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意見書等
2007年(平成19年)07月30日
経済産業省商務情報政策局 商務流通グループ取引信用課 御中
「産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会 中間整理」に対する意見
日本司法書士会連合会
2007年6月27日に公示された産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の中間整理に対して,当連合会は、割賦販売法の改正に向けて以下のとおり意見を提出する。
第1 加盟店管理のあり方
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1 意見
適合性原則から導かれる割賦購入あっせん業者(クレジット事業者)の適正与信義務としての加盟店調査を位置づけ,この調査義務を法的に位置づけるべきである。
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2 理由
クレジット業界の自主的取り組みが功を奏しないことは,これまでに発令され続けた幾多の通達によっても,加盟店の調査・管理が適正に行なわれなかったこと から明らかである。これまで,割賦購入あっせん業者に対して,加盟店の実態把握・管理の徹底,悪質な販売店の加盟店からの排除等を求める通達が数多く出さ れてきた。これらは,クレジットを利用した消費者被害の未然防止又は拡大防止のため,不適切な販売行為等を行う事業者にクレジットを利用させることのない よう出されたものであるが今日まで問題は解決されていない。
第2 個品割賦購入あっせん業者による書面交付義務
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1 意見
個品割賦購入あっせん業者による書面交付義務を法的義務とすること及び立替払契約についてもクーリング・オフを認めるべきである。
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2 理由
割賦購入あっせん業者による消費者への書面交付の徹底を図れば,割賦購入あっせん業者が販売店の販売態様や商品内容等の把握・管理がより適切に行なうことが期待でき不適正与信の排除に資することになる。
この制度設計としては,売買契約書面と立替払契約書面を別個の書面として,売買契約がクーリング・オフできる場合には,立替払契約もクーリング・オフできるものとし,売買契約のクーリング・オフが可能な場合として立替払契約書面の不交付を加える。
これに対して,販売行為に直接携わっていない割賦購入あっせん業者に書面交付を義務づけるのは実務上無理があるとの意見がある。しかしながら,書面交付を 割賦購入あっせん業者が直接行なうか販売店を介して行なうかは割賦購入あっせん業者の判断すべき事項であり,仮にこれを販売店に任せた結果,書面交付が適 正に行なわれない場合には割賦購入あっせん業者が法的責任を負うべきである。このことは,立替払契約が割賦購入あっせん業者と消費者との契約であるから当 然のことである。第3 民事ルール
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1 意見
個品割賦購入あっせん契約において,売買契約等が無効・取り消し・解除になった場合には,立替払契約により支払われた既払い金を割賦購入あっせん業者(クレジット事業者)が販売店との「共同責任」で返還すべき制度とすべきである。
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2 理由
売買契約等が無効・取り消し・解除になった場合には,割賦購入あっせん業者も販売店との共同責任により,既払い金返還の責任を負うべきである。
これに対して,割賦購入あっせん業者による与信が適正に行なわれなかったことによる過失責任として「損害賠償責任」という民事効果を与えることにより,既 払い金の返還と同様の結果を導き出そうとする意見があるが,このような方法では,不適正な販売店によって被害を受けた消費者の被害を回復することはできな い。割賦購入あっせん業者の適正与信義務違反という過失責任による場合には,割賦購入あっせん業者の過失を消費者が証明する必要があり,割賦購入あっせん 業者の審査内容という消費者がうかがい知れないことの立証を求められることになり困難を極める。また,この困難のため消費者に費用と時間を強いることにな り,場合によっては被害を受けた消費者が泣き寝入りをする可能性も高くなる。
仮に,過失責任による損害賠償を認める制度を採用する場合でも、立証責任の転換により、割賦購入あっせん業者に過失がなかったことを立証した場合に限り,損害賠償責任を負わないとの制度とすべきである。第4 過剰与信の防止並びに信用情報機関相互の情報交流の是非
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1 意見
(1) 信用情報機関
①金融と販売信用とをあわせ,信用情報機関ごとの情報交流を制度化すべきである。
②総合割賦購入あっせん契約及びリボルビング式割賦購入あっせん契約については,極度額及びその内のキャッシング極度額の信用情報機関への登録を,割賦購入あっせん業者に義務付けるべきである。
③信用情報機関ごとの情報交流は,借入総額と借入件数に限定して行うべきである。
④交流情報の取得は,与信審査の目的に限定されるべきである。
⑤不当な情報取得に対する規制・罰則の制定をすべきである。
(2) 書面記載事項
