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意見書等
2003年(平成15年)02月24日
オンライン登記申請制度研究会 御中
オンライン登記申請制度の概要(試案)に対する意見
日本司法書士会連合会
会長 北 野 聖 造平成14年12月26日付をもって求められた「オンライン登記申請制度の概要(試案)」に対する意見について、日本司法書士会連合会は以下のとおり意見表明いたします。
第1 権利に関する登記
1
(1)郵送申請について〔1(3)(4)〕
<意 見>
認めない。〔理 由〕
郵送申請を認めることは、現行制度の出頭主義を廃止することであるが、その果たす機能等についての検討を経ることなくこれを廃止することは妥当ではない。
出頭主義には次の機能があるとされる。(1) 本人確認及び申請意思の確認が可能であり登記の真正を担保すること。
(2) 即日補正の機会を与えて順位確保の便宜を与えること。
(3) 郵送を認めると受付順位の決定の不便をきたすこと。
(4) 即日補正を容易にすること(よって、少なくとも意思能力のある者の出頭が必要)。
(5) 登記済証等の郵送の労を省き得ること。我が国における出頭主義に対する消極的評価は、出頭主義が自己完結性のないところに由来するものであるが、一方で、フランスのようにそれに代替する真正担 保手段がわが国でとられているものではない。現行制度においては、確かに登記官が直接本人確認をしていないが、登記所に出向いて申請する必要があることか ら、真正でない登記を申請する者に対しては、そのこと自体に一定の精神的抑止効果がある。
登記所への出頭は、登記官から申請人への様々な発問の機会があることを意味し、犯罪発生抑止の一定の効果の存在を見出すことができる。実際、金融機関においては来訪者への声掛けがマニュアル化されており、一定の心理的効果があると考えられている。
郵送申請における順位確保の不確実さや、郵送時の事故のおそれなどの危険性について利用者に知らせた上で、これを承諾する者に自己責任として郵送申請を認 めることが、申請人に便宜を供するメニューとして必要ではないかとの考え方もできる。しかし、郵便事故や受領の有無についての水掛け論のおそれから見て、 かかる中途半端な制度を設けるべきではないと考える。
また、郵送申請を実施したとしても、司法書士が代理人としてこれを利用する機会は非常に少ないものと考えられる。(2)磁気ディスクを用いた申請〔1(5)〕
<意 見>
反対する。〔理 由〕
単なる文書ファイルを磁気ディスクとするなら、その作成名義をどのように確保するのか。オンライン申請と同じ程度の情報を磁気ディスクに入れて申請する こととすると、法務省総合受付窓口を通さずに申請することを認めるのか。どのような方式を想定しているか明確ではないが、いずれにしろ、そのための新たな システムを作る必要が生じることになり不都合である。(3)登録免許税の納付方法等について〔1(6)〕
<意 見>
登録免許税の納付は、校合段階までとしたうえで、歳入金電子納付システムによることに賛成する。(ただし、連合会では登記における登録免許税納付自体につ いて、これを手数料制に移行すべきであるとの考えをもっており、そのための働きかけを行っているものである 。連合会意見は、登記において現行の登録免許税制度を前提とした場合の意見であり、登記について登録免許税制度を廃止すべきとする考えを改めるものではな い。)〔理 由〕
現行申請制度のように完全な申請前決済が維持できるかによるが、仮に「法務省総合受付窓口」で公的個人認証 の有効性確認をし、「登記識別記号」の有効性確認の後に決済をすることになる可能性がある。よって、納付期限を少なくとも「登記識別記号」の有効性確認後 とすべきである。2
共同申請主義について〔2(7)〕<意 見>
賛成する。〔理 由〕
共同申請構造を維持することにより、登記義務者と代理人との接点を従来どおり確保し、直接義務者の意思確認をすることができるように万全を期すべきであると考える。3
(1)オンライン申請における受付について〔3(8)〕<意 見>
賛成する。但し、アクセスから到達確認までの時間短縮に万全を期すべきである。(2)窓口申請の受付時点について〔3(9)〕
<意 見>
現時点では妥当と考える。〔理 由〕
