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意見書等
2007年(平成19年)08月03日
金融庁総務企画局企画課信用制度参事官室 御中
貸金業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令(案)に関するパブリックコメントについて
日本司法書士会連合会
日本司法書士会連合会は貸金業の規制等に関する法律施行規則の一部を改正する内閣府令(案)(以下,「貸金業法施行規則」という。)について,以下のとおり意見を述べる。
なお,以下において引用する条文は,改正府令第3条施行によるものである。第1.全体について
貸金業法施行規則の内容は新たな多重債務者の発生を抑止し,貸金業者の内部統制を実現する観点から妥当なものであると考える。第2.条文の内容若しくは運用上の問題と考える点について
1. 貸金業務取扱主任者資格試験(貸金業法施行規則26条の31)について
貸金業務取扱主任者資格試験の内容として資金需要者等の保護に関する事項が明確に試験内容とされたことは,現行の貸金業取扱主任者研修の受講内容と比較しても画期的なものと評価する。
現時点で「資金需要者等の保護に関する事項」の内容は明確ではないが,少なくとも,次の事項をその内容とすべきである。
(1) 家計管理に関する知識
(2) 事業者の財務分析,資金繰りの作成に関する知識
(3) 民事法律扶助制度に関する知識
(4) 生活保護法に関する知識
(5) カウンセリング機関の種類と特質2. 社内規則(貸金業法規則第5条の3の2)について
貸金業者には資金需要者等の利益の保護を図り,貸金業の適正な運営に資するため十分な社内規則を定めることが求められている。
そこで,貸金業者の登録を新規に行う貸金業者に対しては貸金業の業務に関する社内規則が必要的な添付書類とされた。
資金需要者等の利益の保護を図り,貸金業の適正な運営に資するため十分な社内規則を定めることは,既登録の貸金業者であっても必要な事項であり,既登録の貸金業者についても社内規則の有無,内容について確認を行う必要がある。
社内規則の有無,内容について貸金業登録の更新時に行うことも考えられるが,社内規則の内容の重要性に鑑みれば,改正府令第1条施行時に登録している貸金 業者については,社内規則の内容が資金需要者等の利益の保護を図り,貸金業の適正な運営に資するため十分なものかどうかを改正府令第1条施行後すみやかに 確認されるべきである。3. 総量規制の例外に関する規定について
(1) 貸金業法では,総量規制制度を定めることにより,多重債務者の新たな発生を防止しようとしている。
そこで,例外的に貸付が認められる「顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約」(貸金業法施行規則10条に22)は,厳格な要件のもとに,ごく少数に限定されなければならない。
万一,同条の規定が骨抜きになったり,安易な脱法を許すような規定ではあってはならないことは言うまでもない。
本条は多くの例外を返済能力があることを条件に認めているが,返済能力があるか否かの基準及び調査方法を具体的に定めない場合には,貸金業法13条の趣旨を骨抜きにしてしまうおそれが大きい。(2) 貸金業法施行規則10条の22第1項第6号に総量規制の例外として,資金使途を高額療養費の支払を目的とするものを規定している。資金使途を明らかにす る書類として同条第2項第6号に医療機関からの療養費の請求書又は見積書と規定しているが,以下の点で疑義がある。
本制度は高額療養費に該当する一部負担金の支払を資金使途するものであれば,総量規制の例外とする趣旨であると理解する。
健康保険法等で定めている高額療養費は,それぞれ高額療養費算定基準額を超えた場合に後日支給されるものである。その算定基準額は,たとえば70歳未満の 被保険者及び被扶養者については,上位所得者(療養月の標準報酬月額が56万円以上の者)一般市町村民税非課税者の区分によって,それぞれ基準額が異な り,それぞれの区分内でも一回限りと多数回該当者でも異なることになる。
それは70歳以上75歳未満でも異なり,長期疾病療養受給者についても,別の基準額が定められている。
資金使途を高額療養費に該当する一部負担金の支払いとするものを総量規制の例外とするには,請求を受けている療養費が高額療養費に該当するかどうかが書類 などから判明しなければならないと考えられるが,各ケースにおいてその基準額が違うため資金需要者がどの区分に該当するか,医療機関の請求書等だけではわ からないと思われる。
ところで,高額療養費に該当する場合でも,入院などの場合には「限度額適用認定書」を医療機関に提出すれば自己負担額が軽減されることから,その対象者には医療機関にその認定書を提出することを促せば,高額療養費の負担を要しなくなる。
