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意見書等
2004年(平成16年)06月30日
法務省民事局参事官室 御中
保証制度の見直しに関する要綱中間試案についての意見書
日本司法書士会連合会
はじめに
保証制度の問題点については、標記中間試案及び補足説明においても指摘されているところであり、当会としても共通の認識を有するものである。
ことに、昨今の商工ローン業者による根保証契約を巡るトラブルの急増は、根保証契約自体の抱える問題点を改めて浮き彫りにしたと言える。
当連合会は、標記中間試案及び補足説明と基本的に共通の問題認識に立った上で、根保証契約自体の抜本的な見直しを要望するとともに、とりわけ事業の経営に関与しない第三者たる保証人の保護のための実効性のある方策の検討が必要であると考える。
以上の観点から、標記中間試案について、以下のとおり意見を述べる。第1 貸金債務の根保証についての個人保証人の保護の方策
1 要式行為
意見:「根保証契約は、書面でしなければその効力を生じないものとする」ことについては賛成する。その上で、さらに契約の締結及び更新の際には契約書を保証人に交付しなければならないこととし、書面の交付がない場合には契約を無効とすべきである。
理由:根 保証契約は、個別保証に比べ、契約の内容が難解であり、保証人に重い責任を負わせるものである点に鑑み、根保証契約締結に際しては、保証人が契約内容を正 確に理解したうえで慎重に判断することが求められる。そのためには少なくとも書面により保証人に契約内容を充分に説明したうえで契約を締結する必要があ る。なお、実務上根保証契約は書面によることが通例であることから、これを義務付けたとしても混乱が生じる恐れはなく、むしろ現状を追認するに過ぎないも のである。このことからすれば、単に書面によることを義務付けるだけでは足りず、契約締結に際し、保証人が根保証契約の内容を正確に理解できるよう、債権 者は保証人に対し、根保証契約の内容(保証すべき主たる債務の内容を含む)を記載した書面を交付しなければならないこととし、書面の交付がない場合には根 保証契約を無効とすべきである。2 保証の限度額の定め
意見:「根保証契約は、保証の 限度額を定めなければその効力を生じないものとする」ことについては賛成する。また、(注1)には賛成するが、(注2)の考え方には反対する。主たる債務 者である法人の代表者以外の第三者が保証人となる場合については、根保証自体を禁止すべきである。仮に根保証を認める場合であっても、限度額の定め方につ いて一定の制限を設ける方向で検討すべきである。
理由:根保証契約において、保証の限度額を定めない場合 には、保証人が契約締結時の予想を超えた過大な請求を受けることとなる恐れがある。この点につき、主たる債務者である法人の代表者が保証人となる場合と、 それ以外の第三者が保証人となる場合の取扱いに差異を設けるべきであるとの考え方に異論はないが、保証人保護の観点からは、(注2)のように、代表者たる 保証人の場合に限度額の定めのない根保証契約を有効とするのではなく、むしろ第三者たる保証人の場合には根保証自体を禁止すべきであり、仮に根保証を認め る場合であっても、限度額の定め方に一定の制限を設ける方向で検討すべきである。代表者であれば通常、法人の負債状況を熟知しており、自らの経営責任を明 確にする意味からも、第三者と同列に扱うべきでないことは理解できるものの、社会的な実情としては、代表者が保証人となる場合であっても、企業が破綻した 場合に、保証人が多額の保証責任の追及を受け、過酷な結果となる場合は少なくない。また、代表者個人に無制限の保証責任を負わせることは、保証人への責任 追及を恐れるあまり、早期に法的倒産処理に踏み切ることをちゅうちょさせ、事業再生の機会を逸する結果となり、代表者の再挑戦を妨げる要因となっていると いった問題も指摘されている。このことから、代表者による個人保証についても、根保証契約締結時において、その時点における資金需要に応じて必要な範囲で 限度額を設定し、その後の追加融資の際などに必要に応じて限度額を増額していく取扱いが望ましいと考えられる。
