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意見書等
2018年(平成30年)10月23日
法務省民事局参事官室 御中
「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令案」に関する意見
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
標記省令案につき,当連合会は,次のとおり意見を申し述べる。
【意見の趣旨】
標記省令案に賛成する。しかし,事案によっては仮払いがされる金額が不相当に高額になる事例も想定されることから,改正法の施行後も適宜その運用状況を把握し,必要に応じ,上限額の見直し等適切な対応を図るべきである。
本上限額の定めは,交通事故の損害賠償の基準として多く採用されている「損害賠償額算定基準」で認められている葬儀に要する額やその他統計資料を参考に決定されたものとされ,一応の合理性のある額であると思料する。ところで,これまで預貯金債権等の可分債権は,相続開始により当然に分割され,各相続人が相続分に応じて権利を承継することとされてきたところ,最高裁平成28年12月19日大法廷決定では,預貯金債権の契約の内容を論じたほか,「遺産分割の仕組みは,被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在する」といった理由から,これを変更し,預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示したものである。本決定の趣旨からすれば,相続人が,改正法により新設される民法第909条の2の規定によって単独で権利を行使することができる範囲は,相続開始後に発生する相続人の資金需要に応える範囲に限定されるべきであって,不必要に過大な権利行使とならないように配慮されるべきである。
各共同相続人が単独でその権利を行使することができる預貯金債権の額について,金融機関ごとの上限額を150万円とすると,被相続人が口座を有していた金融機関が多数に及ぶ場合は,権利行使が可能な金額が数に比例して増えることになり,本来必要である資金需要を超えて権利行使がされる事例も想定されることは,「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令案」に関する概要説明においても懸念が示されているとおりである。
不必要に過大な権利行使の結果,他の共同相続人の権利が不当に害されることがないよう,改正法の施行後も適宜その運用状況を把握し,必要に応じ,上限額の見直し等適切な対応を図るべきである。
以上