信用情報機関への登録情報を特定する符号・番号等を,割賦購入あっせん業者が交付すべき書面の記載事項とすべきである。
(3) 審査基準
下記のいずれかを超えることとなる与信について,購入者の提出した年収等及び可処分所得を証する資料に基づき,返済能力を審査することを義務付けるべきである。
①個品割賦購入あっせん契約については契約金額,総合割賦購入あっせん契約及びリボルビング式割賦購入あっせん契約については利用可能上限額(以下,これらをまとめて「契約金額等」という)が,1契約あたり50万円または当該購入者の年収額の10%のいずれか低い額
②当該購入者の貸金業者からの借入金,並びに自社及び他社のすべての契約金額等(以下,これらをまとめて「総債務残高」という)をあわせて,総額100万円または当該購入者の年収額の3分の1のいずれか低い額
(4) 与信禁止基準
総債務残高が,当該購入者の年収額の3分の1を超えることとなる与信は,禁止するべきである。但し,割賦購入あっせん業者が,購入者の日常生活に必要性が高くかつ合理的な購入動機が明示されていると認める個品割賦購入あっせん契約については,この限りでない。
(5) 民事効
審査基準及び与信禁止基準に違反する与信に対し,民事効を制定すべきである。
—————————————————————————————–2 理由
意見(1)信用情報機関(2)書面記載事項について
過剰与信防止の実効化のためには,現在,貸金業者と割賦購入あっせん業者とで別個に複数の信用情報機関によって管理されている情報が相互に交流される制度の構築と,全取引についての登録義務化が必須の要件となる。
なお,株式会社シー・アイ・シーの発行する信用情報記録報告書によると,総合割賦購入あっせん契約及びリボルビング式割賦購入あっせん契約については, 「極度額」及び「内キャッシング極度額」が登録項目として掲げられている。極度額の定めは,当該利用者に対し,その範囲内であれば原則として与信に応じる 旨を定めた基準額であるから,過剰与信防止の観点からは,個品割賦購入あっせん契約に限らず,総合割賦購入あっせん契約やリボルビング式割賦購入あっせん 契約において,利用者に予め設定された与信枠も含めて検討されなければならない。ところが,同社発行の「情報の見方に関する説明書」によれば,「極度額」 及び「内キャッシング極度額」の登録は義務化されておらず,「必ずしも全ての項目を登録できる訳ではない」ことになっている。これでは,信用情報機関を基 盤とする過剰与信の防止は実現し得ないのであり,登録情報の整備が不可欠と考える。
一方,信用情報機関の統一は,2006年6月7日付け「報告書クレジット取引に係る課題と論点整理について」(産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委 員会)が指摘するとおり,かえって「次々販売」等の悪質商法を助長するおそれも高い。そこで,ホワイト情報の交流は与信総額と与信件数に限定するものと し,その利用目的も「与信審査」に限定されるべきであり,勧誘目的での交流情報の取得は,厳に禁止されるべきである。目的外使用を厳に制限することは,同 報告書が指摘する個人信用情報保護にも資するものである。
また,信用情報機関への全件登録を担保するために,登録情報を特定する符号・番号等を,割賦購入あっせん業者が交付すべき書面の記載事項とすべきである。意見(3)審査基準(4)与信禁止基準について
信用情報機関ごとの情報交流を前提としたうえで,過剰与信防止のためには,与信の総額に基づく具体的な審査基準,並びに与信禁止基準(総量規制)を設置す べきである。また,先に述べたとおり,与信の可否は総合割賦購入あっせん契約及びリボルビング式割賦購入あっせん契約の利用可能上限額も含めた実質的な与 信総額に基づき判断されるべきである。
そこで当連合会では, ①1社あたり50万円または当該購入者の年収額の10%のいずれか低い額, ②他社をあわせて総額100万円または当該購入者の年収額の3分の1のいずれか低い額,という審査基準を設置し,これらを超過する与信については,購入者 の提出した年収等及び可処分所得を証する資料に基づく返済能力の審査を義務付けるべきであると考える。
さらに,総債務残高が,当該購入者の年収額の3分の1超えることとなるような与信は,購入者の日常生活に必要性が高くかつ購入者が合理的な購入動機を明示しているとの条件を備えた一定の与信を除き,原則としてこれを禁止するべきであると考える。
販売信用に対する与信禁止基準は,金融のそれと違い,自動車,家電製品等,日常生活に不可欠な物品を購入するような場面をも想定しなければならず,一律に 年収額の3分の1という基準を適用させることは,かえって消費者の日常生活に混乱を招く結果となりかねない。しかしその一方で,生活必需品という理由だけ をもって与信額が膨らんでしまい,月々の割賦金に窮する事態も考慮しなければならない。
そこで, ①購入者の日常生活に必要性が高いこと, ②購入者から合理的な購入動機が明示されていること,の二点を割賦購入あっせん業者の責任において判断し,双方の要件を具備するものと認められる与信についてのみ,総量規制の例外として与信を認めるべきである。
一方,日常生活には必ずしも必要ないものであっても,消費者が購入を希望する場合に,長期分割払等の方法により,月々の割賦金の負担を一定限度額以内とす ることを条件に総量規制の例外規定を設けるべきとの意見もあるが,このような考え方は,リボルビング式の取引と同様,消費者が,月々の割賦金だけに注目し 債務総額を把握し得ない事態を招くことになるほか,一定限度額の範囲内で返済期間を先延ばしにすることで,消費者は,いつまでたっても返済が終わらない状 況を強いられることが容易に予想されるため,当会としては採用すべきでないものと考える。