一方、法人の代表者以外の第三者た る保証人については、通常、保証契約によって自己が利益を受ける立場にはなく、また主たる債務者との人間関係等から断り切れずに仕方なく保証人となる場合 も多く、さらに保証契約締結時には自分が最終的に保証人としての責任を負うことはないと考えているケースが少なくない。そのような社会的な実情を踏まえて 検討するならば、少なくとも第三者たる保証人の場合には、個別保証のみを認め、根保証自体を禁止すべきである。仮に根保証を認める場合であっても、限度額 の定め方に何らの制限を設けないとすれば、保証人の資力等を考慮することなく、主たる債務者の資金需要等のみによって過大な限度額を設定することも可能と なることから、保証人の資力その他の事情を勘案して、限度額の定め方に一定の制限を設ける方向で検討すべきである。3 保証期間の制限
意見:根保証契約は、保証期間を定めなければその効力を生じないものとすべきである。保証期間は、根保証契約締結時から3年を超えてはならないものとし、根保証契約を更新する場合における更新後の保証期間についても、同様とすべきである。
理由:中 間試案が根保証契約における保証期間を制限しようとしている点は評価できるものの、保証人保護を徹底するためには、限度額の定めと同様、保証期間の定めの 無い根保証契約は効力を生じないものとすべきである。さらに、商工ローン業者等の根保証契約においては、保証期間を5年と定めているケースが少なくないに もかかわらず、現に多くのトラブルを招いていることからも、保証期間の上限を5年としたのでは保証人保護のためには不充分である。身元保証の場合における 保証期間が3年とされていること等を考慮すれば、保証期間の上限は少なくとも3年程度が相当である。中間試案においても、合意による保証期間の定めがない 場合には保証期間を3年とすべき案が示されていることからしても、保証期間の上限を3年とすることには合理性がある。4 期間の経過以外の事由による元本の確定等
(1)元本確定事由
意見:ア、 イ、ウを元本確定事由とすることに賛成する。さらに、(注)の「債権者が主たる債務者又は保証人の財産について有する担保権の実行の申立てをした場合」及 び補足意見において例示されている、「債権者が主たる債務者又は保証人の財産に対する仮差押えの申立てをした場合」についても元本確定事由とすべきであ る。
理由:ア、イ、ウを元本確定事由とすべき理由は補足意見のとおり。
債権者が主たる債務者の財 産について有する担保権の実行の申立てをした場合や、債権者が主たる債務者の財産に対する仮差押えの申立てをした場合には、その申立てにより、主たる債務 者の資産状態が悪化しているとの債権者の認識が表示されたと見ることができることから、その後に債権者があえて主たる債務者に対する融資を行った場合に、 保証人に対し、その後に行われた融資の分についてまで保証債務の履行を求めることは、衡平に反すると考えられる。
また、債権者が保証人の財産に ついて有する担保権の実行の申立てをした場合や、債権者が保証人の財産に対する仮差押えの申立てをした場合にも、その申立てにより、保証人の資産状態が悪 化しているとの債権者の認識が表示されたと見ることができることから、その後に債権者が主たる債務者に対する融資を行った場合には、その融資は保証人の資 力を当てにしないで行われたものと考えられる。
以上の点は、上記アの場合と同様に考えることができる。したがって、保証人保護の観点から、アと同様にこれらを元本確定事由とすべきである。(2)その他
意見:(注1)については、少なくともア、イ、ウのいずれかに著しい事情の変更があった場合には、保証人に元本確定請求権を認める方向で検討すべきである。
理由:現行法の下でも、判例上、根保証契約締結時には予期し得なかった著しい事情の変更が生じた場合等には、保証人は将来に渡っての解約権を有するものとされている。このことを踏まえて、(注1)では、著しい事情変更の例としてア、イ、ウが示されているものと思われる。
以上のうち、アの場合については、そもそも根保証契約自体が主たる債務者と保証人との一定の関係(法人と代表者という関係、あるいは雇用関係等)を基礎と しているという特殊性(そのような関係がなければ根保証契約を締結することはなかった)に着目すれば、そのような関係に著しい事情の変更があった以上、少 なくとも従来どおりの根保証という契約関係を維持すべきか否かについての選択権を保証人に与えることが妥当であると考えられる。
