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意見書等
2018年(平成30年)09月14日
消費者庁消費者制度課 御中
「適格消費者団体及び特定適格消費者団体の適正な業務運営を確保するための内閣府令(案)及びガイドライン(案)に関する意見」
日本司法書士会連合会
会長 今川 嘉典
〇消費者契約法施行規則の一部を改正する内閣府令(案)に対する意見
第1 意見の趣旨
もとより、改正の必要性自体に疑問があり、また、「労務の提供」の定義が明確でない等の問題があるため、改正に反対する。
第2 意見の理由
適格消費者団体及び特定適格消費者団体(以下「消費者団体」という。)の果たす公益的な役割に鑑みると、本来、今般のような改正を行うのであれば、消費者団体の活動を支援するための財政的な措置が先行して講じられるべきであり、そういった支援策を伴わないまま、本改正が行われるべきではない。
改正内容についても、現行消費者契約法等において理事構成の制限等の規定が設けられ、既に消費者団体が特定の事業者の影響により、その適正な業務を妨げられないようにする措置が講じられており、本改正の必要性には疑問がある。
さらに、「労務の提供」の定義が不明確である点も問題といえる。適格消費者団体は、弁護士や司法書士などの法律専門家の意見を踏まえ、事業者に対する申し入れや差し止め請求訴訟などの公益的な活動を行っている。その弁護士、司法書士による活動の多くは、まさしくボランティアであり、適格消費者団体より何ら日当・報酬といった対価を受けているものではない。こういった弁護士や司法書士らの各種専門職の活動も、一部「労務の提供」に該当する可能性がある。今回規定されている「事業者」とは、消費者契約法第2条第2項を指すものと思われ、そうであるならば、当然、弁護士、司法書士の多くは事業者に該当する。そのため、改正ガイドラインによると、弁護士、司法書士の活動を金額に換算する必要がある可能性も出てくるところ、これは困難を極める。仮に、時間と労力を掛けて労務提供を価額として算定した場合に、それを公表することが適格消費者団体の適正な業務運営を確保することに繋がるとは到底考えられない。
なお、弁護士や司法書士らの各種専門職以外の事業者からの労務の提供についても、単に労務の提供をどの程度受けているかによって、消費者団体がどの程度特定事業者に依存しているかは計れないものであり(社員の構成や財政的支援の程度など、依存度を計る上でより影響の大きいものは他にも存在する。)、本改正内容を公開すべき事項に追加する必要性はこの点においても疑問がある。
〇適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドラインの改訂(案)及び特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドラインの改訂(案)に対する意見第1 意見の趣旨
1 「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン2.(3)体制及び業務規程本文」及び「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン2.(2)体制及び業務規程本文」に対する意見の趣旨
「過度に」特定事業者に依存することがないようにするとは、定義が不明確であり、解釈や運用に委ねられる懸念もあり、改訂に反対である。
2 「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン2.(3)体制及び業務規程ア2段落目」及び「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン2.(2)体制及び業務規程ア2段落目」に対する意見の趣旨
(1) 役員の適格性につき、要件を加重することに反対する。なお、要件を加重するとしても、ガイドラインの改訂によらず、法改正によるべきである。
(2) 「関係業務を適正に遂行できるか否かを判断」する判断基準が明確でない今回の改訂に反対である。
3 「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン5.(4)イ(ア)適合命令」及び「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン5.(3)ウ(ア)適合命令」に対する意見の趣旨
適格消費者団体が「差止請求関係業務を適正に遂行できるとはいえない場合」の判断基準及び特定適格消費者団体が「被害回復関係業務を適正に遂行できるとはいえない場合」の判断基準が明確ではなく、本改訂に反対である。
第2 意見の理由
1 意見の趣旨1について
適格消費者団体が多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体であり、特定適格消費者団体が事業者から消費者被害を集団的に回復することができる存在であるため、特定事業者に依存せず、公平性を保たなければならないことは言うまでもない。しかし、「過度に」特定事業者に依存することのないよう注意を払うとしても、「過度」の程度が不明である。定義が不明確であれば、解釈や運用に委ねられる若しくは恣意的な判断がなされるおそれがあり、それらにより適格消費者団体及び特定適格消費者団体が委縮して、差止関係業務及び被害回復関係業務の適正な遂行に支障が生じることになりかねない。したがって、「過度」の定義につき不明確である本改訂に反対する。
2 意見の趣旨2について
(1) 適格消費者団体の役員の適格性に関して、消費者契約法第13条第5項において役員欠格事由が規定されている。また、特定適格消費者団体の役員の適格性に関しては、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律第65条第6項において役員欠格事由が規定されているところ、ガイドライン改訂案では、役員の適格性につき、「特定商取引に関する法律、不当景品類及び不当表示防止法、食品表示法違反をし、処分を受けた日から1年を経過しない事業者の役員または職員である場合」も付加することとなる。
他方、公益目的をもって活動する団体を規律する「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」第6条では、団体の公益認定が取り消された場合や、役員が所定の法律違反により罰金刑等を科せられた場合を欠格事由としている。また、国家公務員法第38条には「懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者」として、刑罰等の対象となっていない者についても欠格事由を定めるところ、官職に就く者であればまだしも、公益的な活動を行なう民間の団体である適格消費者団体及び特定適格消費者団体(以下「消費者団体」という。)の役員に関し、刑罰等の対象となっていない事業者の役員が、消費者団体の役員から除外されることとなるガイドライン改訂案は、消費者団体に対して、過大な要件を課すものと言える。欠格事由に該当する役員については、当該決議に加わることができないとするといった対応も可能であり、また、その程度で十分であると考えられる。
したがって、ガイドラインの改訂案には反対である。
なお、消費者団体に負担を付加する条項を追加するには、ガイドライン改訂で対応すべきものではなく、国会での議論を経て、法律を改正すべきである。
(2) 適格消費者団体の役員の適格性に関して、「差止請求関係業務を適正に遂行できるか否かを判断すること」とされ、また、特定適格消費者団体の役員の適格性に関して、「被害回復関係業務を適正に遂行できるか否かを判断すること」とされるが、適正遂行の判断基準につき不明確であることから、消費者庁の恣意的な判断がなされ、消費者団体が翻弄されるおそれがあるため、本改訂に反対する。
3 意見の趣旨3について
ガイドライン改訂案では、適合命令がなされる際、「差止請求関係業務を適正に遂行できるか否か」及び「被害回復関係業務を適正に遂行できるか否か」を判断することになるが、その判断基準が不明確であることから、消費者庁の恣意的な判断がなされ、消費者団体が翻弄されるおそれがあるため、本改訂に反対する。
「適格消費者団体及び特定適格消費者団体の適正な業務運営を確保するための内閣府令(案)及びガイドライン(案)に関する意見」(PDF)