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意見書等
2006年(平成18年)12月14日
経済産業省 御中
割賦販売法の改正を求める意見書
日本司法書士会連合会
産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会は,2006年6月7日付け「報告書クレジット取引に係る課題と論点整理について」(以下「報告書」という。)を発表した。当連合会は,割賦販売法の改正を求め以下のとおり意見を述べる。
第1 悪質な勧誘販売行為を助長するような不適正与信の排除
(意見)
1 不適正与信排除義務を明文化する。また,これに違反した場合,行政上の措置の対象となる旨も明文化する。
2 不適正与信排除義務の民事的効果として既払金の返還を認める。
3 個品割賦購入あっせん取引における割賦購入あっせん業者の書面交付義務を明文化する。
4 割賦購入あっせん取引におけるクーリング・オフの行使期間は,割賦購入あっせん業者から交付された立替払いに関する契約内容を記載した書面を消費者が受領した時から起算する。
5 個品割賦購入あっせん取引も登録制とし,併せて,割賦販売・ローン提携販売・割賦購入あっせんの各取引における行政規制権限の範囲を拡大・強化する。
(理由)
意見1について
これまで,割賦購入あっせん業者に対して,加盟店の実態把握・管理の徹底,悪質な販売店の加盟店からの排除等を求める通達が数多く出されてきた(昭和58 年3月11日付通達,平成4年5月26日付通達,平成7年10月23日付通達,平成14年5月15日付通達,平成16年12月20日付通達,平成17年7 月11日付通達等)。これらは,クレジットを利用した消費者被害の未然防止又は拡大防止のため,不適切な販売行為等を行う事業者にクレジットを利用させる ことのないよう出されたものである。
しかしながら,これらの通達が出された後も,ダンシング事件,アイデック事件,次々販売事件等,多数の消費者を被害者とする事件が多発している。これら は,割賦購入あっせん業者が加盟店の実態把握・管理の徹底等をしていれば,消費者被害の未然防止や拡大防止が図れた事件であり,割賦購入あっせん業者の加 盟店の実態把握・管理に対する姿勢は,上記通達が出された後も改善されていない。
そもそも,立替払契約の法的性格は,準委任契約であり(最高裁判所編「消費者信用関係事件に関する執務資料2」44頁),受任者である割賦購入あっせん業 者には,善良なる管理者の注意をもって立替払いを実行する義務がある。割賦購入あっせん業者は,先の通達のとおり,加盟店が扱っている商品・役務の内容や 販売態様及び加盟店の信用状態を継続的に把握・管理するとともに,消費者に被害を及ぼすおそれのある販売店を加盟店としない法的義務(不適正与信排除義 務)を有している。しかしながら,現行の割賦販売法には,割賦購入あっせん業者の不適正与信排除義務に関する規定は存在しない。
よって,割賦販売法に割賦購入あっせん業者に不適正与信排除義務があることを明文化し,併せて,当該義務が徹底されるよう,これに違反した場合は登録取消等の行政上の措置の対象となる旨も明文化すべきである。意見2について
「意見1について」で記載したように,割賦購入あっせん業者には不適正与信を排除する義務がある。そして,当該義務を割賦購入あっせん業者が遵守しなかったことによって生じた購入者の損害は,当該割賦購入あっせん業者によって賠償されなければならない。
しかし,割賦購入あっせん業者が消費者との立替払い契約において不適正与信排除義務を遵守していたかどうかは,割賦購入あっせん業者の内部的な問題であり,購入者においてこれを立証することは困難である。
よって,割賦購入あっせん業者の不適正与信排除義務の民事的効果として,消費者に既払金返還請求権を認め,その内容は,原則,割賦購入あっせん取引におい て,販売店との契約が取り消された場合は,購入者は割賦購入あっせん業者に対して既払い金返還請求権を行使することができることとし,割賦購入あっせん業 者が不適正与信排除義務を遵守していた事実を立証した場合は,これを拒絶することができるとすべきである。意見3,4について
総合割賦購入あっせん取引やリボルビング式割賦購入あっせん取引において,販売店は販売に関する契約内容を記載した書面を,割賦購入あっせん業者は立替払 いに関する契約内容を記載した書面を,購入者に対して交付する義務を負っている(法30条の2 1項2項3項4項,30条の2の2 1項)。これに対し, 個品割賦購入あっせん取引においては,割賦購入あっせん業者の書面交付義務は規定されていない(法30条の2 5項)。