複数系統での申請制度を認める以上、一定のところで割り切らなければならないものと考えるが、現時点ではかかる方法がオンライン申請及び申請書による申請双方に極端に不利益な扱いとならないという点で、やむを得ないと考える。(3)郵送申請の受付について〔3(10)〕
<意 見>
郵送受付は一切認めるべきではない。〔理 由〕
オンライン申請を実施しようとする時に、他の新たな申請形態を認めることは、利用者に無用の混乱を招きかねない。4
(1)登記済証の廃止について〔4(11)〕<意 見>
オンライン申請における本人確認制度が整備されることを条件として、賛成する。 但し、特に所有権取得の登記済証が、一般国民にとって不動産上の権利保 有を実感するよりどころとしてとらえられている実情があることから、直ちに廃止することは、その与える精神的影響が大きすぎる。したがって、当面は併存す る方法も検討すべきものと考える。〔理 由〕
オンライン申請においては現行の登記済証制度(不動産登記法第60条)が維持されないことは当然のことである。
「概要」は、オンライン申請の導入に伴い登記済証の制度を廃止して、登記完了時に登記権利者に「登記識別記号」を交付する制度を導入するものとする。し かし、かかる「登記識別記号」は、現行の登記済証と異なり物理的な存在ではないため、唯一性がなく、保管の確実性にも疑問がある。連合会ではこの登記識別 記号を登記名義人が有する資料の一つとすることには賛成するが、これのみでは登記名義人本人の確認には足りないものと考える。「登記識別記号」が現行の登 記済証に代替するものとは到底考えられない。よって、この「登記識別記号」に何らかの実質的本人確認方策を加える必要があるものと考える。(2)「登記識別記号」の方法について〔4(12)〕
<意 見>
「登記識別記号」の方式の利用自体については賛成するが、登記済証に代わる方法としては十分でないため、実質的本人確認方法を合わせて実施すべきである。 また、「登記識別記号」には、これにパスワードもしくは暗証番号を付すこととして、登記名義人との繋がりを付ける方策をとるべきである。なお、「登記識別 記号」を複製不可能なICカードやスマートカードに格納する方法や、その際に当事者や不動産特定の情報も付加することを検討すべきであるとの意見もあっ た。〔理 由〕
「登記識別記号」は、登記事項(函)ごと、登記権利者ごとに登記所において付する複数の記号(例えば、英数 字)を組み合わせたものとする点については、現行の受付番号と同様の制度であり、ことさら反対する理由はない。登記権利者が複数である場合(例えば共有の 場合)には、各登記権利者に異なる「登記識別記号」を交付するものとすることは、権利者における「登記識別記号」の管理の点から、これに賛成する。
「登記識別記号」は、その交付を受けた者の自己責任において保管管理することを前提としている。しかし、交付されたデータは、受領した媒体やコン ピュータ自体に残存し、消去の操作をしても一定の条件でこれを読みとることが可能である。しかも、最近広く利用されるようになったインターネットの常時接 続は、外部からの進入の危険を増大させている。また、「登記識別記号」が現行の登記済証と異なり物理的存在でないところから、他人に盗み取られてもその認 識ができないことが多い。したがって、(1)で述べたように、これを現在の登記済証と同程度の代替物ととらえることはできない。そのため、 連合会ではこれに実質的確認方策を付加すべきであると考える。
加えて、この「登記識別記号」自体についても、何らかのセキュリティーを高めるとともに、「登記識別記号」と登記名義人との繋がりをつけるため、登記権利者が申し出るパスワードか暗証番号を付す方法をさらに検討すべきではないかと考える。
なお、むしろ現行の登記済証と同等の代替物とするために、「登記識別記号」に当事者や目的不動産の情報を付加して、複製不可能なICカードやスマート カードに格納して交付するようにすべきとする意見もあった。かかる格納方法については、相当早い時点でのコストダウンが期待できるとの意見もあった。一方 で技術的依存度が高すぎるとの意見もあった。(3)登記識別記号の登記所からの交付方法について〔4(13)〕
<意 見>
オンライン申請における交付方法については賛成する。ただし、申請代理人(特に資格者による代理人)によるダウンロードを認めるべきである。申請書による 窓口申請の場合にはかかる方法もやむを得ない。ただし、仮に郵送申請が認められた場合にはどのように交付するのか不明である。
