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意見書等
2006年(平成18年)04月03日
法務省大臣官房司法法制部司法法制課 御中
「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の実施に関するガイドライン案」に関する意見
日本司法書士会連合会
日本司法書士会連合会(以下「日司連」という。)は,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(以下「ADR法」という。) の中核的な手続である「民間事業者の行う裁判外紛争解決手続(和解の仲介を行うもの)の業務」を対象とした法務大臣による認証制度に関する審査及び監督等 の基準となる「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の実施に関するガイドライン案(以下「認証ガイドライン」という。)」について,次のとおり意 見を申し上げます。
1.はじめに
認証ガイドラインの性格は,ADR法における手続法部分の適用における明確な基準を示そうとするものであり,司法制度改革審議会意見に沿って始められよう とする新たな制度への国民の関心を高め,ADRサービス提供を企図する者にとっては,提供するサービスの内容を確立していく上で極めて有益な規定であると 考える。
日司連は,全国50の司法書士会が認証紛争解決事業者となり,法律の専門家である司法書士らしいADRサービスを提供しようと企図して,ADR機関開設の 準備を進めており,法務大臣による認証取得のための基盤整備のため,この認証ガイドラインの提示を心待ちにしていたものである。
ところで,ADR法は,簡単に言うならば「法律事務の一部を民間に開放する」制度であり,そのため弁護士法第72条の適用除外のための仕組みとして「認証 制度」が設けられたものである。このことから,重要な手続き上の判断に弁護士の関与を求めているところであるが,弁護士の関与をどの程度の「基準」で要求 するかは,ADR制度の普及に少なからず影響を与えるものである。紙幅の都合から多くを述べないものの,認証ガイドラインの示す弁護士助言手続において も,弁護士(弁護士会)の関与が,ADR制度の信頼とその手続の適正確保の観点から重要であると理解しつつ,弁護士や弁護士会の内なる事情により弁護士の 助言措置を講じることが出来ずに機関の開設や運営が困難となる事態に陥ることがないよう格段のご配慮を期待するところである。
法務省において「弁護士(弁護士会)の内なる事情が,ADR制度の拡充活性化に向けた運用を妨げることとならないよう,適正な弁護士助言措置の運用のあり方」についての十分な協議を進められることを切に要望する。2.認証ガイドラインに対する個別意見
認証ガイドラインの目次に沿って,次のとおり格別に意見を申し上げます。ただし,表題のみ記載されて意見が記載されていない基準については,特別な意見がないものとしてご理解くださいますようお願いします。
1.目的
(意 見)認証ガイドライン策定の目的に異論はないのであるが,例示等の解説から受ける 全体的印象として,認証手続の隅々に裁判所における各種手続類似の手 続を要求して いると感じさせる記載(法律構成,証拠資料,主張等の表現)があり,このことは, 多様な紛争解決手段により健全なADRを育成してい くために,法律手続に近い職能 以外の関与を妨げるおそれがないものか懸念するところであり,更なるご配慮を希望 するものである。2.認証の基準について(法第6条関係)
(意 見)(1)法第6条第1号関係においては,掲載された例示が個別の資格者や職域を印象づける場合には,例示を超える紛争の範囲を定めることが困難であるか のような印象を与える場合もありうるため,例示の件数を増やしたり,例示された以外にも多くの定め方が考えられる旨の注を付記しては如何かと考える。
(2)法第6条第2号関係においては,「和解の仲介を行うのにふさわしい者」に求められる「能力」のうち,(3)紛争解決の技術(コミュニケーション,カ ウンセリング等の技術)に関する専門的能力については,研修などで事後的に習得することが十分可能と考えられる能力であり,認証申請の時点でこの能力が備 わった者を手当てすることを可能とする基準は必要ないのではないかと考える。そこで,この能力については,「和解の仲介を行うのにふさわしい者」に求めら れる「能力」としつつ,認証申請時に必要とするのではなく,手続が実施されるまでに備わっていなければ認証取消等の事案に発展するおそれがある,という定 め方も考えられるのではないか。
(3)法第6条第5号関係においては,司法書士会として最大の関心を持って基準案を読ませていただいた。
本号に関しては,弁護士の助言措置を「どのような場面で」かつ「どのような方法で」受けるかを理解しうるものであれば良いと考える。しかしながら,規定に おいて用いられている用語について「一般人が」「通常」「高度な」「必要であるという状態」等々必ずしも定義が明確とは言えない言葉が用いられており,さ らに加えてADRの多様性を損なわない手続を志向する立場によって,これらの言葉はさらに広がりのある理解をされる可能性があると考える。
今後の事例の蓄積を待つ必要もあると考えるし,かつ,認証基準の運用にあたっては,明らかな「違法状態」である場合を除き事前規制とならない解釈によられることを切望する。
ところで,「弁護士の助言を受けることができるようにするための措置」については,地域的事情が左右すると思われる。つまり,弁護士会の事情により弁護士 との契約ができないなど需給バランスが崩れたとき,全国一律の基準で認証基準を運用できるか疑問である。特にエの(イ)の基準については,弁護士数の増加 を待たなければならない実情があるのではないかと考える。