割賦購入あっせん業者に対して購入者への書面交付の徹底を図れば,割賦購入あっせん業者の販売店に対する販売態様や商品内容等の把握・管理がより適切に行なわれるようになることが期待できる。
よって,当該義務を割賦購入あっせん業者に課すことは不適正与信の排除に資するため,個品割賦購入あっせん取引においても割賦購入あっせん業者の書面交付義務を定めるべきである。
また,書面交付義務の実効性を図るため,割賦購入あっせん業者の交付する書面を消費者が受け取るまで,クーリング・オフの行使期間は進行しないものとすべきである。意見5について
現在,割賦購入あっせん業者に対して,登録制を設けている総合割賦購入あっせん取引,リボルビング式割賦購入あっせん取引においては,報告徴収・立入検 査・登録の取消し等を行うことができるが,個品割賦購入あっせん取引では登録制を設けていないことから,このような行政による規制を行うことができない (法31条・法34条乃至34条の3・法40条・法41条)。
また,現在,行うことができる行政規制だけでは不十分であり,その対象も狭いと言わざるを得ない。
よって,個品割賦購入あっせん事業者に対しても登録制を設け,総合割賦購入あっせん事業者等と同様,報告の徴収(法40条)・立入検査(法41条)・登録 取消(法34条の2)を行えるようにすべきである。また,割賦販売・ローン提携販売・割賦購入あっせんの各取引につき,新たに業務改善指示・業務停止命令 を行政規制権限に加えるとともに,法の各義務(書面交付義務・不適正与信排除義務・加盟店管理義務等)を,行政規制の対象とし,法令遵守の徹底を図るべき である。第2 過剰与信の防止
(意見)
1 金融と販売信用とをあわせ,信用情報機関ごとの情報交流を制度化すべきである。
2 下記のいずれかを超える与信について,購入者の提出した年収等及び可処分所得を証する資料に基づき返済能力を審査することを義務付けるべきである。
(1)1社あたり50万円または当該購入者の年収額の10%のいずれか低い額
(2)他社をあわせて総額100万円または当該購入者の年収額の3分の1のいずれか低い額
3 過剰与信違反に対する民事効の制定を求める。
4 信用情報機関への登録情報を特定する符号・番号等を,割賦購入あっせん業者が交付すべき書面の記載事項とすべきである。
5 信用情報機関ごとの情報交流は,借入総額と借入件数に限定して行うべきである。
6 交流情報の取得は,与信審査の目的に限定されるべきである。
7 不当な情報取得に対する規制・罰則の制定を求める。
(理由)
過剰与信防止の実効化のためには,現在,貸金業者と割賦購入あっせん業者とで別個に複数の信用情報機関によって管理されている情報が相互に交流される制度 の構築と,全取引についての登録義務化が必須の要件となる。そのうえで,金融と販売信用をあわせ,トータルの与信額についての具体的基準を設置すべきであ る。そこで当会では,(1)1社あたり50万円または当該購入者の年収額の10%のいずれか低い額,(2)他社をあわせて総額100万円または当該購入者 の年収額の3分の1のいずれか低い額という基準を設置し,これらを超過する与信については,購入者の提出した年収等及び可処分所得を証する資料に基づく返 済能力の審査の義務付けを求める。
さらに,実効性を確保するため,過剰与信違反について民事効を制定すべきである。具体的には,過剰与信と判断された与信については,割賦購入あっせん業者 がその返還を求めることができない規定を制定すること等が考えられる。現実の紛争の場面では,当該与信が過剰与信であるか否かの判断が問題となるが,この 点は,先に示した基準を超える与信については原則として過剰与信に該当するものとする一方,基準を超える与信について「過剰与信でないこと」の立証責任を 割賦購入あっせん業者に負わせる方法が妥当である。基準を超える与信については,割賦購入あっせん業者は必ず,購入者から返済能力を示す資料の提出を求め なければならないのであるから,適正な審査さえ行っていれば,その立証は容易であろう。
また,全件登録を担保するために,登録情報を特定する符号・番号等を,割賦購入あっせん業者が交付すべき書面の記載事項とすべきである。一方,信用情報機 関の統一は,かえって「報告書」が指摘する「次々販売」等を助長するおそれも高い。そこで,ホワイト情報の交流は与信総額と与信件数に限定するものとし, その利用目的も「与信審査」に限定されるべきであり,勧誘目的での交流情報の取得は,厳に禁止されるべきである。目的外使用を厳に制限することは,「報告 書」が指摘する個人信用情報保護にも資するものである。第3 クレジット取引関連事業者の責務と役割について