上記のケースでは本規定により総量規制の例外として融資を受ける必要がなくなることから,総量規制の例外としての融資を認めるのではなく,まず,貸金業者 が資金需要者等に対し高額療養費の支払の免除を受けることが出来るかどうかを確認するよう助言することを求める必要があるのではないかと考える。(3) 同条同項同号ヘに「その他の療養費」が規定されているが,健康保険法などでは分娩費は療養費には含まれておらず,対象外になると考えられる。
この分娩費は医療機関に全額支払った後,請求して各保険者から出産育児一時金(家族出産育児一時金)として35万円の支給が受けられるが,実際には先に医 療機関に支払う分娩費が困難な者も多数存在することから,分娩費のために借入を望む資金需要者等もでてくると推測される。
そこで,「その他の療養費」について,分娩費を始めてとして入院準備のための費用が含まれるか等の疑問が生じることから,総量規制の脱法行為を許さないためにも,なにが療養費なのか明確な基準を示す必要があるものと考える。
また,「その他の療養費」の支払のための貸付けを総量規制の例外とする場合には,その借入の有無等を指定信用情報機関において登録する制度を設ける必要がある。(4) 貸金業施行規則第10条の22第1項8号及び9号については,連帯保証人をつけない場合(根保証の場合は,保証範囲から除外するものとする)及び低利の場合(例えば年7.5%未満)に限ると規定するべきである。
第1に,2000年ころ,多数の連帯保証人を付して顧客の返済能力を無視した貸付が横行し,過剰融資が問題になったのは,事業者相手に融資を行ういわゆる 商工ローンであった。したがって,事業主であるからといって個人過剰融資の例外を安易に認めるべきではない。特に本号の規定のロ「当該個人顧客の事業計 画,収支計画及び資金計画に照らし,当該個人顧客の返済能力を超えない貸付に係る契約であると認められる場合」という返済能力の判断基準は,極めて曖昧で あり,要件として実際に機能させることは困難である。
しかし,仮に連帯保証人をつけない場合に限定するのであれば,上記規定の遵守が一定程度担 保されると考えられる。また,真に上記基準を満たす貸付に係る契約にあっては,そもそも保証契約締結の必要性が乏しく,連帯保証人をつけない場合に限定す ることにより弊害が発生するとは考えがたい。
第2に,一方で,事業者には,事業者ではない個人と異なる緊急の資金需要があることは否めない。
し かし,10%を超える利率の貸付を年収の3分の1を超えて融資を受けた場合に元本の完済に至るのは容易ではない。貸金業制度に関する懇談会で提出された資 料では事業者が返済を継続しても黒字になる分岐点は融資が年10%程度であるとしている。そこで,保証人を巻き込む破綻(主債務者の自殺につながりかねな い)の危険のある融資は少なくとも排除すべきであるし,貸付の利率をより低い利率に定めるなどの規制をすべきである。例えば,貸金業施行規則案第5条の3 では,NPO法人の最低資本金額除外要件として,金利が7.5%であることが条件とされているが,この規定を参考にすべきである。4. 契約締結時等の書面交付について
(1) 貸金業法施行規則第12条の2で定める貸金業法16条の2第3項6号の記載事項としては,貸金業者が知り得た債務者の当該業者以外に対する債務総額,消 費貸借契約に関する債務不履行の事実の有無及び当該業者が当該債務者の返済能力を調査する上で知り得たその他の事項を加えるべきである。
貸金業法16条の2第3項は,保証人を保護する趣旨で,貸金業者に対して保証契約に先立ち書面を交付する義務を課している。貸金業法施行規則12条の2第5項は,同条1項6号の記載事項等を定めるものである。
貸金業法は,同時に貸金業者に対して顧客の返済能力を調査する義務を課しており,主債務者の債務状況を知り得る状態にある。とすれば,この顧客の資力状況 は,主債務者の不履行の場合にもっとも影響を受ける保証人に提供されるのが公平である。むしろ,返済能力に問題があるにもかかわらずこれを秘して保証契約 を締結させるのは詐欺性が強い。
そこで,同規則には,顧客の返済能力について特に重要な事項についてはこれを記載し,明らかにすべきである。主債務者が委託して保証人が保証契約を締結する場合には,これらの事項の秘密性よりも保証人の知る利益の方が勝るのは明らかである。
また,貸金業法12条の6では,保証人となろうとする者に対し,主たる債務者が弁済することが確実であると誤解される恐れのあることを告げる行為(3 号),その他,偽りその他不正又は著しく不当な行為(4号)が禁止行為とされていることからも,貸金業者による情報の開示は正当化される。(2) 貸金業施行規則第10条の22第1項8号及び9号については,連帯保証人をつけない場合及び低利の場合に限ると規定すべきことは,前記3.(4)におい て述べたとおりであるが,貸金業施行規則第12条の2で定める貸金業法16条の2第3項6号の記載事項として,「主債務が貸金業法施行規則第10条の22 第1項8号及び9号に該当する貸付である旨」を追加すべきである。