なお、「登記識別記号」をICカードやスマートカードなどに格納して交付すべきとの意見もあった。〔理 由〕
オンライン申請の場合、「登記識別記号」の登記権利者への交付はオンラインにより行うものとし、登記権利者本人が当該「登記識別記号」の内容を知ることが できるような措置(登記権利者本人の公開鍵により暗号化する措置等)を講ずるものとされるが、登記所のサイトから登記権利者が受領するまでのセキュリ ティー確保の点で妥当であると考えられる。また、資格者代理人による申請の場合には、その代理人においてこれを受領できるようにすべきである。代理人とし て職務を尽くすために必要であり、資格者には守秘義務があるほか、職務上の義務と責任があることから、権利者本人の受領と同視できるからである。(4)「登記識別記号」の認証について〔4(14)〕
<意 見>
賛成する〔理 由〕
オンラインで交付される「登記識別記号」には登記官の電子署名を、書面で交付される「登記識別記号」には登記官の認証文を、それぞれ付すものとする点に ついては、登記権利者および代理人が「登記識別記号」を受領する際に作成名義が受領者において明らかとなる点で賛成できる。(5)権利の一部移転の登記の場合等における「登記識別記号」の扱いについて
〔4(15)〕<意 見>
賛成する〔理 由〕
権利の一部移転や抵当権設定の登記の場合においても、登記義務者の「登記識別記号」は従前のものをそのまま維持するものとする(新たな「登記識別記号」を 交付しない)点については、担保権が時間的に接近して設定される場合や、住宅等の分譲販売などの場合を考え、賛成する。(6)「登記識別記号」の提供による申請について〔4(16)〕
<意 見>
「登記識別記号」に実質的な確認方策を付加すべきであり、同記号のみで現行の登記済証に代えることには反対する。〔理 由〕
登記権利者が登記義務者となって行う、以後の登記申請の際に、現在の登記申請の添付書面となる「登記義務者の権利に関する登記済証」(不動産登記法第35 条第1項第3号)に代えて、「登記識別記号」を提供させることにより、登記に真実性を担保するものとすることについては、これに加えて実質的な本人確認方 策を講じるべきである。 その方法については、別紙で対案を提案する。(7)「登記識別記号」の登記所に対する提供方法について〔4(17)〕
<意 見>
資格者の代理人により暗号化または窓口での打ち込みまたは封入ができる方策を講じることとしたうえで賛成する。〔理 由〕
「登記識別記号」を提供して申請する場合に、登記義務者以外の者に「登記識別記号」が知られないような措置を採ること自体には賛成する。また、資格者が代 理人となる場合は、かかる代理人自身が暗号化でき、または窓口での打ち込みができる方策が必要である。資格者には守秘義務のほか職務上の職責があることか ら係る処置を認めることができると考える。(8)「登記識別記号」を失念した場合の登記申請について〔4(18)〕
<意 見>
後記5の確認手続について、「対案」を採用することを前提に賛成する。後述のように再発行制度には反対する。〔理 由〕
「登記識別記号」を失念した場合には、現行の保証書制度に代え、一定の本人確認手続を経ることにより、登記の申請をすることができるものとする必要がある。再発行制度(後記4-2)は後述のとおり認めるべきではない。(9)窓口申請における扱いについて〔4(19)〕
<意 見>
オンライン申請同様の本人確認制度(前記(1)〔3(8)〕)が整備されることを条件として賛成する。〔理 由〕
窓口申請の場合にも、オンライン申請と同様「登記識別記号」を交付することについては、窓口申請で登記名義人となった者が登記申請する場合にも、オンライ ン申請を利用でき、また反対に、オンライン申請で登記名義人になった者が登記申請する場合にも窓口申請ができるようにするために必要な措置と考える。ただ し、窓口申請で「登記識別記号」を採用することは、オンライン申請の場合と同様、本人確認としては足りない。よって、オンライン申請の場合と同様の実質的 本人確認方策を加える必要があると考える。
