案の理由】
刑罰法令に違反する行為によって、生命、身体、財産、精神、または人格等に対する危害を被った者及び遺族等一定の範囲の者を犯罪被害者というが、かつて、この犯罪被害者は、国家からも法制度からも忘れられた存在であった。
すなわち、犯罪被害者には、自分に対して犯された犯罪及び加害者について、なぜ事件が起きたのか、犯罪者はどのような人間なのかなど、知りたい情報が提供されていなかった。また、加害者からの被害回復を図るにあたり、何ら有効な手だてを与えられず、この回復に代わる国家・社会からの被害補償についても極めて不十分なものとなっている。(犯罪被害者給付金制度は、日本国内又は日本国外にある日本船舶若しくは日本航空機内において行なわれた人の生命または身体を害するにあたる行為に適用されるが、過失の犯罪行為には適用されない。)。
さらに、改正前の刑事訴訟法における被害者には、自らの被害を裁く刑事訴訟手続において、加害者に対する刑事責任を問うための証拠方法の一つとしてしか扱われず、自らの被害に対する意見を表明する積極的な機会も与えられていなかった。
近年においては、法整備が行なわれ、従前に比べ犯罪被害者への保障や刑事裁判手続への参加手続に改善はみられるものの、突然、被害に遭った場合、親身になって相談に乗ってくれる人や身近な相談場所が少ないのが現状ではなかろうか。
犯罪被害者の中には、自分を支援してくれる団体があることすら知らず、自分のことを理解する人は誰もいないと考えるようになり、ますます疎外感を強め、また、誰からも支援してもらえない、自分など生きていても価値がないと思い込んで、自暴自棄となり、会社を辞め社会や周囲からも孤立し、家族関係も崩壊させてしまうという事例もあったようである。
理不尽な犯罪により深く傷つけられた被害者や遺族等を社会的孤立から救うためには、被害者や遺族等に接する人、さらには社会全体が被害者や遺族等の気持ちをよく理解し、犯罪被害者に対する支援を適切に行なうことが必要となる。
このような状況の中、「あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービス提供が受けられる社会を実現する」ことを基本理念とする「総合法律支援法」が公布、施行された。そして、この法律に基づき2006年4月に設立され、同年秋に稼動する「日本司法支援センター」(法テラス)においては、全国各地の裁判所本庁所在地や、弁護士過疎地域などに拠点事務所を開設し、市民に様々な法律サービスを提供することになる。
そして、「犯罪被害者支援業務」もその主な活動事業としてかかげられており、多くの支援団体と連携し、被害者援助に詳しい弁護士や相談窓口を紹介するとしている。犯罪被害者支援の輪は、現在、全国に広まっており、各地の弁護士会、各市民団体、警察などにより犯罪の被害を受けた方へ様々なサポートが行われている状況からすれば、全国の司法書士会においても、積極的に犯罪被害者支援に関わり、市民の為の法律家としての役割を果たしていく必要があるのではなかろうか。
不幸にも犯罪被害にあった人を孤独な状況に陥らせることを回避し、犯罪に遭う前の日常に復帰させることを妨げる要因の除去に努めることは、司法書士がこれまで取り組んできたクレサラ活動や成年後見活動等の中で培った知識や経験を活用することで実現することが可能と思われる。そして、法的解決を望む犯罪被害者は、自分たちと同じ目線に立った法律専門家の援助が契機となり、前向きに人生をとらえ、一人の人間として立ち直っていくのである。
また、市民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」が、2009年5月までに始まることになっている。この制度が導入されれば、刑事司法に対する国民の関心が高まり、司法書士においてもますますこの分野に無関心でいられなくなる。
日本司法書士会連合会における犯罪被害者に対する組織的な取り組みとして、例えば、犯罪被害者を支援するための活動を行なうため同会内に司法書士犯罪被害者支援委員会(仮称)を設置し、全国にある犯罪被害者支援センター等の犯罪被害者を支援する団体と連携をとりながら、相談技術や犯罪被害者支援のための法的知識を蓄積し、司法書士が行なえる犯罪被害者支援のための活動を追及し、各単位会に浸透させ、これを実践していってはどうであろうか。
いずれにしても、犯罪被害者支援活動を通じ、刑事司法の分野においても市民の身近な法律専門家としての司法書士の役割を果たすことが、司法書士制度を成長・発展させ、よりよい司法制度の構築につながっていくのである。
よって、日本司法書士会連合会に犯罪被害者を支援するため、組織的な取り組みを行なうことの検討を要望する。