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意見書等
2012年(平成24年)03月06日
東京電力株式会社 御中
原発事故被害者に対する損害賠償手続に関する要望書
日本司法書士会連合会
会長 細 田 長 司日本司法書士会連合会は、福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故の被害者に対する迅速かつ適正な救済を求めるため、貴社の実施している賠償金の支払いについて、以下のとおり要望する。
Ⅰ.各損害に共通の考え方及び運用についてⅠ-1.迅速な賠償金の支払いについて
貴社は、本件事故によって生じた財物価値の喪失又は減少について、被害者の要望を踏まえて早急な対応を行い、迅速に賠償金の支払いを行うよう求める。Ⅰ-2.一部請求及び一部合意について
請求書及び案内については、一部の損害項目のみについての請求や、一部の損害項目のみについての合意に対応した書式に改めるよう求める。被害者が損害項目の全部についての賠償額に納得できない場合においても、争いのない損害項目のみの請求や、損害項目ごとの合意に基づく賠償が迅速に行われるべきである。この点、平成23年12月2日より発送されている『賠償金ご請求の解説』には、「ご請求にあたっては、一部の賠償項目のみのご請求も受付をしております。」(3頁)との記載がなされているが、より簡潔に分かりやすく、一部の損害項目のみの請求又は合意に対応することを明示した書式に改めるべきである。Ⅰ-3.紛争解決機関の案内について
被害者に対して、原子力損害賠償紛争解決支援センター等の利用についての案内を行うよう求める。被害者が、貴社から提示を受けた賠償額の算定内容に納得できない場合には、原子力損害賠償紛争解決支援センターやその他のADR機関を利用し又は裁判手続きにより解決を図る手段が残されているところ、請求書及び案内においてはこれが明示されていない。被害者においてこれらの機関を利用するかどうかについて自由な選択ができるよう、賠償金の支払いまでの手続きの全ての段階において、貴社の算定内容の全部又は一部について納得できない場合にはADR機関等による紛争解決もある旨を明示し、十分に案内を行うよう求める。なお、原子力損害賠償紛争解決支援センターによる紛争解決に際しては、提示された和解案を最大限尊重するよう求める。Ⅰ-4.中間指針で示されていない損害項目についての賠償について
中間指針で示された損害賠償の基準は、類型化された最低限の基準であることを踏まえ、これに記載されていない損害項目についても、相当因果関係が認められる限り、迅速に賠償を行うよう求める。原子力損害賠償紛争審査会による平成23年8月5日付中間指針及び同年12月6日付中間指針追補(以下、両者を併せて単に「中間指針」という。)で示された損害賠償の基準は、被害者個々人の具体的な事情を捨象したうえで、一定の類型化が可能な損害項目についての損害賠償の基準を示したものであり、言わば「最低限の基準」を示したものである。貴社は、その趣旨を踏まえ、中間指針で示されていない損害項目についても、相当因果関係が認められる限り、迅速に賠償を行うよう求める。Ⅰ-5.領収書等の原本の返却について
被害者が請求書とともに提出した領収書や証明書の原本については、全て原本を返却するよう求める。貴社は、請求書の送付の際に、あわせて領収書や証明書の原本を提出するよう求めているところ、これらの文書は被害者において後日に使用し、又は訴訟手続等に至った場合に証拠として提出する必要性があるものである。したがって、被害者に対し、全ての領収書や証明書等の原本を返却するよう求める。Ⅰ-6.損益相殺について
本件事故を起因とする損害賠償額の損益相殺については、制限的に解釈すべきであり、誤解を与えるような案内の記載は改善されるべきである。前掲『賠償金ご請求の解説』には、「各種社会立法で制定されている給付金又は補助金を「本件事故」を原因として受け取られた方につきましては、その金額を賠償額から控除させていただきますことをご容赦ください」(25頁)と記載されているところ、中間指針で示されているとおり、各種給付金との損益相殺については極めて制限的に解釈するべきであり、被害者に誤解を与え又は被害者に請求を躊躇させるような案内の記載は改善されるべきである。Ⅰ-7.損害の算定根拠の開示について