「従前の登記済証の添付により窓口申請があった場合には,現行法の例による」とすることについては、全てを「登記識別記号」に切り替えることが不都合であることや、全ての場合を一定の本人確認手続に付することの困難さから、やむを得ない処置と考える。(10)登記済証の「登記識別記号」への切替えについて〔4(20)〕
<意 見>
なお検討すべき。〔理 由〕
登記名義人が登記済証を提出して申し出た場合の「登記識別記号」への切替えについては、登記済証の提出だけでは足りず、他の本人確認方策が必要と考える が、持ち込まれた登記済証が盗取されたものでないことの確認など、本人確認の方法についてオンライン登記申請制度研究会での検討がされていないことから、 なお検討すべきものと考える。(11)登記完了通知の制度の創設について 〔4(21)〕
<意 見>
賛成する。
〔理 由〕
申請人又は代理人に対する登記完了通知の制度を別に設けるものとする点については、登記の受理と完了とが明確となる点で、また登記義務者に対する登記完了 通知は、過誤登記がなされた場合に、所有権登記名義人において司法的救済の機会が与えられることとなり、現行の事後通知と同一の効果が期待できることから 賛成する。具体的方法についてはなお検討すべきであり、特に登記義務者に対する通知は、「概要」5(31)の新たな事前通知制度におけるのと同じように、 登記簿上明らかな過去1年内の登記名義人の住所に宛てて発送すべきであると考える。4-1
(1)「登記識別記号」の失効制度について 〔4-1(22)〕<意 見>
賛成する。〔理 由〕
「登記識別記号」の管理の困難さ(前記3.(2)〔4(12)〕)から、登記名義人に、「登記識別記号」のコピーや盗取を回避するための選択肢を設ける必要性は認められると考える。(2)「登記識別記号」の不発行について 〔4-1(23)〕
<意 見>
反対する。〔理 由〕
この制度を設けると、登記済証の代替策として本人確認の重要な資料とされる「登記識別記号」の制度自体が任意のものとなり、その有用性に疑問が生じることとなる。
「登記識別記号」は、必ず発行されることに重要な意味があり、失効制度は受領した「登記識別記号」の管理方法の一つであるから、不発行の場合と意味合いが異なるのである。4-2
「登記識別記号」の再発行及び新規発行について〔4-2(24)(25)(26)〕<意 見>
認めないものとすべきである。〔理 由〕
「概要」(24)に述べられている根拠(「登記識別記号」は、これがなくても登記申請が可能であるから、再発行を認める必要はないこと、仮に再発行を認め るときの手続は、「登記識別記号」の提供がない登記申請の場合と同じ手続を設けることになるので、登記申請の場面と切り離してこのような本人確認制度を設 ける必要はないと考えられる。)のほか、登記申請手続において交付された資料を持参した者が本人である蓋然性が高いという「登記識別記号」の信頼性が、再 発行の際になされる本人確認によって減殺されるからである。かかる制度が実施されると、登記申請に当たっては、再発行された「登記識別記号」を提供した者 が、「登記識別記号」がない場合の本人確認を受けた者であろうとの推測の上に、かかる「登記識別記号」として前の登記申請時の権利者と同一であるとの推測 をして登記がなされることになる。「登記識別記号」が本人確認の材料であるにかかわらず、本人の推定に推定が重なることになり、不正確さを増していくこと になる。また、登記完了の際に一度だけ交付されるものではなくなるため、資格者代理人においては、常に「登記識別記号」がない場合と同程度の確認作業を要 することとなるのであり、かかる「登記識別記号」は登記申請の際の添付資料にすぎないものとして扱わざるを得ないこととなる。
「登記識別記号」の新規発行等についても同様の理由から反対する。4-3
(1)登記識別記号の有効性確認制度の要否について〔4-3(23)〕<意 見>
有効性確認制度を採用すべきである。〔理 由〕
現在の登記実務では、特に司法書士等の資格者が代理人である場合、登記原因関係や本人確認のほかに、手続き上の問題として、提供されている資料で登記が受 理されるかどうかの予見を求められる。現行登記済証は、物理的に存在するため実見でき、かつそこに付された受付番号は登記簿上の記載と照合することが可能 である。また、職務経験からその登記済証が真正であるかについても相当程度の確度で識別が可能である。これに対して「登記識別記号」は登記済証のような情 報を持たない、単なる記号の羅列であるため、識別や判断は不可能である。現在の取引実務がかかる予見を前提に成り立っている以上、登記申請前に「登記識別 記号」の有効性判断が可能である必要がある。