イの場合につい ては、例えば、主たる債務者が複数の業種を営んでいる場合に、従来は専らある特定の業種(甲)に充てるために融資がなされていたところ、新たに別の業種 (乙)に充てるために融資がなされることとなったケースなどが想定されるが、少なくともそのような事情の変更が生じた場合には、債権者から保証人に対しそ の旨の情報を提供することを義務付けるとともに、保証人に元本確定請求権を認めることが、衡平であり、保証人保護の観点からも妥当である。
ウの 場合についても、主たる債務者の資産状態に著しい変更があった以上、保証人保護の観点からは、保証人に元本確定請求権を認めるべきである。例えば、他の債 権者から、主たる債務者の財産に対し、強制執行の申立てがなされたようなケースがこれに該当するものと考えられる。
なお、(注1)においては、「考慮すべき様々な要素を的確に法文上表現することが困難である」という指摘がされているが、現行法の下では明文規定が存在しないために、保証人の保護が不充分であるとの現状を踏まえて、明文化を前向きに検討すべきである。意見:(注2)の、「債権者に対し、主たる債務の額の変動、不履行の発生等の一定の事由について保証人に通知すべき義務を課すべきである」との考え方には賛成する。
理由:一 般に、根保証における保証人は、主たる債務者に対し追加融資がなされた場合等にもその部分について責任を負うこととなるにもかかわらず、主たる債務の額の 変動、あるいは不履行の発生等の事由について十分な情報を有しない場合が少なくない。保証人に対し、上記のような元本確定請求権等が付与されたとしても、 これを適切に行使するためには、少なくとも主たる債務の額の変動、不履行の発生等の一定の事由を常に正確に知る機会を与えられていなければならない。な お、この趣旨を徹底するためには、(注2)に述べられている、「通知義務を怠った場合にどのような私法上の効果を付与するか」という問題については、少な くとも通知義務を怠ったまま追加融資がなされた場合には、当該融資分について保証人は責任を負わないこととすべきである。第2 適用範囲
1 要式行為について
意見:賛成する。
理由:保 証人保護の実効性を高める観点からは、根保証であるかその他の保証であるか、保証人が個人であるか法人であるか等を問わず、すべての保証契約につき書面に よることを義務付けるべきである。実務上も、保証契約はほとんどの場合において書面によってなされているのが通例であることから、これを義務付けたとして も混乱が生じる恐れはないものと考えられる。2 根保証における限度額の定め、保証期間の制限等について
(1)保証人の範囲
意見:賛成する。
理由:補足意見のとおり。
(2)主たる債務の種類
意見:主たる債務に貸金債務が含まれている場合に限って適用するものとすることが適当か否かについては、なお慎重に検討すべきである。
理由:例 えば、不動産賃貸借における根保証については、補足説明において指摘されるような問題点があることも確かであるが、そのような特定の取引類型については一 部について適用除外規定を設ける取扱いもあり得るところである。この他にも、根保証はさまざまな取引において利用されており、それら多種多様な取引に対 し、主たる債務が貸金債務である場合と同様の規制を加えることが適当であるか否かについては、さらに慎重に検討する必要があると考えられる。意見:(2関係後注)については賛成する。
理由:補足意見のとおり。第3 おわりに
根 保証契約に由来する現実の被害及び紛争は、銀行等の金融機関が行う取引に関するものよりも、むしろ商工ローン等の高利貸金業者が行う取引についていっそう 顕著であると言える。商工ローン等貸金業者が根保証契約を利用する際の規制については貸金業の規制等に関する法律(以下、貸金業法という)においても一定 の手当てがなされているものの、同法は行政法規であることから、これに違反したからといって直ちに民事上の効力が発生することとはならない。その意味では 今回新たに根保証契約に関する民事規定を整備する意義は大きいと考えられる。今般の保証制度の見直し作業により、貸金業法による規制とあいまって、保証人 保護のためのより実効性のある方策がとられることを強く期待するものである。