貴社が被害者に回答する『お支払い明細書』に関し、各損害の算定額の根拠を具体的に明らかにするよう求める。貴社は、『お支払い明細書』により損害の算定額を被害者に回答しているところ、これには損害の項目ごとの金額のみが記載されており、その具体的な算定根拠が明らかにされていない。また、被害者が個別に問い合わせた場合にも、書面による回答がなされていない。そのため、現状においては、請求書の内容と『お支払い明細書』の金額が相違する場合に、具体的にどの損害について貴社が算定し、どの損害について算定しなかったのか不明のままである。被害者が貴社の算定内容を確実に知り、これに合意するか或いは原子力損害賠償紛争解決支援センター等を利用すべきかどうかの判断を合理的に行えるよう、損害の項目ごとの金額のみならず、その算定根拠も具体的に明らかにするよう求める。
Ⅱ.各損害項目について
Ⅱ-1.避難費用について
(1)親族宅へ避難した場合の避難費用については、その場合にも相当な経済的負担があったことは明らかであるから、賠償を認めるよう求める。(2)家財道具等の移動費用については、累計で10回分に制限されるかのような請求書及び案内の記載は改善されるべきである。Ⅱ-2.一時立ち入り費用について
一時立ち入り費用については、1月あたり1回分に制限されるかのような請求書及び案内の記載は改善されるべきである。Ⅱ-3.生命・身体的損害について
(1)本件事故と生命・身体的損害の因果関係については、関連性がないことが明らかな場合を除き、広く賠償を認めるよう求める。(2)貴社所定の「承諾書」については、必要性が認められないので、提出を求めないよう求める。貴社は、被害者に「指定診断書」等を提出させることにより本件事故との因果関係の立証を求めているが、病状の悪化や死亡に関しては様々な原因が競合し確定的に因果関係を立証することが困難であることが予想されることから、本件事故と関連性がないことが明らかである場合を除き、広く賠償を認めるよう求める。また、請求書及び案内においても、本件事故に「関連して」死亡し、発症し又は病状が悪化した場合には賠償を認める旨を明記し、被害者に請求を躊躇させることのないよう改善するべきである。また、損害額が累計で20万円を超過する場合には、指定診断書とともにカルテを含む全ての診療記録の開示・提供を承諾する旨の「承諾書」を事前に提出することを求めているが、診断書等の内容に疑義が生じた場合には、被害者の同意を取り付けたうえで個々に問い合わせを行えば済むはずであり、このような承諾書を事前に提出させる必要性は認められない。また、後日に訴訟等に至る可能性があることを踏まえると、当該承諾書を対立当事者である貴社に対して提出させることは著しく不合理である。したがって、所定の承諾書については提出を求めないよう求める。Ⅱ-4.精神的損害について
避難区域等の指定の解除があった場合にも、原発事故被害者が従前の生活を回復するまでには様々な困難が予想され、精神的苦痛が一定期間継続するものと考えられることから、精神的損害の賠償終期については、慎重に判断することを求める。精神的損害の賠償対象期間に関し、中間指針は、「終期については、避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は、特段の事情のある場合を除き、賠償の対象とはならない。」と示している。この点、避難区域等の指定の解除又は指定の変更があった場合にも、被害者が従前の生活を回復するまでには様々な困難が予想され、精神的苦痛が一定期間継続するものと考えられる。したがって、避難区域等の指定の解除又は変更によっても直ちに賠償終期とすることのないよう、慎重な対応を求める。Ⅱ-5.就労不能損害について
(1)就労不能損害の賠償については、個人の生活基盤を支える収入であることを踏まえ、特に迅速に賠償金の支払いをするよう求める。(2)賠償終期については、福島県内の社会経済状況(特に雇用情勢)を踏まえ、慎重に対応するよう求める。(3)本件事故に起因した減収や就労不能に関しては、貴社が第一義的な責任を有することを十分に自覚して、被害者の救済にあたるよう求める。Ⅱ-6.その他の請求項目に関する情報開示について
その他の請求項目に関する賠償について、迅速かつ十分な情報開示を求める。その他の請求項目に関する賠償について、現在までに貴社のホームページ等で公開されている情報はごく僅かである。被害者にとって大きな関心事であるその他の請求項目の具体例については、可能な限り迅速にかつ分かりやすい形において情報開示を行うことを強く求める。Ⅲ.「自主的避難」等に係る損害についてⅢ-1.「自主避難者」に対する賠償について
避難指示地域外からの「自主避難者」に対する賠償については、原子力損害賠償紛争審査会における指針を踏まえ、直ちに賠償を開始するよう求める。また、被害者が全国各地に避難している現状に鑑み、避難費用の賠償を行うよう求める。以上