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意見書等
2003年(平成15年)12月25日
司法制度改革推進本部事務局 御中
合意による代理人報酬の敗訴者負担制度について(意見)
日本司法書士会連合会
意見の趣旨
合意による代理人報酬の敗訴者負担制度については、国民の理解が得られるよう十分配慮のうえ、司法アクセスの観点からの慎重な検討を求める。
意見の理由
1 「国民の理解」への配慮について
現在、司法アクセス検討会において、訴訟類型にかかわらず、すべての訴訟について原則として代理人報酬を各自負担とし、当事者が合意した場合にのみ敗訴者 負担とする制度の導入が検討されている。しかしながら、今日に至るまでの敗訴者負担制度を巡る司法アクセス検討会の審議過程を見ると、類型別・当事者属性 別等に導入する検討がなされていた中で、消費者保護の観点から、原則各自負担とした上でこの合意による敗訴者負担制度の導入が検討され、検討会内において その支持を得たものと考えられる。
司法制度改革審議会意見書においては、周知の如く、「敗訴者負担制度の検討にあたっては、国民の理解に十分配慮すべきである」との意見が述べられている。 先般、敗訴者負担制度に関するパブリックコメントの募集が行われたが、「合意による敗訴者負担制度」はパブリックコメント募集以降に検討がなされたもので あるため、合意による導入論については十分に国民の理解を得るよう配慮がなされるべきである。
以上のことから、合意による敗訴者負担制度の導入については、少なくとも今日までに示された敗訴者負担制度に関する国民の意思を十分に勘案しつつ、さらなる検討を進めるべきである。2 「訴訟前の合意」における消費者保護について
仮に合意による敗訴者負担制度を導入するとしても、訴訟前の合意を認めるべきではない。かかる合意は、提訴を萎縮させることは十分に予見可能であり、司法アクセス検討会の議論においても、この点を前提としているようである。
しかしながら、たとえ訴訟上の合意に限るとしても、合意による敗訴者負担制度が法律に明記されることにより、事実上、訴訟前に訴訟費用に関する敗訴者負担 の協議が行われるケースが増えることが予想される。このような事実上の「訴訟前の協議」が増えることによる「訴訟提起の躊躇」等の弊害は、とりわけ消費者 訴訟などの、情報量や交渉能力において圧倒的な格差のある当事者間の訴訟において著しくなるであろう。
この点に関連して、司法アクセス検討会では、消費者契約等の約款における敗訴者負担の条項は、消費者契約法第9条、第10条により規制されるとの考え方が示されている。
しかし、同法第9条第1号は契約解除に伴う損害賠償額の予定についての制限規定であり、同条第2号は金銭支払義務の不履行に対する損害賠償額の予定につい ての制限規定であることから、敗訴者負担の条項は同規制の対象とならない場合も考えられる。また、同法第10条は、消費者の利益を一方的に害する条項を無 効とするものであることから、代理人報酬を敗訴者が負担するとの条項が一般的に同条によって規制されると考えることは困難である。
したがって、新たな制度として合意による敗訴者負担制度を導入する以上、訴訟前の合意は無効とするなどの立法上の手当てが不可欠である。とりわけ、当事者 間の情報量及び交渉能力の格差が著しい消費者訴訟等における、弱者保護のための方策については、別途検討の必要が生じる。3 「司法アクセス」の観点からの検討について
今般、司法アクセス検討会において議論されている合意による敗訴者負担制度は、その適用の条件として、「訴訟提起後、両当事者が合意した場合」を挙げてい る。しかし、これまで各自負担であったがために提訴をためらっていた当事者にとって、かかる条件の下での制度適用が可能となることを要因として、果たして 司法アクセスたる訴訟提起の促進に直結するか否か、さらに詳細に検討をすべきではなかろうか。
現状においても、敗訴者負担制度自体が提訴を萎縮させるのか、促進させるのか、という点について意見は分かれている。合意による敗訴者負担制度導入の理由 には、司法制度改革審議会の意見書該当部分の「司法アクセス促進」に直結するとの予見可能性を、少なくとも示唆するものを明示すべきである。この制度の導 入によって司法アクセスが促進される、との明確な理由付けによって国民の理解を得るよう、慎重な検討が必要と考える。