-
意見書等
2019年(平成31年)04月12日
法務省出入国在留管理庁政策課 御中
「出入国在留管理基本計画案」に関する意見書
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
出入国在留管理基本計画案につき,当連合会は,以下のとおり意見を申し述べる。
Ⅲ 出入国在留管理行政の主要な課題と今後の方針
4 外国人材の受入れ・共生のための取組
(3)対応策(今後の方針)
ア 外国人との共生社会の実現に向けた取組
【意見】
外国人が日本人と同様に公共サービスを享受し,安心して生活することができる環境を整備していくためにも,今後の在留外国人の身分登録のあり方について,次のとおりの取組を行うべきである。
①短期的には,外国人住民票の備考欄へ身分事項の補充記載をすべきである。
②長期的には,在留外国人の身分登録台帳制度の創設を検討すべきである。
③上記①②については,法務省及び出入国在留管理庁が主体的役割を果たすべきである。
【理由】
1.2018年末の273万人の在留外国人のうち約77.2万人が在留資格「永住者」により在留している。その数は益々増加することが予想される。定住又は永住する在留外国人は,日本社会の構成員として国内において出生,死亡し,婚姻,離婚及び養子縁組等の身分行為を行っている。出生及び死亡の事実や身分行為を反映する身分証明は日常生活上必要な情報であり,親子関係や夫婦関係の存否を証明するものであり,相続が開始した場合は相続を証する証明書となる。
日本の戸籍には,原則として外国人の身分関係は記載されず,当該外国人の本国の身分登録簿等に記載されるのが一般的である。ところが,当該外国人が本国の身分登録簿等へアクセスできない場合や日本国内で成立した身分行為が本国の身分登録簿に反映されていない場合がある。また,そもそも外国で生じた出生,死亡の事実や身分行為を本国の身分登録簿等に反映させるシステムが存在しない国もある。
2.外国人が日本国内で出生,死亡した場合の報告的届出については,戸籍法上,外国人にも届出義務が課されており(昭和24年3月23日民事甲第3961号),婚姻,離婚,認知及び養子縁組の準拠法が日本法である場合又は日本が行為地である場合には,創設的な届出もすることができる。そして、当該外国人の報告的届出,外国人同士の創設的届出の受理書類は,受理した市町村において一定期間保存されるので,当該市町村において,これらの戸籍記載不要届書類に記載した事項証明書の交付を受ければ,本国の身分登録簿に記載が存在しない場合でも,親子関係や夫婦関係を証する証明書として利用することができる (戸籍法48条,同法施行規則50条)。しかし,これらの届出から長期間経過すると,届出人本人,利害関係人等が届出をした市町村を失念したり,保存期間の経過により当該記載事項証明書の入手が困難な場合がある。
3.このような場合に有用な資料となっているのが,外国人登録法(昭和27年法律125号)(平成24年7月9日廃止)(以下「旧外登法」という。)に基づく登録原票の記載事項であった。
登録原票の記載事項の有用性については,2012年7月9日に「外国人住民票」が創設された際の①「国籍の属する国における住所又は居所」(4条7号),②「出生地」(4条8号),③「申請に係る外国人が世帯主である場合には,世帯を構成する者(当該世帯主を除く。)の氏名,出生の年月日,国籍及び世帯主との続柄」(4条18号),④「本邦にある父母及び配偶者(申請に係る外国人が世帯主である場合には,その世帯を構成する者である父母及び配偶者を除く。)の氏名,出生の年月日及び国籍」(4条19号)等が外国人住民票の記載事項にならなかったことにより,旧外登法が廃止されて以降,法務省に対し登録原票開示請求が数多く寄せられていることを見ても明らかである(平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会報告書「今後の出入国管理行政の在り方」第6共生社会の実現に向けた取組19頁以下参照)。
4.2012年7月9日以降に入国あるいは出生した外国人については,この登録原票は存在しない。これについて上記報告書の19頁(検討事項等)においては,「今後は,外国人登録原票のない在留外国人が徐々に増加していくものと予想されるが,将来的には,これらの外国人の家族関係や身分事項,住所歴等の証明が困難となる可能性も見込まれる。外国人との共生社会の実現を見据えた場合に,外国人についてどのような情報が必要となってくるかについての議論も必要である」と指摘がなされている。
5.また、法制審議会戸籍法部会においても,在留外国人の戸籍法上の公証方法の議論の中で,「戸籍に記載されない外国人について,親族的身分関係を明らかにした別途の帳簿を調製することも考えられるが,このような制度の導入については,戸籍制度の抜本的な見直しが必要と考えられ,慎重な検討を要するものと考えられる。」と指摘がなされていたように,現在の戸籍制度の抜本的見直しを行うか,在留外国人の身分登録台帳制度を新たに創設する必要があると考えられる。
6.当連合会としては,在留外国人の身分登録台帳制度が創設されるべきであると考えるが、当該制度が創設されるまでは,在留外国人の下記情報を蓄積し,下記情報を「外国人住民票」の備考欄に補充記載すべきであると考える。
1)国籍の属する国における住所又は居所
2)出生地
3)戸籍法に基づく出生届,死亡届,婚姻届,離婚届等の創設的届出を保存管理する市町村名等
4)日本の判決等で離婚,離縁等があった場合の管轄裁判所等
7.加えて、在留外国人の戸籍法に基づく報告的届出・創設的届出に関する届書類の保存期間を戸籍法施行規則第10条の2(再製原戸籍の保存期間)第2項と同様に当該年度の翌年から150年とし、消除した外国人住民票の保存期間についても住民基本台帳法施行令第34条(保存)第2項の在外者等に関する記載をした戸籍の附票の保存期間と同様に消除した日から150年間とするべきであると考える。
以上のとおり,在留外国人の身分登録制度を充実させることにより,在留外国人も日本人と同等な法的サ-ビスが享受できることになり,安心して生活できる環境が整備されるものと考える。