認定司法書士については,全国で弁護士数の約半数にも上り,その全国配置も司法過疎解消の一助となっている。この観点からは,ADRの適正な実施と信頼の 確保に司法書士の果たすべき役割は少なくないと自負している。一方,弁護士法第72条の適用除外となる本法の運用は,厳格であることもやむを得ないという 理解を持つ。この立場で,認定司法書士の手続実施者としての活用は,慎重かつ大胆に行われることを要望する。
もちろん,本法の求める法的助言措置が弁護士職に限定されていることは,明白であり,助言者の役割に関する司法書士職の活用には法律施行後5年を経て行わ れるであろう見直しに際して期待するところであるが,助言者としての活用以外にも司法書士はADR手続の円滑な運用に貢献しうるものと考えており,引き続 き認証ガイドラインについては,事例の蓄積と不断の見直しを期待したい。
(4) 法第6条第15号関係においては,特段の修正意見はないが,「適正」な報酬基準が利用者に知らされることで,適正な市場が形成されるのであり,報酬につい ては,情報公開の最大の意義が発揮されるものと考える。収集した統計資料(事業報告等)の公開を積極的に展開すると共に,認証紛争解決事業者に対する指導 においても,報酬の明確化は何よりも重視して行われるべきと考える。
(5) 法第6条第16号関係においては,認証申請を行う者に対する義務を課すこと及びその程度については慎重であるべきと考えつつも,「苦情の対応」が制度に対 する信頼の確保と裏腹の関係にあると考え,そのことを理解するためにも,国際規格に準拠した「JIS Q 10002:2005」の導入を推奨するなど,事後監視型社会の司法制度のあり方からも,認証ガイドラインに規定される「~が望ましい。」という表現に留 まることなく,認証機関に対して積極的に指導すべきである。
(6) 法第6条柱書(知識及び能力並びに経理的基礎)関係においては,司法書士会が認証申請を行う上で大きな問題は無いものと確信している。ただし,認証申請の 手続において,「(a)認証の申請の日の属する事業年度の直前の事業年度の貸借対照表,収支計算書若しくは損益計算書及び当該事業年度末の財産目録又はこ れらに準ずるもの」との要請は,認証申請が4月1日だと仮定した場合,司法書士会の事業年度は3月31日までであるため,直前の事業年度のこれら決算関係 書類が整備できるのは,早くても4月末頃となり,事実上司法書士会の認証申請のスタートは5月以降にならざるを得ない。
このことは,他の士業団体も同様であり,一度認証を得ると更新などの手続もないことから再度の認証申請はされない団体も多いと予想され,このような事情を 考慮の上、商業登記手続などで添付を求められる場合がある「最終の貸借対照表」等という規定の仕方であれば,司法書士会などにおいては、前々年度の決算書 類となるため,手続きを進めることも可能であり、この点から経過規定ないし表記の変更を検討していただきたい。3.欠格事由について(法第7条関係)
4.認証の申請の申請書及び添付書類について(法第8条関係)
(意見)認証申請における添付書類は,認証基準の適合性を判断するための資料であることは理解できるところであるが,規制緩和の時代に逆行することなく,申請人にとって過度の負担とならないよう格段の配慮をしていただきたい。5.認証審査参与員からの意見聴取について
(意見)認証審査参与員からの意見聴取の場面及びその実施方法については,概ね異議がない。ただし,認証審査参与員の構成及び審査対象の決定については,司法書士及び隣接法律専門職者の活用を図り,弁護士職に偏ることなく選任され運用されることを希望する。6.掲示について(法第11条第2項関係)
(意見)掲示に関しては,「調停が行われる場所に常に掲示がされていることを必要とする」ものではないと理解するが,規定から必ずしも明確ではないように感じられ,運用において誤解を招くことのなきよう配慮していただきたい。7.変更の認証について(法第12条関係)
(意見)ここでは,「変更の認証を要しない軽微な変更」について,15個の例示をあげて説明している。しかし,例示されたもの以外にも多くの場合が該当するのではないかと考えられ,全てを網羅することは困難であろう。
法の規定からは,除外する場合を規定することとなっているものと考えるが,義務を課す規定の運用における例示方法としては,「変更の認証を受けなければな らない場合」を限定列挙することが,手続を行うものにとって,規定が不明確な故の過ちを回避させ,確実に法を遵守することが期待できることとなり望ましい のではないかと考える。是非ご検討いただきたい。8.変更,合併及び解散の届出等について(法第13条.第17条及び第18条関係)
9.説明義務について(法第14条関係)
10.手続実施記録の作成及び保存について(法第16条関係)
11.報告及び検査について(法第21条関係)
12.勧告等について(法第22条関係)
13.認証の取消しについて(法第23条関係)
14.認証紛争解決手続の業務に関する情報の公表について(法第31条関係)
(意見)認証紛争解決手続の業務に関する事項の公表は,利用者に対する選択基準の公開と認証制度に対する信頼を確保する方策の一種であり,「することができる」とされているものの,積極的に実施すべきである。
認証ガイドラインにおいては,具体的な「公表」の方法に言及しておらず,早期に公表の方法(法務省のウェブサイトを利用するのか,独自のサイトを開設しようとするのか等)を明示していただきたい。