(意見)
複数事業者が関与するクレジット取引においては,消費者に対する不適正与信防止義務,過剰与信防止義務,契約書面交付義務,抗弁の対抗,その他責任について,複数事業者間の役割分担と責任を消費者に対し明確に表示することを義務づけるべきである。
(理由)
クレジット取引においては,近年,異業種による新規参入や業界再編がすすみ,さらにはインターネット商取引が活発化し,取引形態も複雑・多様化してきた。 一つの取引に複数の関連事業者が介在するようになったが,その役割と責任関係が明確になっていないので,取引におけるトラブルや個人情報などを含むカード 情報の漏洩などの問題が発生しやすい状況になっている。
クレジットカード発行会社,アクワイアラー,決済代行業者,クレジットカードブランド会社等それぞれの関連事業者が消費者保護と適正な取引秩序維持のため にどのような役割と責務を果たすべきであるかを検討し,複数事業者間の役割分担と責任を消費者に対し明確に表示することを義務づけるべきである。第4 割賦払い要件と支払い期間要件の見直し
(意見)
自社割賦販売については現行の要件である「2ヶ月以上かつ3回以上の割賦払い」を維持し,それ以外の取引については「2ヶ月以上かつ3回以上」の要件を廃止し代金後払い契約全体を適用対象とすべきである。
(理由)
現状の販売信用取引の多くは,「割賦購入あっせん取引」に代表される割賦購入あっせん業者を含めた三者間契約であり,自社割賦販売取引は以前と比較すると明らかな減少傾向にある。
そのような現状において,割賦購入あっせん業者を含めた三者間契約では,通常の二当事者間の取引とは異なり,多くの問題が発生し,購入者たる消費者が被害 を受けることが多々ある。その度ごとに割賦販売法の改正が行われているが,被害は一向に減少しない。特に近時の悪質販売業者においては,半年あるいは一年 後の一括払い乃至二回払いを勧めて,法の規制対象から逃れる事例が見受けられる。悪質な事業者であればあるほど,こうした法の不備を悪用する傾向にあり, 規制の対象を拡大すべきである。また,支払い期間においても,翌月一括払いを現金取引に類似するものと考え規制対象から除外することは妥当ではなく,翌月 一括払いであっても多数当事者における複雑な法律関係が発生することも考慮し,当然にクレジット取引の一つとして,規制を及ぼすことが必要である。
一方,自社割賦販売では,現行の規制においても取引秩序の安定を図れていることから,現行の要件を維持することが相当である。第5 指定商品制の是非
(意見)
1 ローン提携販売取引及び割賦購入あっせん取引については指定商品制を廃止し,クレジットを利用してなされる全ての取引を適用対象とする。
2 自社割賦販売取引については,指定商品制を維持する。
(理由)
1 近年のパソコン及び多機能携帯電話の普及により,インターネット利用者は爆発的に増加し,これに伴いインターネットを利用した新たな取引形態が出現し ている。これにより企業間の新商品・新サービスの開発競争は激化の一途をたどり,消費者に提供される商品やサービスは加速度的に多様化している。そのた め,今後は法の予測しない商品等がクレジット取引により販売されることが容易に予測しうるものである。
さらに近時は,悪質な事業者が高齢者や視聴覚障害者さらには知的障害者を標的にした被害が増加しており,また,指定対象外の商品等であるとして,クーリング・オフを拒否する事例もみられる。
そこで,法の目的を鑑みるに,クレジット取引においては利用者である購入者の利益を第一に保護しなければならないところ,現在の指定商品制においては,被 害が表面化しなければ指定対象とならないため後追い規制でしかなく,悪質な事業者により消費者の利益は侵害されているといえる。これでは法の目的を達成す ることができないだけでなく,今後予測されうる被害の発生を容認することになる。
また,諸外国の消費者信用法制においては,指定商品制をとっているものは見当たらず,統一的・包括的な消費者信用法制をとるところが多数である。
したがって,法が機動的に対応するためにも,ローン提携販売取引及び割賦購入あっせん取引については指定商品制を廃止し,クレジットを利用してなされる全ての取引を規制対象とするのが相当である。
2 自社割賦販売については,二当事者間の契約であるため法的関係は複雑とならず,現行制度においてもその取引の秩序維持は図られているから,指定商品制を維持すべきである。