確認のための手数料については、制度運営上の受益者負担のため必要最小限のものとしてやむを得ないものと考える。(2)「登記識別記号」の提供を要しない登記申請の範囲について〔4-3(29)〕
<意 見>
「登記識別記号」の提供を要しない登記を認めることについては賛成するが、その範囲についてはなお検討すべきである。〔理 由〕
不動産登記の内容を整理して、対抗要件ではない登記や直接権利関係の変動を内容としない登記については、「登記識別記号」等の本人確認方策を付することな く登記申請できる制度を認めることは、オンライン申請制度の契機である申請の簡素化に繋がるものとして賛成するが、どの登記がこれに当たるかについてはな お検討をする必要がある。5
<意 見>
別紙「対案」のとおりとする。6
登記原因を証するに足りる情報を提供することについて〔6(39)(40)〕<意 見>
賛成する。但し、オンライン申請を可能とする登記所に限定せず、全ての登記所に適用すべきである。〔理 由〕
「不動産登記法改正(日司連素案)」等で、登記原因証書の実質化と必要的添付書面化をかねてから主張していたところであり、賛成する。「概要」では原因事 実を直接証明できる情報(処分証書)を、「登記原因を証するに足りる情報」の原則とするが、一方で代理人や当事者の報告をもこの情報として認めるため、従 来司法書士が行ってきた「実体確認」と同価値の執務処理ができる。また、この情報が登記所の保管資料となることから、現行法に比較して登記の真実性確保の 制度としてばかりではなく、権原調査の資料としても位置づけられると考える。
「登記原因を証するに足りる情報」の内容については、「概要」に記載してある情報は最小限必要なものと考えるが、申請人や実務に加重とならない範囲で、必要十分であるかなお検討すべきである。7
登記官の調査権限について〔7(41)(42)〕<意 見>
かかる審査権限を法制度として明文化することに反対する。
〔理 由〕
登記官がその有する審査権の範囲で様々な調査を行うことは当然であり、これまでも行ってきたことで、これからも行うことができることに変わりはない。
しかし、調査の対象が本人確認に限定されていても、照会では調査権の行使要件が不明確であり、その方法が無限定であることから、具体的な調査方法は登記 官の裁量に任されることになる。また、実際の運用では、事実上本人確認以外の調査に及ぶ可能性がある。つまり、登記官が調査権限を行使する際には、当該登 記の原因や申請人の意思と全く無関係で行うことは困難であり、調査の過程で本人の意思確認や法律行為の有効性などの情報を感得する可能性がある。その場合 であっても本人確認の部分に調査を止めることができるのか疑問がある。登記義務者の申述により、登記官において登記原因等に疑問が生じたときに、どのよう な処分をするのだろうか。登記官は、登記原因を証する情報等により登記原因についても審査権限があるが、それが無限定な調査に及んでしまうと、登記申請が 対価的給付として行われる取引実務に大きな影響が生じ、登記申請制度の実務上の意義に関わる問題となるおそれがある。登記原因や申請意思については、申請 事項、登記原因証書や委任状という申請情報の中でのみ審査されるべきであり、たとえば心変わりをした登記義務者に対する調査をもって却下等の処分がされる べきではない。この点、登記申請後に審査する登記官と、登記申請前に確認をする代理人とは異なる。
事実上ではあっても、登記原因や登記申請意思にまで調査対象が及ぶとすると、現在の登記制度の性格が大きく変わり、取引実務における登記制度の存在意義が 失われるおそれがある。登記手続利用者の側から見れば、添付する資料が真正なものであれば登記は受理されるということから、登記完了の予測をたてて取引を 行うという実務があり、相当程度の信頼性をもって予測して取引を行う。しかし、かかる調査権限の制度化は、「登記の受理」にさらに不確定な要素を増やすこ ととなり、現行経済取引に大きな影響を及ぼすこととなる。
また、ここで考えられている調査権限は、不受理の申出がなされた場合などが想定されていると思われるが、かかる調査権限を明確化することで申出が濫用されるおそれもある。第2 表示に関する登記
略