保証人に対して,総量規制の例外に基づく貸付である旨を周知徹底させなければ,保証人が不測の損害を被る事態が発生しかねない。日本工業規格Z8305に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いて明瞭かつ正確に記載がなされるよう義務づけるべきである。(3) 貸金業法施行規則13条1項(改正府令第3条)では,記載事項として「将来支払う返済金額の合計額」(13条1項1号タ)が追加されている。しかし,こ の記載事項については,新たな多重債務者の発生を抑止する観点からすれば,利息の額が利息制限法第1条第1項に定める利息の制限を超える契約にこそ,その 記載が求められるものである。
したがって,当該記載事項については,改正府令第1条の施行から記載事項として追加されるべきである。
なお,その場合には,借主に負担しようとしている利息債務の重さを明確に認識させる機会を確保するため,利息制限法第1条第1項に規定する利率により算出した「将来支払う返済金額の合計額」を併記させるべきである。(4) 貸金業法施行規則第13条3項(改正府令第3条)では,記載事項として「貸金業者が,極度方式基本契約に定める極度額を一回貸付けることその他の必要な 仮定を置き,当該仮定に基づいた将来支払う返済金額の合計額,返済期間及び返済回数並びに当該仮定」(13条3項1号ヨ)が追加されている。
しかし,この記載事項については,新たな多重債務者の発生を抑止する観点からすれば,利息の額が利息制限法第1条第1項に定める利息の制限を超える契約にこそ,その記載が求められるものである。
したがって,当該記載事項については,改正府令第1条の施行から記載事項として追加されるべきである。
なお,その場合には,借主に負担しようとしている利息債務の重さを明確に認識させる機会を確保するため,利息制限法第1条第1項に規定する利率により算出した場合の「将来支払う返済金額の合計額,返済期間及び返済回数」を併記させるべきである。(5) 貸金業法施行規則13条1項1号イ(改正府令第3条)では契約締結時の契約書面の記載事項として,「貸金業者の登録番号(極度方式貸付けに係る契約で あって当該契約で定める利息の額が旧利息制限法第1条第1項に定める利息の制限額を超えないものを締結するときは,記載を省略することができる。)」とし ている。
しかしながら,改正府令第3条の施行日時点(改正法第4条の規定の施行の日)においては,利息の額が旧利息制限法第1条第1項に定める 利息の制限を超える契約を締結することは禁止されているはずであり,そうであれば,違法な契約(利息制限法(現行を含む。)所定の利率を超過する利息契 約)を締結することが原則であるかのような表現は妥当ではない。このような表現が随所にみられるので修正されるべきである。5. 指定信用情報機関について
(1) 貸金業施行規則28条2項において,貸金業法41条の13第1項5号に規定する内閣府令で定めるとされている基準が定められている。
法改正段階での検討事項において指定信用情報機関は,貸付情報のリアルタイム登録や名寄せできる状態で管理していることを要することなどが要件としてあがっていた。
指定信用情報機関の規模を定めるにあたり,リアルタイム登録や名寄せが実効性ある方法で運営されることを担保する要件を定める必要があるものと考える。(2) 貸金業法施行規則30条の13に定める個人信用情報に含まれる事項は,現行の信用情報機関が保有する情報に比べて限定されているものと考えられる。
例えば入金日や完済日などが典型例であるが,これらは信用調査においても無駄な情報とは思えず,情報が保有されている当人にとっても有用な情報と考えられる。
そこで,個人信用情報に含まれる事項を検討するにあたり,資金需要者等の視点も加味して,現行の信用情報機関が保有する情報の中で有用なものがあれば,新たに付け加える必要があるものと考える。(3) 貸金業法施行規則30条の13の個人信用情報に含まれる事項は,いわゆる総量規制のために設けられていると思われるが,総量規制の例外に該当する貸付と総量規制に該当する貸付とを分けて管理しなければ,正確な判断が出来ないものと考えられる。
総量規制の例外に該当する貸付の場合は,その旨を本条の個人信用情報に含まれる事項に加えた方がよいと考えられる。但し貸金業法施行規則10条の22第1 項5号の貸付については,現に締結している貸付けを弁済した後は総量規制に該当する貸付けとして扱うべきで,総量規制の例外に該当する貸付と扱うべきでは ないと考える。