なお,審査基準と与信禁止基準との関係は,以下のとおり整理できる。ア)年収額300万円未満の者
ⅰ)1社あたりの審査基準・・・・年収額の10%に相当する金額
ⅱ)他社をあわせた審査基準・・・年収額の3分の1に相当する金額
ⅲ)与信禁止基準・・・・・・・・ⅱ)に同じ
イ)年収額300万円以上500万円未満の者
ⅰ)1社あたりの審査基準・・・・年収額の10%に相当する金額
ⅱ)他社をあわせた審査基準・・・100万円
ⅲ)与信禁止基準・・・・・・・・年収額の3分の1に相当する金額
ウ)年収額500万円以上の者
ⅰ)1社あたりの審査基準・・・・50万円
ⅱ)他社をあわせた審査基準・・・100万円
ⅲ)与信禁止基準・・・・・・・・年収額の3分の1に相当する金額意見(5)民事効について
さらに,実効性を確保するため,過剰与信違反について民事効を制定すべきである。具体的には,過剰与信と判断された与信については,割賦購入あっせん業者 がその返還を求めることができない規定を制定すること等が考えられる。現実の紛争の場面では,当該与信が過剰与信であるか否かの判断が問題となるが,この 点は,先に示した基準を超える与信については原則として過剰与信に該当するものとする一方,基準を超える与信について「過剰与信でないこと」の立証責任を 割賦購入あっせん業者に負わせる方法が妥当である。基準を超える与信については,割賦購入あっせん業者は必ず,購入者から返済能力を示す資料の提出を求め なければならないのであるから,適正な審査さえ行っていれば,その立証は容易であるものと考える。第5 法律の適用範囲の拡大
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1 意見
(1)規制対象となる割賦の定義
自社割賦販売については現行の要件である「2ヶ月以上かつ3回以上の割賦払い」を維持し,それ以外の取引については「2ヶ月以上かつ3回以上」の要件を廃止し,代金後払いの契約全体を適用対象とすべきである。
(2)指定商品制の見直し
自社割賦販売については現行の指定商品制を維持する。それ以外の取引については,指定商品制を廃止し原則として全ての商品等を適用対象とし,例外として適用対象外のものを定めるネガティブリスト方式を採用すべきである。
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2 理由
意見(1)規制対象となる割賦の定義について
割賦購入あっせん業者を含めた三者間契約では,通常の二当事者間の取引とは異なり,多くの問題が発生し,結果として購入者たる消費者が被害を受けることが 多々ある。その度ごとに割賦販売法の改正が行われているが,被害は一向に減少しない。特に近時の悪質販売業者においては,半年あるいは一年後の一括払い乃 至二回払いを勧めて,法の規制対象から逃れる事例が見受けられる。悪質な事業者であればあるほど,こうした法の不備を悪用する傾向にあり,規制の対象を拡 大すべきである。また,支払い期間においても,翌月一括払いを現金取引に類似するものと考え規制対象から除外することは妥当ではなく,翌月一括払いであっ ても多数当事者における複雑な法律関係が発生することも考慮し,当然にクレジット取引の一つとして,規制を及ぼすことが必要である。
一方,自社割賦販売では,現行の規制においても取引秩序の安定を図れていることから,現行の要件を維持することが相当である。
意見(2)指定商品制の見直しについて
現行の指定商品制においては,法の規制対象にないものを扱う被害事例が出てくる毎にその商品等を規制対象に加えているが,一向に被害は減少しない。また,悪質な事業者ともなると,指定対象外の商品等であると主張して,クーリング・オフを拒否する事例もみられる。
さらに,近時の経済や情報通信の高度な発展により,消費者に提供される商品やサービスは加速度的に多様化し,今まででは思いもよらない商品等が取引の対象となっていることが多々ある。
そ こで,クレジット取引において利用者である消費者の保護を第一に考慮しなければならないところ,現在の指定商品制においては後追い規制でしかないことは否 めず,悪質な事業者からの消費者の保護は十分とはいえない。そこで,自社割賦販売以外の取引については指定商品制を廃止し,原則全ての商品等を規制対象と するのが相当である。ただし,その場合に規制が過度となり社会経済に大きく影響を及ぼす商品等については,例外として適用対象外とするネガティブリスト方 式を採るべきである。
一方,自社割賦販売については,現行制度においてもその取引の秩序維持は図られているから,指定商品制を維持すべきである。第6 個品割賦購入あっせんにより訪問販売を行なう事業者の参入規制
個品割賦購入あっせんにより訪問販売を行なう事業者を登録制等により参入を規制し,これにより不適正な与信を防止しようとの意見があるが効果に疑問がある。この登録制を採用した場合には,悪質な訪問販売事業者がこれを利用し反って消費者被害を増大させかねない。
例えば,訪問販売を行なう事業者の登録制を採った場合には,悪質な事業者であればあるほど,登録された事業者であることを前面に打ち出すことは容易に想像 がつく。また,登録された事業者であることを知った消費者は,悪質な事業者であるにもかかわらず,登録された事業者であることから,この事業者が適正な事 業者であるとしてその事業者との取引を行なうことが考えられ,消費者被害を増大させる可能性がある。このことは,「消防署の方から来ました」「郵便局の方 から来ました」などの「かたり商法」などによって,多数の被害を発生させていることからも想像に難くない。